鱗粉の幻夜(鱗粉の幻夜)

私とリドウは部屋を出てカードの案内に従い、1階の東側に行くと、まるで喫煙所があるような隅っこのスペースに大きな絵が飾っているのが見えた

これが……湖畔の絵か。そう思いながら近付くと、絵の近くにボーイさんとは違う雰囲気の黒いスーツを着た男性が立っていて、近付いた私達をじっと見ていた


「…………」


うぅ……言っちゃ悪いけど、あんな厳つい顔をした人が黙って見てくると、まるで睨んでるようで怖い

………だけど、ここまで来たからには頑張るって決めたから、スーツの人に臆する事なく、絵の前に来た


「(さて。これからどうしようか……)」


来たのはいいけど謎解きがあったそう思い出しながらカード裏を見る”1階の東側端の湖畔の絵の間。上弦の月が満月に変われば道が開く”か……


すると隣にいるリドウから「カードの穴を使うんじゃないか?」と声をかけられ、あの青いネクタイのボーイさんが切符のように開けた不思議な形の円を見た



「(この円………なんで綺麗な円形じゃなくて、こう………一部の曲線を切り取ったような形だろう?)」


そう思いながら穴越しに絵を見ていると…………ある部分に気付いた


「あの、これ何でしょう?」


私が指さしたのは、絵の左右に描かれている太陽と三日月の三日月の方

なんでこれが気になったのかと言ったら、この三日月だけ他の絵と違って絵の具で塗り固めてから作った窪みのように凹んでいたから

なんとなく、そこをカードの穴から覗くと………


「………あ!」


絵の三日月形の窪みとカードの不思議な形の円を合わせると、綺麗な円形になるのが分かり、そこでカードの謎解きが分った


「上弦の月が満月に変わるってこれが関係してるんですかね?」

「あぁ。よく気が付いたな」


リドウは自分のGHSを取り出すと、そのライト機能を使ってカードの穴越しに絵の三日月部分に当てた

すると


絵の後ろからガチャリと大きな鍵が開く音がして、次第に大きな湖畔の絵はドアのように横に少しずつずれていく

そして現れたのは…………大きくて分厚い扉。オープンセレモニーをやった会場のドアとあまり変わらないけど、一目見ただけで奥に厳重に秘密を隠してる物々しさを感じた


「…………見事。真夜中の蝶の夢をお楽しみください」


絵の近くに立っていた厳ついボーイさんが合言葉を交えながらそう言うと、まるで「無関係な人間が来る前に早く入れ」と言わんばかりに私達を見た


「………じゃあ、行くぞ」

「はい」


私達は現れた扉を開けて奥へ進んだ







絵の扉から奥は小さなランプが薄く照らす暗い下り階段の一本道

まるで西洋のお屋敷の地下牢に続きそうだと思っていると、また大きな扉が現れ、そこを開けると…………



セレモニー会場のように広い空間からほのかに漂うタバコの臭いと共にスロットマシンの機械音やコインがじゃらじゃらと大量に流れてくる重く派手な音と空気を鼻と耳で感じ取るのが先で

次に視界には真剣な目でトランプゲームやルーレット、ダーツをする人々等が見えた


「さ、流石、大きなカジノ会場ですね」


前にドヴォールのバーでやったポーカーとは比べ物にならないくらい規模が大きいな……とトランプゲームしてるブースを眺めていると


「立ち止まったままキョロキョロするな」

「っ!ごめんなさい」


そうだった、そうだった………今の私達はカジノに通う一般のカップルって設定だった。ここでカジノは初めてです!ヤバい噂の真相つかみに来ました!と宣言するような落ち着きのない行動を取っては怪しまれてしまう

慌てて私は冷静を装い、リドウと腕を絡ませたままカジノ会場を歩きながらゆっくり周りを見た

この会場のどこかにオークションしてるところが………

そう考えながら歩いていると、赤いカーテンで奥が仕切られた場所を発見する

もしかして、この先が?とカーテンの隙間から中を覗くと、これまた更に薄暗い空間に沢山の人がいて、その中心にはスポットライトで照らされた古い機械らしき物がある

そして空間からは「10万!10万ガルドになりました!他は!」という声と共に「11万!」「12万!」と名乗り出るように言いながらプラカードを掲げる人が次々に出た



「ここが噂のオークション会場だな」 

「はい。入ってみましょう」


私とリドウは音を立てないようにスッとカーテンの隙間からオークション会場に入る

そこはさっきまでの騒がしい雰囲気だったカジノとは違って落ち着いてて………言いしれぬ不安を掻き立てるような欲が渦巻いているように思えた

ただでさえ、地下のタバコの臭いが籠もる空間なのに、此処はまた一段と肺に重く伸し掛かるようにキツい


「(早く出たいけど、噂に聞くヤバい出品物が出るか確認しないと………)」


なんとか我慢してオークションに参加する人達の後ろから会場を見ているけど、今のところそれらしき物はない


「(まぁ、ヤバいものって、大抵最後の目玉商品として出てくるよね)」


そう思いながら、まだ終わらない競りを見てるのも少し飽きてきた私は顔は動かさずに目だけで会場をよく見た

後ろ姿だけだけど、参加してる人達みんなかなりのお金持ちっぽそうだな……まぁカジノやオークションだからお金持ってて当然か


「(ん?あれは……)」


参加者を見ていた私の目がふと、あるものに留まる

それは、薄暗い中で何故かはっきり見えた一枚の絵だ

左奥の壁の横に飾られているもので、この会場にいる人達は皆オークションに注目しているため、誰も見てないけど……



「(すごい。あんな綺麗な絵があるんだ)」



その絵は青を基調とした夜空と森を背景に湖に佇む女性が描かれている。一目見て………美しいと惚れ込んでしまうような色使いとまるで夜空の星が本当に輝きそうだったり女性の横顔の髪が靡きそうだったり………何処となく写真のようなリアルさを感じて感動しながら黙って見てると

なんと、その絵の中の森から所々に青い光が見え始めた


「(え?私の見間違い…?)」


ちょっと瞬きして再度見ても、やっぱり絵の中から光が出てき始めている

え………あれって絵じゃなくて、絵に似せかけた映像?よくパソコンとかのスリープモードで出てくる動く絵画をモチーフにしたモニター?

そう思わないと、あの輝きの説明がつかない……

だけど



「(なんで周りの人達は、あの絵の様子に気付かないのかな?)」


変に思ったのはそこ。こんなに輝いてるなら絵が掛けられている左の壁付近に居てオークションに参加してる人達だけでも気付いて絵に注目するはず

…………そこにいる人達は常連で、あの絵がただの絵画型のデジタルモニターだってわかっててスルーしてるのかな?

その考えじゃないと、この状況に説明つかない


そう考えていたら………


なんと、絵の中の青い輝きが動き初めて………



「(え!?)」


それが蝶の形になって、凄い速さで私の元に飛んできた!!


あまりにも突然な事で驚いて声が上げられなかった私は飛んできた青い蝶とぶつかる寸前に目を閉じた


……………







top