揺れる心



カナンの道標を2つ手に入れ着々とカナンの地に近づいてきたけど、ユリウスさんの逃亡でまたクランスピア社は慌ただしくなった

強い上に分史世界に入り込むことが出来るから、なかなか見つからない…悲しい言い方だけどユリウスさんにとっては逃亡はもう慣れているかもしれない

一体何を考えているのか、何がしたいのか、会えば謎は減るどころか増えるばかり


そんな私は今、ユリウスさんを追ってとある分史世界に来ている

同行者は誰もいないため、気が楽…って言えないな。やっぱり一人は寂しい




「(前は腹を立たせながら行ったから、気にならなかったけど)」




はじめて一人で分史世界に行った時には、リドウからムカつく事を言われてかなり怒ったなぁ……で、そこでまさかリドウの以外な過去を知って……




「(あれからだったよな……気になり出したの)」




はっきりと日付はわからないけど、たしかあの分史世界から帰ってきた辺りからだよなぁ

リドウが気になってきたのは

そう思い出しながら、この分史世界のクランスピア社の前に行くとなんだか活気がないような…しんみりとした雰囲気が漂っていた




「(あれ?この世界では会社やってんのかな?)」




外から中を見ようと少しずつ近づいたら、入り口のドアが開き数人エージェントが出てきた




「うわっ!」

「っ!」




その内の1人とぶつかってしまい慌てて謝ると、ぶつかった相手は何も言わずに去って行く




「何あれ、感じ悪ーい」




思わず口に出してしまったけど、皆は私が最初からいなかったかのように黙って行く……その姿を見て何か異様を感じた時、街の住人の声が聞こえてきた




「今日もまた探し物かしら?」

「クランスピア社のエージェントは大変だな」

「あれ、人数少なくないか?」

「またか…」




街の住人4人がそう話しているのを聞いて、情報集めのためにその人達に聞く事にした




「あの、すみません。クランスピア社のエージェントって、皆あんな感じですか?」

「えっ?」

「なんて言うか……前はもっと活気に溢れてたような」




そう聞くと、住人の達の表情がキョトンとした




「なんだ、知らないのか?」

「クランスピア社の社長が変わった事も?」

「えっ!社長が変わった!?」




そんな……この世界のクランスピア社の社長が変わっている?

驚いた私を見て、住人は詳しく話してくれた






















「――――って、わけで今のクランスピア社はあんな感じなんだ」

「そんな…!」




話をまとめると…


このクランスピア社の以前の形は、正史と同じくビズリー社長がトップに立って人々の生活用品から戦闘兵器まで作る大規模な会社として存在していた

ただ、違っていた所はあった。それはビズリー社長がユリウスさんとルドガーは自分の息子だと公にして自分の近くに置いていたらしい。住人達が言うに、見かければ楽しそうに話をしている姿が多くて仲良さげな親子だったと


これだけでも十分驚きだが、それよりも驚く事が


ある日武器を持った男が現れ、社長達を殺してクランスピア社を乗っ取り、全社員・全エージェントは逆らえなくて今の様な殺伐とした雰囲気になってしまった………と




「エージェント達が逆らえない相手って…そこまで強い相手なんですか?」

「おそらく…」

「セキュリティは万全のはずなのに、何処から侵入してきたのかも不明らしい」

「(侵入経路がわからない…?)」




並みのエージェント達よりも強く、セキュリティを掻い潜って社内に侵入して社長達を殺す…その特徴に当てはまる犯人の心辺りはないけど

これは…




「(セキュリティを掻い潜れるって聞けば元社員の可能性が高い…!)」




一体誰だか知らないけど、この世界で幸せに暮らしていた社長達を殺したのは許せない!こうなったら乗り込んでみてやろう

私は住人にお礼を言って、しばらくクランスピア社の周りを偵察する事にした























――――――――――――





一般人としてクランスピア社に入ってみたけど、もしこの世界に“私”がいたら混乱するだろうって思って隠れながら進む

なんだろう。いつも歩き慣れている会社なのにこんな事するなんて…




「(まるで泥棒みたい…)」




乗っ取り社長がどんな人か見に来ただけなんだけど…

あ、でもその社長が時歪の因子だったら斬らないといけない

つまり、これから悪い事をしようとしているのも含まれているから、こうしてても仕方ないかもな…


なんて自分に言い訳していると、社長室のドアが開いて何人か人が出て行った




「(乗っ取り社長は……いないか)」




あの中にいればって期待したけど、残念ながらそれらしい人はいない

やっぱり社長室にまだいるのか……続けてこのまま陰で見張るか、社員として社長室に正面突入すると言うかなり大きな賭けに出ようか悩んだ


けど、いつ開くかわからないドアの近くでこうしているよりだったら




「(よし、いっちょ突入するか!)」




そう決意した私はいつもはポケットにしまっている社員カードを首から下げて、堂々と社長室の前に行く




「し――――」




失礼します。って言おうとしたと同時にドアが開いて思わず「うわっ!」って大声を出して驚きながら一歩引いた




「あっ!す、すみません!」




すぐに謝って、出てきた相手を見ると




「なんだ……?」

「あっ…リドウさん…!」




そこにいたのはリドウだった!こ、こんな所で会うなんて……って思いながらリドウを見てると違和感を覚える。何故なら、今ここにいるリドウの右手に黒い手袋をしていたからだ

正史は両手にスーツと同じ赤い手袋をしているはずだけど……怪我でもしたのかな?

色々考えながら黙って見ていた私を見て、このリドウは何だこいつ?って言いたげな目で私を見ていた

えっと、この世界って“分史の私”はいない……のかな?

もしそうだとしたら、知らない人設定で親しく話をすれば怪しまれる!ここは無難な態度でいくか!




「お、お疲れ様です」

「ああ…」




あくまで部下の1人としてそう挨拶をすると、普通に返事をしてくれてなんとか上手くいったなって心の中で安心する

ここでリドウが社長室から出てきたのを良いことに社長について聞いてみた




「あの、失礼ですが社長はどちらに?」

「社長?………地下だと思うが」




私の質問に対して何か考えてからそう言ったリドウにお礼を言って、さっそく地下に行こうとしたら




「待て。俺も行く」

「え!?」




なんと、リドウまでも一緒に行こうと言い出した

まずい…乗っ取り社長に会った時に時歪の因子の反応が出て戦闘になったら…確実にリドウとも戦う事になる

私の実力じゃ彼には勝てないと思うし、何より……まぁ、色々あるから今一緒に来られるとかなり困る!




「あの〜……なんで地下に用事があるんですか?代わりに私が……」

「俺が行ったら都合が悪いか?まさかテロでも起こすつもりじゃあ…」

「いえいえ、そんな事ありません!…わかりましたよ」




はい、完敗です。そこまで突っ込まれればそれ以上は言えない

仕方ないな。何かあったら……すぐに、とんずらして作戦を立て直すか

私はリドウと少し距離を開けながら地下に行った



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