無意識の招き手


ニ・アケリアに行くと、分史世界とは違って村はのんびりと平穏な空気で、人々は生き生きと動物の世話をしたり立ち話をしている

これが正史のニ・アケリアか……そう思っていると、村の奥からジュードとローエン、エリーゼが来た




「ルドガー!」

「リルも来てくれていたんですね」

「突然、正史世界に戻ってビックリしましたよ」




そう話していると、私達の後からきたミラを見てすごく驚いた……特にジュードは酷く驚いたのかしばらくミラを見ている




「なにがあったの?」




すぐに私達に向き直って聞いてきたジュード達に、二手に分かれてからどういう経緯で正史世界に戻ってきたかを話す























「そんな…」




原因がわからないだけではなく、ミラを騙して時歪の因子を破壊したってのを聞いてジュードは複雑そうにルドガーと、ルドガーが持つカナンの道標を見る




「ルドガーを責めないでくれ。こうでもしなきゃミュゼは倒せなかった」




アルヴィンの言っている事は決して間違っているわけではない。けど、ルドガーとジュードは頷きもせずに黙っている

その時、ユリウスさんがルドガーからカナンの道標を奪い取った




「っ!?」

「ユリウスさん、何を!?」

「わかったはずだ、ルドガー。こんな思いはしたくないだろう」

「それは……」




たしかに、ユリウスさんの言う通り分史世界を破壊するのはそこの世界の全ての命を奪ばうもの。今みたいに予想外の事が起きたりする辛いものだから普通に考えればルドガーを純粋に思っての言葉

けれど、ユリウスさんがただの弟思いなだけなのかが、まだわからない

このまま道標を持って逃走しないか、警戒して見ていると






「なるほど、そういうわけで連れが増えたのか。かなり興味深いな」





キジル海瀑側の道からそんな声がして見ると、先ほど連絡をしていたリドウと…イバルが来た

…その言葉だと、今までのミラについての話は影で聞いていて私が言った事がわかったな

そしてジュードは、何故ここにクランスピア社のエージェントが来たのか聞く

私が連絡したから…そう言おうとしたら、リドウが自分が分史対策室室長だから、わざわざユリウスを捕まえにきたって自慢気に言った




「お疲れ、ユリウス元室長。道標の回収、ご苦労」

「お前と話す方が疲れる」




ユリウスさんはそう言うと、リドウから背を向ける

……悔しいわけじゃないけど、嫌いな奴が自分の地位の後釜に収まっていたらムカつくもんね。そこだけはユリウスさんの気持ちがわかった

けど、リドウはなんで私と連絡していたのを話さなかったんだろう?


そう疑問に思っているとイバルが私達の中にミラがいたのを見て「ミラ様……」って驚きながらそう呟く

さっきの話を聞いて半信半疑だったけど、確信して複雑そうな表情をしている

無理もない。イバルはミラにずっと仕えていた憧れている人で、もう会えないって思っていたから……分史世界のミラでもまた会えたって思いたいけど、素直に喜べない気持ちがわかる




「なに動揺してるんだ?ニセ者だぜ、アレ」

「そんな言い方!」
「無礼だぞ!」
「ニセ者って言わないで下さい!」




リドウのミラに対する発言を聞いて、私が怒って文句言ったら、ジュードとイバルも同じように思って同時に3人で声を出してしまった

声が被ってしまって私達は驚いていると、イバルは背を向けてこれ以上余計な事は言わないように無理に自分を抑える




「り、理屈はわかってる……」

「ははは、ナイーブな若者たちだ。ああ、ユリウス元室長は、こういう若者の邪魔が趣味だったな」

「リドウ!」

「例えば……ルドガー君が入社試験で不合格になるよう仕組んだりさ」

「!?」

「(それは…!)」




リドウの言葉にルドガーは驚いて、信じられない…と言わんばかりの目で見ていると、ユリウスさんは何も言えなくなって俯いた




「兄さん…なんで…?」

「あ、あれは……」




聞かれても黙るユリウスさん。彼はリドウの言う自分自身の身勝手な欲からそんな事をしたのから黙っているのか?それともまた別の理由があるのか?それは私も聞きたいって思った

しかし、それでも黙るユリウスさんの様子を見て、ここ辺りでいいか。と言うようにリドウはルドガーに言う




「さて……室長として命令するぞ、ルドガー君。ユリウスを倒して、カナンの道標を回収しろ」




ユリウスさんは列車テロの事からルドガーの事まで何を目的に色々やったのか不明で、私も少し警戒しているけど、リドウの発言はなんだか汚いやり方だって思う

ルドガーの上司である上に、その事実を話してしまえばルドガーは従うのを選択するに決まっている

たしかに最終的にはユリウスさんを捕まえないといけないけど、兄弟の仲を裂くのは必要か?

私はミラに対するニセ者発言と、まだどんな経緯でそうしたのかわからない入社試験を落すようにしたユリウスさんの行動をルドガーに話したリドウのその動言だけは賛成できないって、少し睨んだ




「ルドガー……俺を信じてくれ」




さっきは理由はわからないけどユリウスさんがやった事に怒りが少し出てきそうだったルドガーだけど、ユリウスさんからの悪意は無いんだと言うような目と掠れそうな声でそう言われて、悩みだす



そして、ルドガーの答えは……




「信じるよ兄さん…俺は…」




散々悩んだ末、ユリウスさんを信じるのを選んだルドガー

やっぱり家族だもんね。ずっと一緒に暮らしていたなら誰よりもユリウスさんを知っているから信じるよね…まだユリウスさんに対する疑いはあるけど、ルドガーとの絆が壊れなくてよかったってちょっと安心する


そんな中、リドウだけはその発言を許さなかった




「おいおい、勘弁してくれよ……兄弟そろって面倒だな!」




そうルドガーとユリウスさんに怒鳴るように言うと、ユリウスさんに飛び蹴りを喰らわす




「しゃあ!」

「ぐあっ!」




ユリウスさんはそのまま地面に倒れてしまい、それを見たルドガーは咄嗟に剣を構えだした!

命令を無視して、ルドガーはリドウと戦うつもりか!?けど、その前に…





「(なんだあの蹴り方は!?初めて見たぞ!まるでフィギュアスケートみたいな軽やかな回転で蹴り飛ばすって、こんな時も格好つけ?それとも素で?どっちにしろ…………変な蹴り方!)」





緊張感漂う中、私はどうでもいい事に注目してしまい、頭から離れられずに思わず笑いそうになる

けど、そうしている内にリドウは私に言った




「リル、お前は俺の命令を聞いてくれるよな?」

「えっ」

「ルドガー君以外の身動きを止めろ」

「それは………」

「…じゃあ、俺がやるぞ?ユリウスは生け捕り、ルドガー君はクランスピア社の人間だから命の保証はあるが……他の仲間に関しては何も命令がないからなぁ」




ちょっとイライラしながらだけど、楽しそうにメスの刃を少し舐めながらルドガー以外の仲間を見るリドウ……うわぁキモい

せっかく昨日の料理している姿で惚れ直しそうだって思ったのに、どうしてこう…ムカつくところとかキモいところ出すの?あぁー昨日の夜も……って!思い出すのは止めようぜ!あたし!!

それよりも、他の仲間……ジュード達に対しては何も命令はなかったって言うリドウは、何だか殺してまでルドガーを従えさせてユリウスさんを捕まえる気だろうって考えると、私も強制的に従わなければならない状況だって理解する

いや、強制的って言うのもアレかな。実際さっきのリドウとのやり取りで、クランスピア社のエージェントだから一時の感情に流されるなって言われて了解したし、それに私まで命令を無視をしたら、これ以上巻き込まないようにお願いしたミラが危ない……

さっきまで変な事で笑いそうになった頭を切り替えて、そう冷静に判断して決意する


……仕方ない




「わかり…ました」




そう返事をすると、リドウは満足そうに私に微笑むとルドガーの首にメスを突きつける




「ルドガー!」




ルドガーを助けようと駆け付けるジュード達の前に、私は立ち塞がる

そして軽く鞭を振ってアルヴィン、エリーゼ、レイアの3人を纏めて拘束した




「リル!」

「そんな…!」

「苦しいよ〜!」

「離してよリル!」




仲間を拘束する嫌な気持ちとルドガーを助けたい気持ちを考えると、すぐに止めたくなったけど…ここで解いたらリドウに…

ぐっと堪えて拘束している3人に言う




「……ごめんね」




そう言った私に、信じられないって思ったエリーゼとレイアだったけど、アルヴィンに小声で何か言われるとそれを聞き終わった後に「リルも辛いんだねー」ってティポが悲しそうに呟いた

アルヴィン…私が嫌な命令でもクランスピア社に逆らえない様子がわかったのかな?

そして、横ではイバルがジュードとローエンを抑えていた…つまり、今リドウとルドガーの邪魔は誰にも出来ない状態




「最終通告だ。カナンの道標を持って本社に帰還しろ」

「………」

「ルドガー……ビズリー社長との約束を思い出して」




誰も助けられない状態でも、ルドガーは従わないかもしれない…

けど、これ以上誰かが傷つかないように、私は悲しいけどルドガーに命令に従うように促す

そして、ルドガーは俯いて考えた後…




「…ああ、そうだったな。入社の条件で…兄さんを捕まえる」

「OK、それでいい」

「………」




リドウに従う選択をしたルドガーはすぐに剣を収めると、リドウはさっさとユリウスさんを拘束する




「ルドガー。真偽がわからないとは言え、助けられなくてごめんね…」

「いや、これは仕方ないよ…」




何もならないけど、私のせいだって思ってしまってルドガーに謝りながら、拘束していたアルヴィン達を解放する

事が決まったからジュードとローエンも今は従うしかないと、武器をしまって戦闘を止めた




「ご一緒願います……」




イバルはリドウの命令で、ミラに剣を向けて一緒に来るように要請する

震えながら持つ剣と悲しそうな目は、ミラに対して無礼だから本当はやりたくない様子がわかった




「イバル。私がミラを見ているから剣を下ろしていいよ」

「……すみません」




よっぽど辛かったのか、イバルはそう私にお礼を言うとミラからすぐに離れる




「ミラ……」

「………」




ミラは最初から巻き込まれてばかりいるから「何を今更…」って言うように諦めた様子で、黙って私達と共にクランスピア社……ミラにとっては自分の世界で切り捨てたエレンピオスに行く事になった



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