無意識の招き手






「はぁ…はぁ…はぁ〜………疲れたぁ」




あの場にいたくない気持ちから勢いが収まらず、社長室どころか会社自体からも全力ダッシュで出て行き、そのままルドガーのマンションに着いてしまった!

エルを抱えながらのダッシュだから流石に体力消耗がひどく、止まったらドッと疲れが来て私はエルを下ろしてマンションの入り口にあった花壇の縁に軽く腰掛けると、その場でぜぇぜぇはぁはぁって大きく息切れをする

…元々体力無いのによくここまで走って来れたな。私よ




「リルすごーい!まるでピンチの子を素早く飛んで助けるヒーローみたい!」

「ははは…そう…?」

「ねぇ、またやって!」

「も、もっと体力つけたらね…?今はもう…つ、疲れた…」




エルは楽しかったみたいだけど、私はそれどころではない

うぐぅ……は、肺が潰れそうだ…!

まだ苦しさが治らずにいると、ルドガーが来た




「ようやく追いついた」

「リル、意外と足速いんだな」

「いやいや…それほどでも…」




よく見るとルドガー以外にジュードとミラもいる。それ以外の仲間はそれぞれ仕事など顔を出さなければならない所があるため、特に用事の無い2人も一緒にどうか?って誘ったらしい

その話を聞きながら私は息を整えて、ルドガー達と家に向かった



















「僕たちまでご馳走になっていいの?」




家の玄関を開けると、ジュードは再度ルドガーに聞く

ルドガーはその質問に答えようとしたら…




「おかまいなくー!」




すぐに誰よりも早くリビングにあるテーブルの椅子に座ったエルが、ルドガーの代わりにそう楽しそうに答えた




「意味わかってる?」

「“オカマがいない”って意味っ」

「なにそれ!」




言葉の読みそのままで違う解釈をして得意気に使うエルに、その発想は無かったわ〜って私は笑った。やっぱり大人みたいに背伸びしてても、まだ子どもなところがあるな

試しに聞いてみたミラとジュードも私と同じように思ったのか苦笑したりしている。そんな中、ルドガーは早速調理を始めた

ようやく…ようやく食べられる!

話を聞いててどんなのか気になっていたから、もう今から楽しみで仕方ない!

私はエルの隣に座ると、そのエルは座りながら足をぶらぶらさせて楽しそうに笑っている




「ご機嫌だね、エル」

「ご飯が楽しみだから?」

「それもあるけど、一番はカナンの地へ行く方法分かった事が嬉しいから!」




ジュードと私がそう聞いて納得

なるほど、エルにとっては嬉しい事が2つ起きているから、嬉しすぎてつい身体も動かしたくなるね

しかし、それに対して反対の気持ちを持った人が苛立ちを交えた声でエルに言った




「他人の世界を潰して?」




ミラだ……たしかにこのエルの喜びはミラの世界を犠牲にして得たもの

彼女からすれば、たまったもんじゃない話なのはわかる

そして道標を見つけて回収するにも分史世界の破壊が必要だから、つまり彼女の言うとおりだ

けど、私とジュードは「そうです」とは言わずにただ黙って俯くと、エルが答える




「それはしょうがないよ」

「しょうがないってなに!」




子どもであるエルは“分子世界”は消さなくてはいけないものって考えている……勿論悪意は無く、ただ純粋に“存在しちゃいけない悪いものだから”消さなければいけないって言われてるから、そういうものだと認識しただけ

だから、目に見えないが世界を消すと言う……数え切れないほどの命を消す重みはまだ理解していないから、しょうがないで言ってしまうけど……

そんな子どもに、世界や大事な家族を消された自分の気持ちを理解していない事に苛立ったミラは、本気で怒ろうとしたらジュードに止められる

そのジュード対して「あなたもそう思うの?」ってミラが聞くと、「それは……」って言葉を詰まらせる


どうしよう……空気が重く暗くなった

何か言わないといけない気がするけど、もし余計な事言ったらもっと悪くなる…

どうしたらいいか悩んでいると、ルドガーが「出来たぞ」ってテーブルに料理を置く


その料理は…




「マーボーカレーだぁ!」
「マーボーカレー!」




思わずエルと一緒に言ってしまうほど、食欲をそそるスパイシーな香りがする美味しそうなマーボーカレーを見て「わぁ〜」と感激した

美味しそうってのもあるけど、テイルズではどの作品にも登場する伝説のあの料理がテイルズキャラによって作られて今ここに…!って感動のが一番の気持ちかな

エルは嬉しそうにしていたけど、ハッと何かに気がつくと不安そうにルドガーに聞く




「……からくない?」

「エル用に甘口にしといた」

「エル用ってイミ、わかってるのかなぁー?」




甘口なのには安心したけど、エル用って言われた事に子ども扱いされたと不満に思って少し頬を膨らませたエル




「私も辛いの苦手だから甘口で助かったよ」




けど、ここに辛いの苦手な大人もいるってカミングアウトすると、エルは少し驚いて「大人でも辛いの苦手な人いるんだ〜」と意外だと言って、自分だけじゃない事がわかると食べ始める




「これ、エル用だ!」




さっきはエル用って言われて納得していなかったのに自分で言うほど口に合ったのかって思って、私も一口食べる



こ…これは……!




「う、うまい!!ルーのスパイシーさと豆腐の旨味が絶妙で最高!すごいよルドガー!」




噂通りって言うか想像を超えるほど、プロ級に美味しい!

これは本当に飲食店で働いた経験も無く、家の台所で鍛えられた腕なのかって信じられないくらいに

もう、思わずマーボーカレーを食べた時の感想である「う、うまい!」が出てしまったし、下手ながら食レポっぽい事を言ってしまう

ジュードも食べ始めてると、なんだか悪くなるばかりだった空気が少し戻ったような気がして………申し訳ないけど夢中になって食べる。すると、ミラが台所を見てポツリと呟いた




「料理にまで黒匣を使ってるのね」




そうか、リーゼ・マクシアでは昔の地球上みたいに石釜や石の土台にその下で薪とかで火を焚いて料理するっていうやり方だもんね

私は平成生まれでガスコンロやクッキングヒーターの台所があるのが当たり前な生活してきたから、エレンピオスの調理器具や技術には違和感を感じなかったけど、ミラにとっては何もかも違和感だらけだし黒匣を使っているから信じられないんだろう…

そう思っていると、ジュードはミラに質問した




「ミラさん、さっきの話だけど、カナンの地は大精霊オリジンのいる場所。そしてオリジンは魂を浄化して循環させてるんですよね?」

「だから、姉さんから聞いただけだってば」

「暴走した源霊匣ヴォルトが“魂の汚染が進行した”って言ってた」

「源霊匣?」

「ジュードの大事な仕事」

「うん。黒匣みたいに微精霊は殺さない新しい技術で、ジュードがそれを研究しているの」




源霊匣と聞いて何の事かわからないミラにエルと私は説明すると、そんな物があるなんて…ってまた信じられない様子だ




「源霊匣が完成すれば、黒匣を使わなくてすむようになる」

「黒匣を使わなくてすむ世界……」

「源霊匣暴走には、魂の浄化が関係しているのかも知れない。そうでなくとも、カナンの地が世界の未来を左右する場所なら――僕は行かなきゃならないんです」




だから、ミラの世界を壊したのは罪悪感に感じるけど、自分の目標や世界のためにカナンの地に行くから、悲しいけどこれからも沢山の世界を消す事になるだろうってジュードは自分の決意をミラに話す

それに対してミラは怒りもせず、しばらく黙って考えるように黙っていたと思いきや、立ち上がって玄関に行く




「ミラさん!」

「カナンの地に行こうよ。ジュードもミラも一緒に」

「……しばらくは付き合うわ。私の世界が本当になくなったのか確かめなきゃならないし」




ミラはそう言うとルドガーの家から出て行ってしまい、ジュードはルドガーと私に「ミラさんの事は任せて」って言うと彼女を追いかけて行く

その後に、エルに声をかけられてミラが座っていた所を見ると、料理は口にしないまま出て行ったのがわかった

ミラ……黒匣で作った料理が嫌だったのかな?いや、それ以前に知らないところに連れてこられた精神的な問題で食事が喉を通らなかったかも…

とりあえず今はジュードに任せたけど、これからミラはどうしていくんだろうって心配していると、時計が目に入ってあと数十分で昼休みが終わるって気づく




「私もそろそろ行かないと…あ、ねぇルドガー!」

「何だ?」

「その……ミラの事は私も責任があるから、1人で背負わないで!そしてユリウスさんの事は私も調べるよ!冤罪だったら大変だから…!」

「リル……ありがとな」

「いや、お礼を言われるような事じゃ…」




私はミラの事やルドガーが抱えるのを思うと、他人事ではないから、いてもたってもいられず助けになりたくて色々話す

咄嗟に言った事だから、何を言っているのか自分でもわからなくなりそうだけど、私の様子を察したルドガーは大丈夫だって笑う

……元気付けようとしたら、逆に元気付けられちゃったかも

私は自分をちょっと情けないって思いながら、ルドガーにご飯のお礼と「ごちそうさま」を言ってクランスピア社に戻った






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