京都伏見高校に到着したのが昼を過ぎた頃。お昼でご飯食べた後だろうけど、今もいっぱい体を動かしていたら差し入れをデザートとして食べてくれるかなぁ〜って思いながら部室に近付くと、中から声がする
あ、今日は走らないでミーティングかな?終わった時に入ろうって思って、申し訳ないながらドアの近くで聞き耳を立てて話を聞く
いや、確かにどんな内容かも気になるんだけど、この聞き耳はあくまで話が終わるタイミングを見計らうためで……なんて、いけない事をしている自分を都合良く正当化していると……
「この作戦はこの地点で………スプリンターを切るところや」
「!?スプリンターを切るって…!」
「な、何を言うとるんや!!」
翔君のそんな話が聞こえて、他の皆が反論している。スプリンターを切るって?俺はそこから疑問に思って話を聞き続ける
「こっから先はクライマーとエースアシストが居るだけでええ……キミらは足手まといや」
「足手まといやって!?毎日練習してきたんやからタイムは数値的に問題無いやろ!」
「そうや!ここまで来て……俺と井原さんを切り捨てて行くなんて、無謀やないか!?」
どうやら、作戦である地点に付いたら六人いるメンバーの内、スプリンターの井原と山口を置いて進むらしい
たしかにそれぞれ得意の地形があってついて来れないメンバーがいるかもしれないけど、仲間を置いて行くなんて……それは負けそうになって最悪時の苦渋の作戦だと思いたかった。が
「ハァ?あんな短距離でタイム出した言うてもなぁ、IHの中盤でバテるのは目に見えとる。せやから切って当然や」
「!?」
翔君は容赦なくそう言って周りと俺を唖然とさせた
「御堂筋…君。お前はそこまでして勝利にこだわるんか……!」
「当たり前やろ。ロードレースは速いもんが勝つ。これは仲良うして勝つ勝負でも遊びで勝負しに行くとちゃうのはわかってるはずや。キミィらはボクの言う通りに手足として動いていればええって約束や……なのに、今更口答えするん?」
石垣の問いに今までそう話してきたよな?って逆に聞いて何も言わせないようにする翔君
ああ。もう………我慢できない……!
俺は勢いよく部室のドアを開けると、それに皆が注目して驚く
「ユーリィ……さん…」
「それ、本気で言ってるの?」
「ファ?いきなり何ィ?」
突然の俺の登場に驚いたままの石垣達、そしてすぐに邪魔者が入ってきたと言わんばかりの嫌そうな目付きで俺を見る翔君
俺に首を突っ込んでほしくないのはわかっているけど、聞いてしまったからにはそのままスルー出来ない
「翔君が一番にゴールに着いて勝利したい気持ちはわかる。けど、それは翔君だけじゃなくて皆も一緒なはずだ。その敬意を尊重して限界まで一緒に走ってくれた方が良いんじゃない?」
「何やの。何も知らん部外者のキミに言われる筋合いは無いわ」
「確かに部外者だけれども!勝負に対する気持ちは全身全霊や命を掛けてるのはわかる。だからこそ言いたいんだ……仲間がいるなら大切にしろ。一人で大きなものと戦うのは無謀だ」
前から友達とかは作らず他人と馴れ合うのは嫌っていたけど、この部活では皆が同じ目標を目指しているからチームワークを大事にしていると思っていた
けど、翔君は例えどんな状況だろうと、他人は他人。自分は自分という考えは曲げなかった。俺はロードレースについてあまり理解していない所もあるけど……それは何か違うんじゃないか?って思う。それを話すと翔君は俺の方を向いて舌を出してギロッと丸くて大きな黒目で睨んで反論してきた
「ファーー何やと思ったら……キモッ!仲間を大切にしぃ?僕らに負けろ言うてるの?」
「なっ!何を言ってんだ!そうじゃないのは聞いてわかるはず……」
「わかってへんのはキミや。目の前に勝利が転がっとったら足手まといに構ってる暇は無いって思わん?」
「それは翔君がこの中で一番に強いからそう言えるけど、見放された仲間はすごく辛い思いを……!」
「……なぁ、ユーリィちゃん。もしかしてキミィ、自分の事と重ねてへん?」
「っ!?」
ここで翔君が俺の話を聞くのはうんざりするって言うような様子でそう切り出してきた
……バレてしまったか。そう、俺はつい自分の勝負事である巨人との戦いを思い出して翔君に話していた
巨大な敵に一人で戦うのは無謀。これは仲間と協力しなければ倒せないもので、力の無いものや戦闘中に不運を起こした者は全て―――
……俺はそんな光景を何回も嫌と言うほど見てきたから今は気付いたとは言え、前から無意識に翔君に仲間と戦う事の大切さに気付いてほしかった
けど、翔君がそう言ったって事は一応考えてくれていたのかな?そう思っていた……
「ほんま迷惑やなぁ。これはキミが抱えるもんと世界や規模が違うやん。同じように見られても困る」
しかし、俺の期待は虚しく外れ、翔君は俺が心配している事は違うものだから重ねるなと言い放つ
確かに翔君は他人と馴れ合うのは嫌いなのはわかってる。けど、どこかで俺は一昨日から昨日までの恋人ごっこで人の温もりを知ってくれたんじゃないか?っても思っていたけど……
「僕はキミくらいの人やったら、足手まといを捨てるのが利口の選択ってわかってくれるって思っていたんやけどなぁ〜……あ、キミ自身が足手まといやからそう言うん?」
「…………」
「それとも何や?この前やった遊びを本気にして僕に何か期待しとるの?……ププッ!キミ、ほんまにキモいんだけやなくて頭いってんちゃう?あれはごっこって言うたやろ。ま、僕にとっては退屈しのぎとうるさいキミを黙らせるための咄嗟に出た提案で、何とも思わんかったからな」
「……そう」
次に期待していた事も否定的に言われてしまい、自分はなんて愚かな期待をしてしまったんだろうって呆然とする
…たしかに俺だけが舞い上がってしまった感じで期待してしまったのが悪い。それは認める
…………けど
「……何もわかっちゃいねぇな」
「ハァ?」
俺は翔君の胸ぐらを掴んで、ぐっと自分の方に引き寄せて顔と顔の距離が近くなったところで、少し驚いた様子の丸い黒目に眼を飛ばす。そして……
「お前は何も知らねぇどうしようもならないガキだっ!!」
俺はそう怒鳴るように大声でそう言って乱暴に振り払うと、その怒りを持ったまま部室から出ていき、まるで逃げるような早さで久屋家に帰る
翔君は……翔君は人の気持ちすら理解しようとしない上に、自分さえ勝てればいいって考えの勝利の中毒者だ!!って心の中で毒を吐くんだけど何もならない。むしろ何で俺が目の奥が痛い感覚にならなければいけないんだ……って悔しくなった
―――――――――――
………あーあ。何て事しちゃったんだろう。差し入れも渡さずに大人げなく大声上げてさ
俺は出ていった勢いのまま久屋に入ると、そのまま自分が使わせてもらっている部屋に行って布団にぼさっと横になる
その様子を何処かで見ていたであろうユキちゃんが部屋の戸の向こうから、何があったのか心配して聞いてきた
俺は差し入れはタイミングを失って渡せなくなって、具合が悪くなって帰ってきたと嘘を言って部屋から出られない事を話す
……お世話になっている所の子と喧嘩したなんて俺の口から言えないってのもあったけど、何故だか翔君に会うのが気まずく感じる……いつもは年下相手にこんなんじゃないのに
そんな少し自分の気持ちに納得がいかないっては思ったけど今はこのままの状態でいたいから、とりあえずそれを優先しなければって考えた。その俺の言葉を信じたユキちゃんは夕飯は持ってきた方が良い?って聞いてきたからお願いした
「(翔君の……馬鹿)」
俺は自分の意見がわかってもらえなかった大人げない悔しい思いは晴れることなく、翔君に対しての変なモヤモヤした気持ちが増幅する中、渡せなった差し入れを食べる
仕方なく食べるそれは余計に辛さが加速しそうになりそうだったけど、ユキちゃんや他の家族に変に心配されないようにって完食した
けど…言った通りに俺は翌朝まで部屋から出る事が出来なかった