海瀑に潜む魔物
ハ・ミルに来ると、夕焼けみたいに赤く綺麗な日の光で照らされた家々と甘く爽やかな果実の匂いがした
何処かにパレンジ売っている所ないかな?
……って、そうじゃないよね。ユリウスさんを探さなきゃいけないのに私ったら
気持ちを切り替えてユリウスさんの手掛かりを探そうと、村の奥へ行こうとすると…
「ぎゃああー!」
そんな村人の悲鳴みたいな声がして驚いてその先を見ていると
青に近い薄い緑色の髪の人物がこっちに来……いや、人物ではない誰かが飛んできた!
「ミ、ミュゼだー!」
「おおおっ!」
そう、来たのはあの精霊のミュゼ!
ミラ=マクスウェルを探しにヘリオボードまで来て、また何処かに飛んでいったと思っていたらこんな所にまで……
でも、あれ?さっきの村人の悲鳴が聞こえてきた先から来たって事は…
「村の人を苛めてるんですか!?」
「そんなことしてません」
エリーゼも私と同じように悪い予想をして、ミュゼに聞いてみると彼女はあっさり否定した
いやいやいや、ミュゼの感性ではもしかしたら悪い事したつもりじゃなくても…
って、前作のミュゼを思い出しながら、そう思っていると
「姉さん!」
私の隣にいたミラが、驚いてミュゼに姉さんって言った
あ…そうだよね。性格は違っても見た目は同じミュゼだもんね
私達と一緒にいたミラを見てミュゼもかなり驚いていた
「ミラ!?……じゃないわね。貴女は、どなた?」
最初は驚いたミュゼだったけど、すぐにミラ=マクスウェルじゃないって気づいて誰なのか訊ねる
「……っ。はじめまして、元マクスウェルよ」
「どういうこと?」
たしかに自分の知るミラじゃないけど、元マクスウェルって意味がわからなかったミュゼに、私達は今までの分史世界について話した
「分史世界に、カナンの地……ね」
「何か知ってるの?」
「さぁ?」
私達の話を聞いて意味深に呟いたミュゼに精霊だから何か知っているのではないか?って思って聞いたけど…なんだか、はぐらかされてしまい、もっと食い下がって聞こうとしたら、村の奥から一人の中年の女性が来た
「見つけたよ!このパレンジ泥棒!」
「ミュゼが!?」
ミュゼを見てそう言った女性は、どうやらパレンジ栽培している村人でエリーゼの問いに頷く
なるほど…さっきの悲鳴みたいな声は、突然現れて空中でパレンジを食べたミュゼに驚いた声だったのか
けど…
「なんで、パレンジを食べたの?」
「だって、お腹空いちゃったんですもの」
「セーレーもお腹へるんだ」
前作で精霊は人間の基本的な欲求は無いような事を聞いたから、ミラ=マクスウェルは別として他の精霊も何も食べなくても生活出来るって思っていたけど…
エルも同じく疑問に思ってミュゼに聞くと
「気分的にだけど。ミラが食事の楽しさを教えてくれたから」
って、まるで子どもみたいに空中で寝転がって足をパタパタさせて、なんだか楽しそうに答えた
「そうなんだ」
「……私じゃない」
「エル、このミュゼの言うミラはもう一人のミラの事。わかりにくいと思うけど」
エルはイマイチ分史世界と正史世界の区別がついていないのかミュゼの言ったミラは今ここにいるミラだろうと思ってそうなのか聞いたけど、勿論今いるミラには覚えのない話
ミラの複雑そうな表情をみて、私が慌ててエルに説明しているとルドガーのGHSが鳴る
相手はヴェルさんからで、どうやらユリウスさんは分史世界に逃げ込んだらしく、そこにカナンの道標の存在が高確率と伝えられた
「追いかけましょう、ルドガー」
「注意した方がいいわ。そのユリウスって人、誘ってるみたい」
「誘っている?」
すぐに追いかけようと促すミラとは対照的に、今の話だけで何かを感じ取って警告してきたミュゼに私は聞いた
「なんだか、そんな気がするの」
「だからって、逃げるわけには、いかないでしょう」
ミラの挑戦的な言葉にミュゼは、しばらく考え込んだと思ったら私達に聞いてきた
「ねぇ。ルドガー、リル。私も連れて行ってくれない?」
「構わないけど…」
「どうして?」
私達が理由を訊ねるとミュゼはミラの近くに行った
「この子が心配だから。危なっかしいとこはミラとそっくり」
「お、大きなお世話よ」
なんだか、理由はそれだけじゃないような気がしたけど、ミラを見るミュゼの目は本当に心配している様子だった
ここにいるミラは別のミラだけど、どっちも心配するなんてミュゼは優しいな
ミラも、ここにいるミュゼ……自分にとっては違うミュゼだけど、姉から久しぶりに心配され優しく接されたからだろうか。口では否定したけど照れていた
「また変な人が仲間になった」
「ナァ〜」
「また変な人?あれ?もしかして私達も変な人って思っているの?」
「うん!飛ぶ精霊だったり、お料理の得意な元精霊だったり、物知りで精霊と知り合いだったり、ネコを探す人だったり、変なぬいぐるみを持っている子だったり、怪しい商人だったり、冗談を言う大臣だったり、皆に内緒で現れる王さまだったり!……ね?皆変でしょ?」
「な、なるほどね」
「あ、もう一人いるけど、その人は……おっちょこちょいだけど一生懸命頑張れる人かな?」
「え、それって誰の事?」
「ん〜〜、ないしょ!」
「え〜〜」
おっちょこちょいだけど頑張っている人か〜…もしかして、ルドガー?
器用そうに見えたけど、抜けてるところがあるんだな
そう思っていたら、パレンジ栽培の村人が苛立ちながらルドガーに言った
「あんた等、連れなら、パレンジの代金払っておくれ!」
「あ……」
「はぁ……」
そうだった。ミュゼと知り合いってここで認めたら、ミュゼが食べたパレンジを弁償しないといけなくなる
本来はミュゼ自身が弁償しなければならないけど、彼女は精霊でガルドなんて持っているわけない
仕方なくルドガーが食べた分の代金を払うと、エルはミュゼに借金を抱えているルドガーに金銭問題で困らせては駄目って叱る
……なんか、私が言うのもアレだけど、ちょっとしたトラブルメーカーが仲間入りしたかも
なんやかんやあったけど、ミュゼを加えた私達は送られてきた座標に侵入した
――――――――――――
侵入した分史世界は……
青い海と空に、白い砂浜が目の前に広がっていた
ここはたしか…キジル海瀑かも
ゲーム画面でも綺麗で行ってみたいなぁと思っていたから、実際に来れて嬉しい!
だから…
「あっ、変なキレーな貝!」
「危ないですよ、エル…」
「おお〜〜!オーシャンビュー!!」
「……リル?」
「なんだか、リルも子どもっぽーい」
はい、エリーゼとティポの言葉を横目に、私はエルと一緒に波打ち際まで走って行きました
そうです、私は海が好きなんです。夏になると必ず家族・友人と遊びに行ったり、キャンプしたりしている
にしても、本当に綺麗な海!沖縄並みの透明度で飛び込みたくなるほどテンション上がるな〜!
……って!また脱線しちゃった!
こんな事したら、副室長として務まらない!
ユリウスさんを探さないと…
って、砂浜で待っているであろう人が少ない事に気付く。ルドガーとミラがいない
「あれ、ルドガーとミラは?」
「向こうに行ったわよ。エルと貴女の事言えなくなったわね」
「?」
なんだかよくわからないけど、とりあえずルドガーとミラはアーチ状になった岩の先に行ったらしい
……なんだろ?内緒話?まさか喧嘩かな?それとも……!
っと、こんな明るい内から変な事はしないよね。それより、そんな事を考えた自分馬鹿だ……
そう思っていると、横から視線を感じてそっちを向くとミュゼが私をじっと見ていた
「………ん?」
「あら、気付かれちゃったかしら」
「えと………どうしたの?」
私から話しかけておいてアレだけど、ミュゼと話しするの緊張しちゃうな
さっき仲間になったばかり…いや、それよりも掴み所のない言動で、ミラに対しては優しく見えたけど他に対しては突然前作みたいになるんじゃないかな?って不安に思っているから
そんな私にミュゼは微笑みながら言う
「面白い物を持っているなぁって」
「面白い物?」
「そこにしまっている物よ」
そこと指した所は……結晶が入っている側だけの懐中時計をしまっている右ポケット
え……見せてないはずなのに、わかるの?
「なんで、そう思うの?」
「気配を感じるの。無の精霊術が凝縮された気配」
「っ!」
その言葉を聞いた時、分史世界での…今いるミラの姉である目の見えないミュゼを思い出した
彼女はたしか、私の結晶の力に気付いて……もしかして、最初会った時に目が見えないのに私の方を見て誰かいないか聞いていた理由はその為?
大精霊となれば、この結晶が持っている事が気配だけでわかるのか
「それ、どうしたの?」
「これは……」
どうしよう、誰にも秘密だって言われていたけど相手は気配でわかる大精霊だから誤魔化しは効かない
秘密にしてくれって言っても、聞いてくれるかわからないし…
正直に話そうか悩んでいると
「きゃあああ……!」
突然、エルの悲鳴が聞こえて驚いてそっちを見ると
さっきまで楽しそうに遊んでいたエルが、波打ち際で倒れていた!
「エル!?」
何があったのかエルの側に行ってみると海辺には黒いオーラを放つ魔物がいて、エルの体から紫色の炎のようなものが出ていて苦しそうにもがいている!
何なのこれ…!?あの魔物が何かしたの?エリーゼがすぐに回復術を施しているのに効かないなんて…
「どうした!」
「ルドガー!ミラ!エルが……」
エルの悲鳴が聞こえたルドガーとミラが駆けつけたのを見て私は驚く
なんと、ルドガーとミラの後ろから……ユリウスさんも来たからだ!
なるほど…2人はユリウスさんを見つけたから離れたんだ
そのユリウスさんは魔物を見て時歪の因子って言った。つまり、あれが…海瀑幻魔!
「う、うああ……」
「エル!何があったんだ!?」
「あの魔物が!変な精霊術でエルを!」
「回復が効かないー!」
「これは……呪霊術」
「呪霊術?」
ミュゼが言ったそれは何なのかを聞こうとしたら、ミラが「避けて!」って言った声にすぐに反応して左に避ける
すると、さっきいた所に幻魔が闇の精霊術を放ってるのが見え、私達はその隙に武器を構えて反撃をしようとした!
けど突然、幻魔は姿を消してミュゼ以外の皆は困惑した
「消えた!?」
「呪霊術とは何だ?」
「生き物の血を腐らせる精霊術。解除するには、術者を倒すしかないわ」
「術者……さっきの魔物?」
「そう、“海瀑幻魔”を」
「それって、カナンの道標?」
「正史世界では絶滅した変異種。姿を隠して呪霊術で獲物を襲い、動かなくなった後、その血をすする魔物よ」
「なんだと…っ!」
「幻魔がそんな恐ろしい魔物だったなんて…!」
事前に調べておけばよかった…
そうしていたら、エルがこんな事にならずに済んだかもしれないのに…!
「はぁ……はぁ……」
「ダメです、エル!しっかりしないと、バーニッシュは来てくれませんよ!頑張ったら、きっと!私があの子を連れてきますから!」
呪霊術で苦しむエルに、エリーゼは励ましながら強力な回復術を耐えずに施している
たしかに、エルの命が危ないけど…
「エリーゼ、そんなに霊力野を酷使したら、貴女も!」
「でも、約束したんです!」
「破ったらハリセンボンなんだよー!」
「でも、このままじゃ、2人とも……」
エルが倒れてからずっと術を施しているエリーゼはかなりの霊力野を使っているため、彼女の体力もそろそろ危ない…
そんなエリーゼは自分の事よりエルの心配ばかりしていて、ミラをはじめ私達はこのまま二人を放っておくわけにはいかないと思い、最善策を考える
「……俺が幻魔を誘き出す!」
「はぁ、どうやって?」
その時、ルドガーがそう言ってミラの質問に答えるように黙って私達から離れた場所へ行くと……剣を片方構えて自分の腕を切りつけた!
「ぐっ!」
「えっ!ルドガー!?」
「なにをするんですか!?」
「すごい血だよー!」
「まさか……血の臭いで幻魔を誘き出す気!?」
「そうか、生き血をすする魔物だから……だけど、やり過ぎよ!」
突然のことで驚きながらも、私達はそんな危ないやり方で幻魔を誘き出すなんて……とルドガーを心配していると、彼は「大丈夫…だ」と怯まなかった
「お前、そこまで……」
「大切な子なのね」
「ああ…」
ユリウスさんとミュゼにそう頷くルドガー前に聞いた事あったな。エルとルドガーはカナンの地に行く事を誓った大事な相棒だって…
ミュゼの言った通り、エルがルドガーを大切に思うのと同じようにルドガーはエルが大切…ちゃんと約束を守ろうとしているんだな
私も今いる仲間としてエルや皆が大切。その仲間達の約束のために、私も尚更頑張らないと!
「きたわよ!」
すると、血の臭いを嗅ぎ付けた幻魔がまた姿を現して、ルドガーに襲いかかる!
「ルドガー!」
切りつけた腕で剣を咄嗟に構えられなかったルドガーの前に、ユリウスさんが自分の武器を投げて幻魔の攻撃からルドガーを守る
いけない!幻魔はもう姿を現したから、ルドガーの腕を回復させないと…!
そう思ってルドガーに近づき、腕に回復術を施していると、ユリウスさんは奪って行ったであろうカナンの道標“マクスウェルの次元刀”をルドガーに渡した
「!?」
「ユリウスさん!それ……」
「……大切なら守り抜け。何にかえても!」
そう言い終わったと同時に幻魔が攻撃をしかけてきて、ユリウスさんは再度ルドガーを庇ったらそのまま吹き飛ばされてしまい浜に倒れた
「うおおっ!」
腕が回復したルドガーは武器を構えて一直線に幻魔へ向かって行き、私達もその後を追う