揺れる心
まさか、こんなところでリドウと戦うなんて…前に戦った事はあるけど、あれはあくまで練習だ。今は本気で互いの命をかけているから気を抜いたら終わりだ
なんとか集中してリドウの攻撃から防御をする。彼は骸殻に変身してないのにそれ位の力だと思った
「その力で…ビズリー社長達を…」
思わずそう呟いてしまうと、リドウはその声を聞き取ったみたいで「ああ」って答える
「だけど、お前もクルスニクの力を持つ者ならわかるはずだ」
「何をですか…?」
「理不尽な運命に縛られる屈辱を」
たしかに、骸殻能力を持つクルスニク一族には理解しがたい宿命だと思う
カナンの地を目指させる目的。そして1つだけ願いを叶えさせるって言ってより一族同士を争わせるなんて……それを作ったオリジンには何か真意があるかもしれないけど、私達は知らない
「太古よりクルスニク一族は他人を踏み台にしてカナンの地を目指した。俺もそのやり方をした」
「一体何のためにそんな事を…」
「この理不尽から解放されるために……なのにだ。世の中にはクルスニク一族でありながらその宿命から逃げて知らん顔して、今にも崩れそうな平穏な日常を送っている奴もいる……俺が殺した元社長達のように」
「!?」
「宿命から逃げた奴は、宿命から逃げずに何とかしようとする奴の踏み台になるのが当然だろ?そうしなければ何も変わらない」
「なんて事を…!」
彼の言う理不尽に思うのはそうだろうって頷けるけど、だからと言ってビズリー社長達を殺したのは共感できない
そこまで弱肉強食なやり方でなければならないのか?そんな事はないはず
「無関係な人を巻き込んで何が宿命からの解放ですか?貴方だって誰かに利用されたり自分勝手な理由で殺されたら、たまったもんじゃないでしょ!?」
思う事をそのままぶつけるように言うと、リドウは馬鹿にしたように笑う
「クルスニク一族って言ったの聞こえなかったか?一族なら無関係ってわけにはいかないだろ?」
「いいえ!やりたくないと放棄したのであれば、その人は無関係になります!貴方の言う一族が全て運命共同なら、大きな種別で言えば人間は誰しもこうしなければいけない・違反したなら殺せって言っているのも同然です!」
「はぁ、甘い精神のお嬢さんだな」
「っ!?」
その言葉で正史のリドウと同じ言葉だと気付いて、一瞬ドキリと心臓の音がするくらい驚く
たしかにリドウだから正史と同じ事を言ってもおかしくないけど…正史の彼は…
「それに、俺には……」
そんな声が聞こえたと思ったら、目の前にいたリドウが消えた
「えっ!?」
何処にいる?って慌てて周りを見ようとした時
背後に気配を感じて振り向こうとした瞬間、腹部に突然痛みが走ったと思いきや私は数m先まで飛ばされた
「ぐっ…げほっ…!」
リドウを見ると足を突き出していて、すぐに私を蹴ったんだなってわかった
ヤバい……完全に痛いところをやられてしまい、立って体勢を直せない!ゆっくり近づいてきたリドウは立ち止まる
「俺には他人に気を遣う心はない……ずっと信じられたのは己だからな!」
「っ!」
捨て台詞の如く早口に言い捨てたリドウは、最後だと言うように確実に殺意を持った目で私を見ながらメスを振りかざす
私はすぐに鞭から短剣に装備し直してリドウの攻撃を防ごうとした
お願い!攻撃をやめて…!!
そう願うけどリドウは止まる事なく、そのまま横にした私の短剣にメスを突き立てる。キィンと耳が痛くなるような金属のぶつかり合う音と、短剣から伝わるリドウの攻撃の重みに怯み悲鳴を上げそうになる
その時、私は光に包まれて周りが見えなくなった
なんだこれは?そう思っていたら、光はすぐに止み周りが見えてくると
短剣が白い光を纏っていて、真っ直ぐに伸びて長い剣になっていた!
そしてその剣先に……
再び攻撃しようとしたリドウの腹部に突き刺さっていた
「こ……こんな…は…ず……じゃ……」
「あ……」
やがて光は消え元の短剣に戻ると、リドウは持っていたメスを地面に落し、自身も地面に倒れた
短剣を見ると、その剣先には黒いオーラを放つ時歪の因子が歯車を回している…そして次に倒れたリドウの腹部から流れる血を見ると、私は自分のやった事に後悔する
「(私は……リドウを刺してしまった…!)」
今まで時歪の因子は魔物だろうと人間だろうと切ってきた。人間相手にはやっぱり後味悪いって思うけど、最近なってから後悔はしないようにしていた
が、今私には後悔の文字に支配されつつある。人間相手ってのも勿論だけど……何より交際中の愛する人だから
そんな大切な人を時歪の因子だからって刺してしまった手を見て震えていると、リドウはゆっくり私の方を向いて「なん…だよ」って呟く。何の事なのか聞いてみると
「何…泣……いてん…だ…よ」
「えっ」
そう指摘され目の辺りを触ってみると、目尻に涙が溜まっているのがわかった
知らない内に悲しさから涙が出たのかって思っていると、一粒頬をつたって落ちる
それを見た彼はなんだか呆れているような表情をして続けて言った
「お前は……本当に…エー…ジェント………か…?……言って…いるだろ……一族…は……誰かを犠牲に……しない……と…審判を越えられない……」
「はい、それは重々にわかっています。だけど、私は貴方を…」
「?…正史の……俺と…お前は……どんな関係…なんだ?」
「えっ?それは………」
彼氏から二人の関係を改めて聞かれたような感覚になり少しドキッとしながら、その質問に答えようとすると
その瞬間に時歪の因子が砕けて
私の目の前にいたリドウは自分の世界と一緒に散っていった
―――――――――――
「………ぉ……ぃ」
「………?」
「おい、リル」
「っ!」
私を呼ぶ声がして慌てて目を開けると、そこはクランスピア社の1階ホールで近くには………正史のリドウがいた
「座り込んで居眠りかと思ったが…」
彼にそう言われて自分は床に座っているのに気付く。いつもはちゃんとそのままの姿で正史世界に戻ってこれたのに…さっきの分史世界で体力を使い過ぎたのか?それとも…
なんて自問自答していると、リドウは私の様子から苦戦したんだろうって思ったのか、手を差し伸べて「立てるか?」って言う
それに対して、いつまでも床に座り込んでいる場合ではないと思ってすぐに『はい』って返事をして差し伸べられた手を借りて立ち上がった
「あ……」
「?」
繋いだままの手から来た彼の温もりから、分史の彼を思い出す
クルスニク一族なら一族同士潰し合わなければならない
信じられるのは自分自身
……この言葉とか色々思い出していると、あの分史リドウはついこの前まで一人でいて、たまたまクルスニク一族の宿命を知ってしまい価値観が歪んでしまったんだろうって思った
正史のリドウも他人は利用すべきものって考えてるとこも少なからずあるだろうし……
そう思いながらリドウを見ると刺してしまった瞬間までも思い出し、また涙を流してしまいそうで慌てて顔を反らすと、彼は「何なんだ?」って言いたげに訳がわからなさそうに首を傾げる
…いいの。この気持ちは貴方に気付かれたくないから
リドウにお礼を言って帰ろうとすると手を強く握られて行く足を止められた
「……どうしましたか?」
私の様子を察してくれたのか?
「お前が分史世界に行っている間にルドガー君達は3つ目のカナンの道標を手にいれたようだ。後で合流して確認してきてくれ」
「……はい」
そう思ったが、ただの仕事の話だった。
はぁ…何を期待してんのか。様子から真意を察しろって言うのが難しいのはわかっている
それにこんな事で悲しんでいたら、リドウにいつまで引きずっているんだ?って怒られるかも
気持ちを切り替えないと…早く忘れようとした
「…行かないのか?」
「えっ」
「なんで逆にお前が俺を掴んでいるんだ?って聞いている」
言われて見ると、さっきまで彼に掴まれていたはずの手がいつの間にか握り返して私が引き止めている形になっていた
「………」
それに気付くと、リドウに理由を言わないでそのまま黙ってしまう
ああ…気持ちを切り替えないとって思っていたのに、無意識に悲しさからこんな行動をしてしまったのか
「リルから誘ってくるなんて珍しいな」
「………」
「来いよ」
リドウは私が分史世界で何をして何を聞いてきたのか知らない
ただ、今にも泣きそうな私に優しく接する彼にいつもよりも甘えようと、周りを気にせず
その胸に顔を埋めた