海瀑に潜む魔物
幻魔は時々さっきのようなビーム攻撃をしてくるのが厄介だ
けど、近距離で攻撃していたら相手の反撃で流血して、もしかしたら私達まで呪霊術をかけられる恐れがあるから、あまり近づけない
「エル…!がん…ばっ…て……!」
「エリーゼ!?」
ふと見ると、エルに付っきりのエリーゼの顔色が悪い事に気付く
大変!エリーゼにもそろそろ限界が…!
私は2人の元に走った
「エリーゼ!私と交代して!」
「リル…?」
「私大丈夫だから、今のうちに自分の回復して」
「リルー…ありがと」
頑張ろうとするエリーゼとふらふらになって私にお礼を言ったティポと交代して、回復術を唱えてエルに施す
しかし、やはり特殊な術をかけられているため、エルはずっと苦しそうにしている状態が続く…
「(強力な術を弱めることなく、続けて施さなければならないってわかっていたけど…これは辛いな…)」
エリーゼはティポを使っていたとはいえ、ここまで頑張ったなんてすごいなって思い、そのエリーゼの努力が無駄にならないように…エルを必ず助けたいって気持ちで私は懐中時計を握る
「(これを使えば…!)」
この結晶の力なら、エルの苦しいのがしばらく止められるのではないか?って思って、私は強く握って心の中で念じた
「(エルを…助けたい!!)」
…しかし、懐中時計からは光が起こらなかった。つまり
「(結晶が…反応しない!?)」
まさか!この結晶は呪霊術には効かないのか…!?
予想外の事で愕然としていると
「…リル、私はもう大丈夫ですので交代です!」
そう言って横にきたエリーゼは私に微笑むと、また回復術を唱えはじめる
「でも…」
「エリーゼは回復術が得意だから、平気だよー!」
エリーゼの代わりに答えてくれたティポも疲れている様子だけど、交代って言われて術を止めた私は軽く目眩を起こしてその場にまた座り込んでしまう
2人が危ないからって助けようとしたのに、少しも状況が変わらないなんて私はなんて情けないんだ…
結晶はエルの回復してくれないし、どうしたら…
そう思った時、私はある事を思いつく
「(そうだ…エリーゼの回復には使えるかな?)」
「どうかしましたか…?」
「(エリーゼの体力…回復して!!)」
思ったまま念じたら、今度は懐中時計が光って、エリーゼはその光に包まれる!
…それと同時にどこかで何かが砕ける音がしたけど、今はそれを気にしている暇はない
「これは…!」
「力が湧いてくるー!」
「(よかった…)」
エリーゼの表情から回復に成功したって思って安心したが
「う……くっ……ああっ……!」
「エル!」
エルの様子は一向に良くならなかった。けど、今のエリーゼならなんとか頑張れるだろうって思って、私も自分自身を回復させて今度はルドガー達の方に加勢しようとしたら…
幻魔が仲間達を払い飛ばして、こっちに向かって飛んできた!
大変!自分の回復よりも、防御をして2人を守らないと踏み潰される!
そう思って術を唱え直そうとした時、ルドガーは骸殻に変身して幻魔に攻撃しようと槍を構えて追うように飛ぶ!
「うあああ〜〜〜っ!!」
しかし、素早い幻魔には追いつけない。そう思ったがその時ルドガーが光り出し、スピードが急に上がって槍で幻魔を突き刺す!
何が起こったか彼をよく見ると…
骸殻部分が上半身全てになっていた!
「骸殻が!」
「変わった!?」
「(あれはハーフ型の骸殻…!)」
リドウと同じタイプの骸殻に変身するなんて……なんで変身できたか確信はないけど、もしかしたらエルのピンチで潜伏能力が活性化されたのか?って思った
「うおおおーーー!マダー・デストラクト!!」
最後に力を溜めた槍でとどめを刺すと、幻魔は霧の様に消えて
槍先にあった時歪の因子はカナンの道標へと変わる
その時、エルから出ていた黒い炎のようなものが消えたと同時に、周りの世界は砕けていった
――――――――――
「うう……?」
「大丈夫ですか、エル」
正史世界に戻ってきたのを確認してエリーゼはエルの具合を聞くと、エルは上体を起こして「大丈夫」って頷いた
「よかった……」
私もミラと同じようにホッと胸を撫で下ろす。本当によかった…ミュゼの言うように幻魔を倒したから、呪霊術は消えたみたい
「ミチシルベ!二個!」
その時、ルドガーの手にカナンの道標が2つある事に気付いたエルは、驚いて言った
「ユリウスさんが、返してくれたんだよー」
ティポの言葉でそうなんだって納得したエルだったけど、急に複雑そうな顔をしてエリーゼに聞く
「エル、エリーゼに怒られた気がする」
「あれは、励ましたつもりなんですけど」
「ふーん……どっちでもいいけど……ありがと」
「めずらしく素直ー」
「そ、そうだよ!いい子にしてないと、バーニッシュがきてくれないもん!」
エリーゼに照れながらお礼を言うエルは、あくまでバーニッシュのためだからって可愛い意地を張る
素直なようで……素直じゃないなーって微笑ましく笑って見ていると
「けど、お礼はリルにも言って下さいね」
「リルのお陰でもあるんだよー」
「え?そ、そうかな……?」
いきなり、エリーゼからお礼は私にも。なんて言うから、私はそんなに頑張ってないよってエリーゼだけのお手柄にしようとしたら、エルが私に近づいて言った
「リルも…ありがと」
「い、いやいや…」
「……やっぱ、おっちょこちょいだけじゃないね」
「え?」
「なんでもなーい」
顔を赤くしたまま、すぐに後ろを向いたエルだったけど……
おっちょこちょいって言った?
なんで私に……ん、あれ?それってルドガーじゃなくて私?
ここで私はあのハ・ミルにいた時に言ったエルの言葉は、私に向けられたものだったのか?って思うようになった
そうしていると、元気になったエルはまた海辺に近づいて遊び始める
大丈夫かな〜?正史には幻魔はいないけどさっきの事が頭を過ぎって心配になっていると、エリーゼが一緒に行ってくれた
エリーゼは本当にたくましく成長してるね……エルより年上として頑張っているなって2人に微笑ましく思っていると、黙って立っているルドガーに気付く
どうしたんだろう?さっきの変身で身体に負担がかかったのかな?って思ったけど、道標を見ている事からユリウスさんの事を考えているってわかった
…そういえば、ユリウスさんの姿が見えない
こっちに戻ってくるときに隙を狙って、何処かにまた逃げたんだろう
けど、奪った道標を返したって……なんで?
またユリウスさんの行動について謎に思っていると、ルドガーにミュゼが話しかけた
「お兄さんのこと、心配?」
「いや……兄さんなら大丈夫だ。絶対に」
ルドガーはそう言うと、そろそろ行くぞってキジルから出て行こうとハ・ミル側の出入り口に向かう
「信じてるのね。羨ましいな」
そんなルドガーの後姿を見ながら、ミュゼは小さく呟いた
「…ミラもミュゼを信じているんじゃないかな?」
「え?」
「精霊界を出て行って世界の異変を調べに行ったのは、ミラがミュゼを信じて自分のいない間を任せたんじゃないかな?……って私は思うよ」
呟いたミュゼが何だか寂しそうに見えて私は思った事をそう話すと、ミュゼは少し驚いたような顔をしてすぐにいつもの微笑で笑う
「優しいのね。リルって」
「いや、ただ私が思った事だから……なんか勝手な事言ってごめん」
「いいのよ、ありがとう…ところで」
「ん?」
「それについてだけど…」
あ、忘れていた…ミュゼに結晶の事聞かれていたの
幻魔の騒ぎでそれどころじゃなくなったから、本当に忘れていた…!せっかく誤魔化せるチャンスを失ってしまい、どう答えようか再び悩んでいると
「なんだか言いたくないみたいだから、聞かないでおくわね」
「……え?」
「だけど、気をつけて。ただの勘であってほしいけど……嫌な予感がするわ」
「ええっ!?」
聞かないって言われたのには拍子抜けしてちょっと安心したけど、その最後の嫌な予感って何…!?
何でそう思うか聞こうとしたら、さっさと飛んでルドガーの後を追って行ってしまった
「えええ〜〜〜!!?そこで切られると、気になるよ〜〜〜!!!」
そう言いながら私はミュゼの後を走って追った