鱗粉の幻夜(鱗粉の幻夜)
「(これで最後の品か………パッと見には出品物すべてにおかしな点が見られなかった)」
黙ってオークションの品々を見ていたが、怪しい薬物を入れるスペースや、何かの兵器や武器になりそうな物は見当たらない…………それどころか隠せる部分がない古い布や透明度の高い宝石等
アルクノアの残党が絡んでいると思われていた為に調査に踏み切ったが………これは情報元の早とちりかタチの悪いいたずらだな
…………ったく、とんだ無駄足食らったな
そうため息しながら隣にいるリルを見ると、彼女はオークションの品ではなく、別の方向を向いていた
「?」
俺もそっちの方を向くと、奥の壁に一枚の絵が飾られていた。薄暗くて見えにくいが………そんな珍しいものが描かれているのか?
いや、それよりも情報を集めなければならない
「おい、どうした………」
オークションの方に集中しろ。と小声で言っても反応なし
?、聞こえなかったか?と思い、次に肩を軽く叩くと………
黙って立っていたリルの身体がぐらっと揺らぎ
やがて、俺の方に倒れてきた
「(っ!?、リル!)」
倒れてきたリルを慌てて支え、顔を見ると目を閉じたまま苦しそうに眉を潜めて「う〜〜ん……」と軽く唸り声を出していた
「(急にどうした!?さっきまで普通に俺の横にいたはず……いや、待て。ここで様子を見てても仕方ない)」
もしかしたら知らぬ間に何者かから毒の攻撃を受けたと予想した俺は、一旦調査を中断して宿泊している部屋にリルを運ぼうとオークション会場とカジノ会場から足早に出ていった
宿泊している806号室に戻り、リルをベッドに寝せた俺はリルのドレスを脱がせて下着姿にした
外からの毒の攻撃………リルはあの青いカクテルが運び込まれてから飲食物は一切口にしていない
そうなれば、俺達が嗅ぎ回ってるのを知ったホテルの裏側の人間が毒針や毒物の入った注射をした可能性がある。と睨んだから、こうして脱がせて針に刺された跡がないか隅々までチェックする
だが………
「なにも……無いな………」
リルは昨晩見た時と変わらず白く美しい肌のままで、何かが刺さったような跡どころか、傷跡すらない
じゃあ、この苦しみ様は何なんだ?
空気中に撒くタイプの毒なら、リルだけじゃなく、俺も含めたあの会場にいた人間全員が苦しむはず……
一体、これは何なんだ?
そう思っていると
ふいに苦しむ様子だったリルの顔がだんだんと穏やかになっていき………ゆっくり目を開けた
「気が付いたか?おい、大丈夫か」
俺が横から覗き込むと、リルはきょとんとした顔をしたまま目だけで辺りを見渡している
「どこか悪いか?」
しかし、その問いにも答えず、リルはしばらく黙ったまま
「………まぁ目ぇ覚ましたなら、それでいい」
緊急事態で症状が治らないままだったら持ってきていた応急処置の道具を出そうと思っていたから、リルが目を開けてくれて正直ホッとした
「はぁ………ったく、捜査の途中で離脱するはめになるわ、ここまでお前を運ぶのに大変だったんだぞ?」
俺はまだ何も喋らないリルに向かってそう言った
別に捜査が中断になった事にもリルをここまで運ぶのに対しても怒りはないが、心配させた怒りがあったのもあり、そんな風につい言ってしまう
……もしかしたら、まだ原因不明の苦しさがまた出るかもしれないと思った俺はこの辺にしてリルを休ませる事にしようと、リルに背を向けてホテルに備え付けのルームウェアをクローゼットから取り出してリルに渡そうとした
「落ち着いたら何があったか説明してもら…………」
ルームウェアを渡しながら「説明してもらおうか。」と言いかけた俺に
リルは起き上がり、正面から抱きしめてきた
「っ!?」
また突然の事で驚きながらリルを見てると
下着姿のまま抱きつくリルは顔を上げて俺を見た
「ごめんなさい……勝手な事をしちゃって」
そう謝りながら潤んだ目で見つめる
「良かったら………お詫びとして私を好きにして良いですよ」
そして………そう言って俺の手を自分の太腿に這わせるように当てた
「お前………」
「ねぇ。いいでしょ?」
今は捜査の途中でもあり、リルが毒か何かに苦しんでるのでは?とか色々只事じゃない事が起きてるのに、いきなりベッドに誘うとは…………
「…………ハッ!いい度胸じゃないか」
俺は目の前にいる女を組み敷いてベッドに倒れ込んだ
俺の下では「嬉しい」と喜ぶ声が。そこで俺はある頼み事をした
「俺に続きをしてほしいなら…………“いつもみたいに可愛くおねだり”は出来るだろうな?」
「おねだり?」
「そう。俺の名前を様付けで呼び、次に子供のように自分の名前を言って可愛がってくださいってするんだ」
その言葉を聞くと、紫色の瞳が少し困惑気味に俺から目を反らして辺りを見渡した
まるで恥じらいを表すような姿で………
すると、彼女は俺とベッドの隙間からスルっと抜け出し、鏡台の前に駆け寄り、しばらく何かを見てから俺の方に向き直った
「恥ずかしいですけど………やりますね」
と、宣言すると
「リヨ・ウー様……私を……キャオ・リーの事を可愛がってください」
顔を真っ赤にしながら、そう俺に言ってきた
「フフフ………アッハハハハハハハ!!」
その言葉に俺は思いっきり大笑いすると、真っ赤な彼女は「?」という様に困惑した様子でポカンと俺を見ていた
「おいおい!自分の名前も忘れてしまったのか?」
「…………え?」
「そのリヨ・ウーとキャオ・リーってのはこのホテルに滞在中の偽名でお前が適当に考えて領収書に書いたんだろう?それをわざわざこんな真剣なベッドシーンにギャグネタとして持ち込むか?」
そう。その変な名前はホテルに予約するときにリルが咄嗟に言った偽名。だから勿論チェックインするときの書類にも領収書にもその名前が使われたが、二人だけの時には普通に本来の名前で呼び合っていたはず
それなのに、ここで偽名を引っ張ってネタにするか?非常事態なのにお詫びしたいという真剣な目をしておきながら
「あー………そうだよなぁ。名前を言ってくれって言っても知らなかったなら、領収書とか見る作戦は俺も昔した事ある。そしてその領収書は、そこの鏡台の前にあるな」
つまり、彼女は恥ずかしくて適当な場所に逃げて距離を置いたのではなく、領収書を探して見つけたから確認しに行った
なんで彼女がこんな事をしたのか大体は想像がつく
「で、楽しかったけど、そろそろ終わりにして本題に入ろうか…………お前は誰だ?」
「っ!?」
目の前の………リルの姿をした”何か“に問うと、「何故バレた!?」という様に目を見開いて驚く表情をした
「簡単だ。名前を間違うのもあるが、俺はそのおねだりをリクエストするとしばらく渋ってやらないからな」
最後はなんたかんだでやるけどな。でも今みたいにあっさりやるのは………リルは絶対にしない
それにほんの些細な仕草や表情も違っていたから尚更違和感に感じていた
「正直、可愛くおねだりしてきた彼女が見れてうれしいが、俺はあくまでリルの事は中身も全てに惚れてるんでね。他の女がする誘惑は迷惑なんだ」
俺が目の前の女は本物のリルではないと言うと、リルの姿をした“何か”が俯き…
「………チッ。大人しく私の誘いに応じていれば、天国に行けていたのに」
そう恨めしそうに呟いたと思ったら…………鏡台にあったハサミを持ってて俺に襲いかかってきた!
「でも殺してやる!!!」
誘惑してきたさっきとは違い、その目は殺意に満ちて普段のリルとは違う素早い動きで俺の目の前に来る!
「そうは……いかねぇ!!」
「っ!?」
俺は咄嗟にベッドの布団を投げつけると、小柄なリルの身体にすっぽり被さり、身動きを止める事に成功した
「くっ……離せ!!」
そう布団の中からくぐもった声がしたが、俺は彼女が身動き取れない内に応急処置道具として持ってきていた包帯で布団ごとぐるぐる巻にした
これで大人しくなるはず。その内にクランスピア社応援エージェントの要請とリルの身体をどうにかするために報告しようと社に電話しようとした
すると
「これで……終われるか……!」
「?」
急に布団の中が大人しくなったと様子を見ていると、布団の間から何やら青い色の煙みたいなのがモクモクと出てきてやがて部屋のドアの隙間から逃げて行った
「(なんだ………あれは一体………)」
そう疑問に思っていると、大人しくなっていた布団巻きが微かに揺れて…………「ん!?」という声が聞こえた
「あれ!?え!ちょ、何これ!私、今どういう状況になってるんですか?」
驚き慌てる声と共に布団巻きはうごうごと動き出す
その様子に思わず「フッ!ハハハ!」と俺が笑い出すと、それに気付いた布団巻きなリルは反応する
「え!?リ、リドウ?そこにいるの!?ねぇ、リドウいる!?いるんだったら助けて!なんか身動き取れないし何にも見えないから、今私自身がどうなってるか分からないの!ねぇ!」
「あぁ、あぁ。そうだな。お前は今布団に包まれたまま縛られて可笑しな動きをしている。見てて愉快だぞ」
「見てて愉快ってなんですか!リドウから見て愉快かもしれませんが、私はとても困っているんです!!笑ってないでこの布団退けて助けてください!!」
「ん?いいのか?そんなのを願って」
「いいも何も、私はこのままでいるつもりは一切ないですし、それに自分の知らないところで困ってる様子を笑われるなんて嫌なので!」
「そうか?…………OK。なら助けてやる。その代わり……」
助けを訴える布団巻きの包帯を武器のナイフで素早く切り、残った布団を勢いよくガバっと掻っ攫うと………
下着姿で「ああ。ようやく開放された」と安心するリルがいて
「自分の格好を見て後悔するなよ?」
俺のその言葉を聞いて自身の身体に目線を下げたリルは次に
顔を赤くして「キャー!」と悲鳴を上げながら俺に向かってタックルをしてきた
『クソ………油断してしまった』
その頃、青い霧状のものはホテルの廊下に漂っていた
『なんとか、あの魂を手に入れなければ……』
そう呟きながら次の作戦を考える青い霧は……
『?』
廊下の奥から来るある2人組を見つけた
「本当にあったのか?エル」
「うん!あったんだよ!サンオイルスターのコラボドリンク!あっちの自販機に!」
それは飲み物の自動販売機に向かう親子のような兄妹のような2人組
『………よし、こいつにするか』
狙いを定めた青い霧は………徐々に2人の後に近付き
そして
『その身体をよこせぇぇぇぇ!!』
「っ!?」
「えっ!」