無意識の招き手





クランスピア社の社長室ではビズリー社長が待っていて、ルドガーと私を見てこう言った




「よくやったリル。そしてルドガー、君は期待以上の成果だ。実に優秀な弟だなユリウス」

「こいつを、こんなことで評価するな」

「こんなこと……人の世界を壊しておいてそれ?」




……ユリウスさんはそんなにルドガーを分史対策に関わらせたくないのか?

どんな意味なのかわからないけど、ユリウスさんがビズリー社長に言った言葉を、隣にいたミラはふざけないでと言わんばかりにユリウスさんや周りに怒りを露にする

その言葉を聞いて、ビズリー社長はミラの方を向く




「話は聞いた。君が……」

「ミラよ。元マクスウェル」

「冗談ではなく?」

「世界を壊す会社こそ、冗談でしょ」

「望んでやっているのではない。すべては正史世界を守るため。そしてカナンの地へ辿 り着くためだ」

「カナンの地――クロノスが守る“無”の大精霊オリジンの玉座ね」




ミラがまた怒り出すのではないか?って心配になって見ていたら、カナンの地と言う単語に反応して話した

これを聞いてオリジンの玉座なのにオリジン自身ではなくクロノスが守っているって、どういう事か気になる




「元マクスウェル……嘘ではなさそうだな」

「ねぇクロノスが守っているって…何で?」

「わからないわ。姉さんから聞いただけだから」




気になった事をすぐにミラに聞いたけど、彼女はそうはそうきっぱり言う。仕方ないか……あのミュゼなら重要な事は教えてくれそうになかったもんね

私の疑問は解決されなく終わったけど、ビズリー社長はカナンの地については事実だと言う




「そして精霊オリジンは最初にその前に辿り着いた人間の願いを、どんなものでもひとつ叶えてくれるという」

「ビズリー!!」




ユリウスさんは何を思ったのか、ビズリー社長にそれ以上言わせないように怒鳴って阻止した

が、ビズリー社長はそれには怯まずに続ける




「これは太古に人と精霊――原初の三霊が交わした契約なのだ」

「原初の三霊……マクスウェル、クロノス、そして“無”の大精霊オリジン」

「奴らは、これをオリジンの審判と呼んだ」

「どんな願いも叶う……オリジンの審判」




今もだけど、最初にその話を聞いてそんなものが本当にあるのか半信半疑……カナンの道標が事実だとしても何でも願いが叶うのかな?

ジュードは色々疑問に思いながら1つ質問した




「彼らは、なぜそんな契約を?」

「力、意志、欲望――人間自身を試すためだという……が、人間があがく様を見て面白がっているのかもしれんな」

「精霊がそんなこと!」

「人のために尽くす存在でもあるまい」

「う……」




ミラ=マクスウェルを想うジュードは精霊は人間を弄ばないって強く否定したけど、ビズリー社長の言う通りだと気づくと、言い返す事なく黙る

たしかにミラ=マクスウェルは人間が好きだけど、話を聞いて人間嫌いの印象を受けたクロノスとか…爺さんマクスウェルが最初エレンピオス人を見捨てていた事を思い出した

そして、席を立ったビズリー社長を睨むように見たユリウスさんはゆっくり話す




「真実かもな。事実、クルスニク一族は、カナンの地の一番乗りを巡って骨肉の争いを繰り返してきた。時に、父と子が……」

「時に、兄と弟がな」




その言葉にビズリー社長はまるで言い返すように、ユリウスさんとルドガーを見ながらそう言った

その意味は………まるでビズリー社長とユリウスさん。そしてユリウスさんとルドガーがそれぞれがクルスニク一族としていずれ争うみたいな言い方

ルドガーには知らない事実が含まれている会話だから、少しひやひやしながら見ていると…





「はなし、ながいー!」




話の意味がわからなくて退屈だったのか、エルがそう大声で言った




「だな。道標は手に入ったし、さっさと行けばいいんじゃね?」




アルヴィンは詳しく色々聞かされても埒が明かないって思ったのか、要は道標があるならもうカナンの地に行けるって思って話を終わらせようとしたけど、そう簡単に行けるものではないとリドウが話す




「カナンの地に辿り着くには、カナンの道標が5つ必要なのだ。そのひとつがこの、マクスウェルの次元刀」

「残りは…ロンダウの虚塵。海瀑幻魔の眼。箱船守護者の心臓。最後のひとつは不明ですが…」




私にとって、今2度目のカナンの道標の名前を聞いたら……なんか聞き覚えのある単語が出たような気がした

ロンダウって……誰かの本名だったような…

そう思っていると、ヴェルさんの説明の後にリドウが言う




「ところがさ、道標は正史世界じゃ、もう失われちゃってるんだ」

「だから、分史世界で手に入れる…!」

「ご名答。分史世界に道標があればそれは必然的に正史世界と最も異なるものとなる――」

「つまり、時歪の因子がカナンの道標…。道標を正史世界に持ち帰るのがエージェントの本当の目的なんですね」




ジュードの問いにリドウは頷いたが、ビズリー社長は「だが…」って詳しく話す




「誰にでもできるわけじゃない。分史世界の物質を正史世界に持ち帰るには、特別な力が必要でな」

「我々は、その力の持ち主をこう呼んでいます“クルスニクの鍵”と」




クルスニクの鍵……ビズリー社長の亡くなった奥さんで最後だと思われていた能力者が、今ここにいる

けど、いるのはわかるが……誰なのかが、わからない

そんな中、社長はルドガーを見て言った




「ルドガー、お前がそうだ」




その言葉に、私も含めた全員が驚いてルドガーを見る




「社長。何故ルドガーがクルスニクの鍵だと思ったんですか?」

「事実、ルドガーが道標を持って正史世界に戻ってきただろう」




社長はどんな根拠でそう思ったのか聞いてみると、今見た事実で決めたらしい

だけど……ミラについては…

ミラに触れていたのはエルだったっていうのは皆見てるけど、それがルドガーの影響なのか疑問に思うのは当のエルと私しかいなかった

それについて話そうか悩んでいると、ルドガーとエルも疑問に思ったみたいで素直に社長の言葉に頷こうか悩んでいる




「黙っていろ」




それに気付いたユリウスさんは、私とエルにしか聞こえない声でそう言った

エルは驚きながら言うとおりに黙り、私はエル自身が言わない限り第三者である私が勝手に言う権利は無いと思って黙っていると、ジュードはまた質問をする




「なぜクランスピア社はカナンの地を目指すんです?」

「大精霊オリジンに、すべての分史世界消滅を願うためだ。増え続ける分史世界は、すでに個々の破壊では間に合わない数に達している」




前にも聞いた事あるビズリー社長の願い

……審判についても疑問だらけだけど、彼の願いも本当にそうなのか?って思ってしまう

本当に世界を救うためなのか?とか、何でも願いが叶うってなった時に大概は自分の欲が出るものなのに。とか…

私も自分の世界に戻るためでもあるし、クランスピア社に頼らなければカナンの地に行けないから従うしかないけど……ビズリー社長の願いは嘘で世界の滅亡を望んでいるってなれば、どうしたらいいのだろう

なんて、自分のお決まりである考えすぎと言う名の思い込みをしていると








何処からか、ぐううぅぅ〜〜…ってお腹が鳴る音がした




その鳴った方を見ると、エルが顔を赤くしてお腹を押さえている

なるほど……時間を考えるとお昼だし、退屈していたから鳴るもんね

そう思っていると、隣にいたミラが「すごい音」って笑う。それを聞いて私もつられて笑ってしまった




「勝手になっちゃうのー!」




笑われた恥ずかしさでエルは更に顔を真っ赤にして仕方ない!って周りに訴えるように言った




「お食事をご用意します」

「エル、ルドガーのご飯がいいな」

「ほう、ルドガーは料理が得意なのか?」




ルドガーの特技を知ったビズリー社長はエルに聞いた




「ルドガーもミラもまーまーね!」

「まーまーとか言いつつ、ルドガーの料理が良いって事はお気に入りなんだね」

「うん!」




子供ながらのちょっと上から目線な言葉だけど、なんだかんだで気に入ってる様子なエルは私の言葉に頷く

そしたら社長は、次の任務までの時間はまだまだ余裕があるから、今日は帰ってエルのリクエストに応えるように言う




「ルドガーお前ならカナンの地へ辿り着けるはずだ」

「…やってみます」

「期待している」

「エルも」




まだ自信は無いけれどやれる事はやろうって、ルドガーは決意する

それを聞いたビズリー社長は真剣な眼差しで言葉通りに期待を込めて言うと、側にいたエルも同じくそう言った

エルもカナンの地に行くのが目的だもんね。けど、まだその理由を私は聞いていないから後で聞こう



そう思っていると、ユリウスさんの「ルドガー、お前はこんな……」って言う声が聞こえた

ユリウスさん……全て話してくれないだろうけど、何を考えているのかもう一度聞きたい

そう思っていると、ユリウスさんは待機していた数人のエージェントに連れられて社長室から出て行く

……おそらく、会社の地下にしばらく拘束して、列車テロについて尋問するだろう


それを見たルドガーは、これで良かったのか?って少し自分のやった事に後悔していると……










くっきゅるぅ〜………









「ハハハッ。エルのためにも早く行こうよルドガー」

「…ああ。そうだな」




また部屋中に鳴り響いたお腹の音を聞いて、ジュードが笑いながらルドガーにそう促すと、ルドガーも今はエルのために料理を作ろうと気持ちを切り替える。だけど…




「えっ!今のエルじゃないよ?」




ジュードとルドガーに笑われたエルは、不思議に思いながら自分じゃないと否定する




「じゃあ、誰だ?」

「こっちから聞こえてきたような……」




アルヴィンとレイアの言葉で、皆近くの人と顔を見合わせたり周りを見たりして、さっきの音は誰が原因か探した



あの、さっきの音はね……



私です!



けど、バレていないみたいだから、このまま隠し通そうとしたら





ぐぎゅるるるるぅ〜〜………









「……リル?」




さっきより酷い音がして、音源は私だとバレてしまった!




「はい……私です」

「変な音ね」




もう誤魔化しきれないから、白状するとミラからエルの時よりも笑われる

他からもクスッて笑われるし、リドウを見ると笑うのを堪えるように手で口を押さえて顔を背けているし…

うわああああ〜〜!こんな大勢+リドウがいる前で恥ずかしい!!

穴があったら入りたい状態の私に、ルドガーは言った




「リル、今度こそ一緒にどうだ?」

「え…いいの?」




ルドガーにそう言われ、ふと、社長の方を見ると「昼休みが終わる前に帰ってくるなら、行ってきてもいいぞ」って頷いてくれる


やった!今度こそルドガーの料理が食べられる!

そう内心わくわくしていると、リドウは私の頭に腕を置いてルドガーに言う

うわっ重い…!体重かけんなよ!




「社長に期待されたからって、調子こいて妙な事をしたり、こいつに手ぇ出すなよ?」

「リルに妙な事?」




不機嫌な感じに言われた言葉を、ルドガーは何の事なのかピンときていないから首を傾げるが、レイアはすぐにわかってしまったみたいで目を輝かせながら聞いてきた




「えっ!もしかして2人は付き合ってるの!?」

「それは……」

「それは想像に任せる」




否定でも肯定でもないやんわりと濁した言葉は、よくテレビで芸能人の恋愛事情を聞かれた時に出でくる言葉で、どこの世界でも一緒なんだなぁ〜

レイアはプライベートで聞いてきたけど、一応彼女は新聞記者だからリドウも用心しているのかな?

まぁ、相手はどうであれ秘密にしないといけないから、これでよかったんだよね

そう呑気に考えていると、リドウが顔を近づけてきた

何か話があるのかな?って、リドウの方を向くと……




いきなり、私の額にキスをした!





「えっ!?」

「けど、これは内密にしてくれよ。新聞記者のお嬢さん」

「は……はい」




それを見たビズリー社長とヴェルさん以外の皆…特に質問した張本人であるレイアはあまりにも驚きで口をポカーンと開けたまま私達を見る

そうだよね。あの行為は……さっきの質問を肯定する意味って捉えるのが普通だよね







お……おいいいいいいいいいい!!!!!

なんて事を!!!




「何してんだよ!濁した意味無くなるじゃん!!」




さっき想像に任せるって言っておきながら、なんで後からそんな事するの!?矛盾しているじゃん!

私は恥ずかしさとか、結局意味無い事をしたリドウに怒っていると




「すごいの見ちゃった…!」

「けど内緒にしないとね。リドウさんもリルも仕事上、プライベートを知られたら大変だから」

「にしても、お前達そういう関係だなんて知らなかった…」




まだ呆然としているが、だんだんと質問した最初の興奮が戻ってきたレイアに、ジュードは冷静に秘密にしないとねって私達を思ってレイアに念を押す

そして最初にリドウから手ぇ出すなって言われたルドガーは、驚きが大きかったせいか、まだ呆然としている




「上司が恋人ってドラマみたいで素敵です」

「…趣味悪いわね」




エリーゼは言葉通りドラマにあるようなカップルだ〜って、なんだか期待している目で私達を見て嬉しそうにする

けど、ミラは私に対してなのか、たくさん男がいる中でなんでこんな奴の付き合っているんだろう?って私とリドウを交互に見た




「やっぱり可愛い子にはもう男がいるのか〜」

「残念ですね…」




何を期待していたのか、アルヴィンとローエンはなんだかガッカリした様子

それを見たリドウはアルヴィンに一言




「と、言うわけで勝手に夫婦発言もしないでもらいたいな」

「えっ?」

「あ、あの時の話聞いていたんですか!?」




いつぞやアルヴィンから私と夫婦な設定でどう?って言われたかあの話!?あれはリドウが聞いていませんようにって思っていたのに…

どこで聞いていたんだろう?怖いな!もしかしてリドウは地獄耳!?


そんな中ずっと首を傾げていたエルが、ようやく何がどうなのか気付いてかなり驚いた




「えーーー!!?リドウとリルって……!!」

「エルそれ以上言っちゃダメーー!!』」




そのまま大声で気付いた事を言おうとした口を、私は慌てて手のひらで閉ざして、半分テンパりながらルドガーに言う




「ル、ル、ルドガー!私の昼休みがなくならない内に、行きましょう!」

「え?あ、ああ…」

「ほら!早く!もう私達は先に行ってるよーーー!!」




もう気恥ずかしさとかで気持ちが変に高ぶってしまい声が裏返っているのも気にせずそのまま話し続けた私は、エルの口を閉ざしていた手を腹部に持っていき、そのまま抱きかかえて社長室から逃げるように出て行った




[TOP]