貴女にお礼を
副室長になってからいつも以上に仕事が忙しくなったけど、リドウは医療とも掛け持ちしているから実質分史対策では、ほぼ私が受け持っているようなものになった
私よりも何年もいるエージェントからは不満な声も出ていたけど、リドウの命令だから今は聞こえなくなったが……態度や様子からはまだ不満を出しているのがわかる
ま、それよりも別の事が気にかかっている
「リル副室長、郵便です」
「あ、ありがとうございます」
受付係の人から沢山の手紙を貰う
そう、これはみんな私宛のもの
なんでこんなに貰うかと言えば…
「(何々……“はじめましてリルさん。この前の活躍で貴女に一目惚れしました…”)」
副室長に昇格して名前や顔が知られるようになったら、前に雑誌の取材やテレビでインタビューをされた
リドウほどではない少ない回数だったけど、それがきっかけで私のファンなる人達が現れたのだ
最初はかなり驚いたな〜。ファンレターは勿論、握手やサインに一緒に写真に写るとか(その後リドウに「エージェントが無料でカメラに写るな」って怒られたけど)
で、今抱えてて気になってる事は、これに関係してるかもしれない
それは……帰宅していると、後ろから誰かにつけられている事
いつからだろう?数日前からかな。その日後ろから誰かの視線を感じ、わざと街角を利用して四角形に歩くと、ずっと誰かがついてきているのに気付いて怖くなった
リドウに相談…しようか悩んだけど、これでもっと事態がややこしくなったり、もしかして本当に私を狙ってつけている人だったらリドウが巻き込まれてしまうって思うと、相談出来ない
それよりも何かされたとか決定的な事がまだないから、あまり大きな騒ぎにしたくない。だからレイアには一緒に帰宅してもらったり、ノヴァとヴェルさんには泊めさせてもらったりしていたけど、今日は3人とも不都合で自宅に帰らなければならない
大丈夫かな?
そう不安に思いながらクランスピア社を出る
―――――――――――
街中を歩いている間は寄り道もせず、人が多いところを通った
自宅に近づけば、人通りが少ない道に差し掛かるから明るいうちに帰ろう…そう思って足早に帰り道を進んでいると
私が鳴らしている足音ではない音が後ろから聞こえた気がした
心臓が飛び跳ねるようにドキリとして立ち止まって振り向くと…そこには誰もいない
気のせい…?そう思って足音は立てないように歩くと
後ろから誰かがついてきている音がする
「(やっぱり…)」
最近は一緒にいる人とか帰る道が違っていたからよかったけど、やっぱりいる…!
このまま素直に自宅に行けば、押しかけられるかもしれない
そう思って、また街中に戻ろうと右に曲がろうとしたら
「ちょっと、何してんの!?」
怒っているような女性の声が後ろから聞こえた
驚いて振り向くと、そこには黒いパーカーを羽織った男性とその男性の腕を掴む…
「ミラ…!?」
男性を睨みながらその掴んだ腕を離さないミラがいた!
「いたたたっ…は、離せ!」
「嫌よ。離したらまたあの子を追いかけるでしょ?」
「わ、わかった!もうしないから…!」
「…次またやったら、警察とやらじゃ済まされないわよ」
最後にそう言ったと同時に、ミラは精霊術を右手に出して黒いパーカーの男に脅すように見せると、男は悲鳴を上げてその場から逃げて行った
なんだか早々に色々あって呆然としちゃったけど、とにかく助かった…
しばらく、男が逃げた方とミラを見ていると、ミラはさっさとどこかへ向かって歩き出す
「待ってミラ!」
それを見た私はとっさにミラを呼ぶと、彼女は足を止め私の方に振り向く
夕闇に照らされて暗いオレンジに薄っすら染まった髪と凛々しい表情が色気があって素敵だ……じゃなくて、言いたいことを言わないと
「……何」
「あの、助けてくれてありがとう!」
「たまたま通りかかっただけよ」
このまま何も言わないでミラを見続けるわけにはいかない。そう思って頭を軽く下げてお礼を言うと、またミラが足を進めそうだったから続けて話した
「ねぇ!何処かに行くの?」
「そこら辺をちょっとね。レイアの仕事が長引くみたいだから」
ああ、たしかエレンピオスで仕事するレイアは私と同じくトリグラフにマンションを借りて暮らしていて、行き場のないミラはそのレイアのところにおじゃましているって聞いたな
レイアには一緒に帰ってもらっているだけだったから、彼女のマンションに泊まった事はない。けど、もし泊まっていたらミラとも一緒だったかな?
なんて1人浮かれた妄想をしていると、「それじゃあ」ってミラが行きそうになったから「待って!」って再度呼び止める
そして
「あの……もしよかったらさ、私の家に来ない?」
思いきって言ってみると、ミラの反応は予想もしてなかったのか少し驚いた表情をして私を見る
「なんで私が貴女の家に?」
「お礼としてで……あ、なんなら一緒に夕飯食べよう!」
「お礼?だから、さっきのはたまたま…」
「さっきもだけど、前にも助けてくれたじゃん」
「前にも?そんな事あったかしら」
「あったよ!あの時……ミュゼから助けてくれたじゃん!」
そう、分史世界で最初にミュゼに会った時「ここに何かいる?」って聞かれたミラは「何もいない」って私の存在を隠してくれた
それに対していつかお礼がしたいって思っていたら、こんな思いもよらない場所で話すことになるなんて
まぁ、でも良いタイミングかな?他の仲間とかは何回か私の家に遊びに来たけど、ミラはまだだったから、いつか誘いたいって思っていたところだったし
「あれは貴女のためじゃなくて…姉さんがまた無意味な殺しをしないようにって…」
「それでも助けた事になるよ!だからそのお礼もしたい」
「……」
私の言葉を素直に受け取ってくれないミラに、負けまいとちょっと強引に話してみると黙って考える始めた
このまま返事を待っていたら、やっぱりいいって断るかもしれないと考えた私はミラの腕を掴んで更に言う
「ねぇ、お願い!さっきので怖くなって帰りづらくなった…」
事実だけれども、なんだか子どもっぽく言ってしまった。するとミラは仕方ないわねって言うように、息を吐いて言った
「はぁ…じゃあちょっとだけ、おじゃまするわ」
「そんな事言わずに長い時間居てもいいよ?」
「馴れ合いは嫌いよ」
親切にそう言ったけど、クールに一蹴りされてしまい私は思わず苦笑する
ミラといったら前作を思い出すから、この彼女の一々の動言が新鮮だって思うけど他の仲間と違って仲良くなるのは難しいかな…って思いながら私のマンションに向かう