ヴィクトル分史(行き違った歯車)



お腹が更に張って重みをすごく感じるようになると、自然と歩くのがスローペースになる。前からお腹の子に負担がかからないようにしてきたけど、順調に育ってるから更に慎重に。時々私の行動を気にするように動くのを愛おしく思いながら


私はその足でクランスピア社付属の病院に定期健診に行く

そう、ここはリドウが全体を取り仕切ってる病院で、実は私のお腹のエコー検査とか診察もだいたい彼にやってもらっていた

だけど、この日は他に仕事があるのか婦人科専門の別の医者が担当した




「大丈夫ですよ。お子さんは順調に育ってます。だけどちょっとお母さんの体重増加が気になりますから食事には本当に気を付けてくださいねー、あと……」




あくまで医者と患者としての会話で、私は医者の話に『はーい』って言うしかない

リドウだったら、もう少しわかりやすく説明してくれるし、あれは良いのか?とか気軽に質問できるけど………わからないところは帰ってからリドウに聞くか

私はすっかりリドウに頼りっきりな気持ちになり、健診が終わってさっさと帰ろうとした



その時、奥の廊下をリドウと彼の部下らしきエージェントが通った。だけど……




「(あのエージェントはたしか分史対策の……)」




そう。前までリドウは分史対策のエージェントだったけど、今じゃほとんどその活動は休止に近いはず

それなのに、あのエージェントと一緒に行動してるって事は……

何かただ事じゃないのが起こったのかと思い、私はこっそり二人の後をつけた














後を付け続け、彼らが入ったのは社長室

これはもう、只事じゃないの間違いなし!一応私だって元分史対策エージェントだもの。聞いたっていいよね!

もし見つかったとしても「夫を探しに来たんだけど話し中だったから、終わるまで待ってました〜会話の内容?聞いてないですよ〜」って言って誤魔化せばいいし

なんて軽い気持ちで社長室の前に行って中の声に聞き耳を立てた





「………考えてくれたか?」

「一応、頭には入れていますよ」




最初に聞こえてきたのは、そんな会話

考える事?なんだろう?

もっとよく聞くために、周りに誰もいないのを確認してドアにくっつくように近付いた

そしたら………




「ここがたとえ分史世界とはいえ、まだ希望はある………クルスニクの鍵だ。クルスニク一族から生まれる新生児に期待してる」




…………え?




「もし、鍵じゃなくとも、鍵が出現するまでの時間稼ぎにはなるだろう…………わかってるかリドウ。この世界を正史世界にさせる可能性があるのだ。そのためなら一人や二人の犠牲が出るのは、いか仕方ない」

「………はい」

「彼女には、この事を話したか?」

「まだです」

「リルも今じゃ元気を取り戻したようだが、いずれこの世界が消える恐怖が沸くだろう。………これは君達のためでもあるんだ」

「わかっております」

「では、頼んだぞ」



























気付けば私は社長室から逃げるように早々と歩いていた




「ウソ………ウソだ………」




まさか生まれてくる子にそんな事を……

いくら、この分史世界が助かるための方法があったとしても、そんなやり方……


だから、リドウは私と結婚したの?

だから、私に子供を身籠らせたの?


全ては、そのために……




「あれ、リル。どうしたんだ?」

「!、ルドガー……」




夢中で歩き続けエレベーターに乗った時、誰か入ってきたと思ったらルドガーだった




「えっと………それは………」




さっきの事が衝撃すぎて、なんでここに居るのかどう話そうかすぐに思い付かなかった




「リドウを探してるのか?」

「あ……まぁ。そんなとこ」




ルドガーにもしかしてそうなのか?って聞いてくれたのが幸いした

そうだった。そもそもはリドウを探していたわけだし、社長室の会話を聞く前にいざ誰かに聞かれたらそう答えようって考えてたのに……

私の返答にルドガーは納得したように「そっか〜夕飯の相談とか?」って、いつもと何ら変わりの無い様子で聞いてきた

その様子を見て、彼はリドウとビズリー社長が何を話してるのか知らないのかな?それとも知らないフリをして彼までも同じ考えをしてるんじゃ……って不安げに見た




「ねぇ、ルドガー……」

「?、どうした?」

「ルドガーは……自分の命と子供の命、どっちが大事だと思う?」




私はルドガーからの問いには答えず、代わりにそんな突拍子もない事を聞いてしまった




「急にどうしたんだ?まさか、お腹の子に何かあったのか?」

「あっ!違う。そういう意味で言ったわけじゃないの!」




私の聞き方が悪かったのか、お腹にいる子に何か病気があったのか?って心配してきたルドガー

遠回しにそう言ったわけじゃなくてその言葉通り、ただルドガーにとって自分と子供の命、どっちが大事なんだろうって

それほど私は……彼らの会話がショック過ぎて、子供はいないけど同じく家族を持つルドガーはどんな風に思うか気になった




「ん〜……俺はまだ子供がいないからわからないけど、子供を大事にしたいって思う」

「そう………だよね」




これからまだ未来がある子供を大事にしたいよね

私はルドガーの返答に安心したけど、だからって私の不安は無くなったわけじゃない




「リル?」

「ああ、うん!大丈夫大丈夫!」




私が落ち込んだように見えたルドガーは何があったのか再び聞いてきそうだったから、慌てて元気を装う




「変な事聞いてごめん!じゃあ私はここで!」




エレベーターが一階に着いてドアが開くと、ルドガーに「またね!」って別れて足早にクランスピア社から出て行った



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