冷戦を終結させよう



夕方になり翔君が部活から帰ってきた。俺は早速、話をしたいって言いに行きたかったけど、この期に及んでなんて言えばいいのか悩んだ

普通に言うのが一番良いと思うけど、もし無理とか嫌だって拒否してきたら?とか無視するんじゃないか?って思うと、また俺もムキになってガキみたいな事を言ってしまうんじゃないかなって少し不安になる

でも、落ち着いて……残された時間も考えるんだって自分を奮い立たせる。よし、今はもうすぐ夕飯になるから食べ終わった後に言おう




「翔君……話したい事があるけど、いい?」




思い直した俺は、実際に翔君に言う事を練習がてらに口に出してみた








「……ええで」

「は…?」



すると、何処からか声がした。あれ?まさか……

そう思ったと同時に俺の近くのトイレから水が流れる音がして、数秒後にドアが開くと……




「……なんや」




なんと、その出てきた人物は……俺が今練習していた事を話そうと思っていた翔君だった!




「う、うわああああああああ!!?ど、ど、何処ぞの博士のプロポーズみたいになっただとおおおおおお!!?」

「ピギィッ!?な、なんやほんま、いきなり……」




予想外すぎて驚きのあまり大声を上げてしまうと翔君も一瞬それで驚いて、未だに興奮気味で何も話さない俺にジトッとした目付きで見て「……用が無いんなら、行ってもええ?」って言って行こうとしたから、慌てて腕を捕まえて行かせないようにして話す




「あっ……あのさ!ゆ、ゆ……夕飯食べ終わったら、で、いいかな?」




軽くパニックみたいなのを起こして、急いで言わなければ!ってのもあり、ぶつ切りな言い方で、ほぼ駆け足のようにざざっと話してしまう

うわ〜……やっちゃったかも。これはキモいとか言って嫌がりそうだなって思っていると……




「………おん」




なんと、良いって返事をしてくれた。それを聞いた俺は腕を捕まえていた力が抜け、ゆっくり離しながら「え、え?あ、あ……」ってお礼の代わりに意味不明の言葉を言ってしまったけど、翔君はそれを気にしてない様子で俺と話した後に自室に戻って行った


……あぁ〜本当にびっくりした!噂をすれば何とやらって聞いた事あるけど、これは完全にあの漫画で見たスランプな博士と同じだなって今になってから少し笑える

まぁ何はともあれ、話す機会を作れたから良しとして、俺は気持ちを切り替えて話すときには落ち着ついて真剣に言おうって思った














――――――――――――










「…………で、用って何?」



夕飯後、翔君と話すために彼の部屋に行く

……あの日の前にはしれっとこの部屋に入ってくつろいでいたけど、今はなんだか違う雰囲気で少し緊張してしまう

話を聞いてくれるって言ってくれた翔君だけど、早くに終わらないかってだるそうに椅子に座っている。じゃあ……話しますか




「あの………この前は言い過ぎてごめん。何も知らなかったのは俺の方だった」

「………ユキちゃんとかから僕の事聞いたん?」

「え?」

「とぼけたってわかるで……聞いたんやろ?」




たしかにユキちゃんと話して色々気付いたんだけど、そんなに一から十まで細かく詳しく聞いていなくて、あくまで自分の勘でそうだろうって確信を持っただけ。だから……




「いや、ただ……俺は見ていなかった事に気付いて、忘れていた事を思い出しただけだ」

「……はぁ?」




何を言っているんだって首を傾げる翔君に俺はゆっくり話す




「俺は何で仲間を大切にしろって言ったのか……それは居て当たり前だと思って喧嘩したままだったり感謝の言葉も伝えられないまま過ごしていて、突然の別れで悲しい思いをしてほしくなかったから。そして何より俺は翔君の事をちゃんと見ていなかったから、ただ勝利したいだけのガキなんだって勘違いしていた」

「………」

「翔君も抱えているものがあって、ああして色々捨てて生きるために進んでいるって気付いて……だから、翔君の言うとおり俺は自分自身の考えを押し付けていただけだった」

「……やっぱ聞いたんやろ。それで同情なん?キモッ」

「同情じゃない。それに中途半端な同情ほど残酷な物はないって思ってるからしないよ。するとしたら、自分が体験した事と似ているような事をしていたら、そのリスクを話して回避させようとするだけだ。だけど、翔君にはそれすらも要らなかったって気付いて反省した」

「似とるような事って……キミ、僕と似とる事したん?」

「ん〜〜翔君から見れば似てないと思うけどね。俺も昔、仲間とか友情って要らないものだって思っていたんだ」

「ファ?キミが…?」




まさか翔君がこの事を聞いて少し驚くとは思わなくて、俺はフフッと笑ってその事についても話した


あれは……訓練兵になったばかりかな。幼少期にある事が原因で友達がいなくて両親としか触れ合ってない俺は、当然ながら訓練兵団内で誰とも話そうとはせず、ずっと一人でいた


一人でいた方が気が楽だったから特に気にしないでいたけど、数日後に後に親友と呼べる友達と出会ったのがきっかけで仲間や友達がいる楽しさやその感謝を学んだ




「ファ〜…せやけど、僕は今でも不要なもんって思っとるよ?」

「うん。だから……余計な事して本当にごめんね。これは俺の上司から聞いた言葉だけど、物事のほとんどが何が正しいのかは決まっていなくて進んでみないとわからない。だから進んで行くしかないって……その言葉の通り、翔君がこの先で明らかに間違っている事以外はどんな事しても、変わらずに応援するから」




何とか思った事と謝りたい事を言えたんだけど、終わると翔君も黙った




「翔君?……やっぱまだ怒っている?」

「怒ってはおらん……呆れてるんや」

「え?呆れて……?」




そう言って立ち上がった翔君は身長差のせいか、見下したような感じで俺を見て続ける



「キミィは色々早とちりしすぎや。いっぱい有り過ぎて、どれからツッコミを入れたらええんやら……とりあえず、キミの応援なんて要らんわ。キモすぎて吐いてまう」

「ええっ?ほ、本当にそれだけ……?」

「それだけや。せやからそれ以上謝られると、同情やない言うても同情に聞こえて鬱陶しくってしかたないわぁ」

「わ、わかった……」




ずいっと顔を近づけてきたのに圧倒されてしまい、もうその事に関して謝らないって約束したけど……これでよかったかも

俺の返事を聞いた翔君は「なら、ええ」って言って、何事も無かったかのように、今すべき事であろう勉強を始めるのを見て、なんだか仲が元通りになったような気がした




「じゃあ、俺はこれで……IHはもうすぐだよね?部活には来ないけど、応援してるよ!」

「話し聞いとった?キミの応援は要らんって言うたやろ」

「遠慮するなよ!が・ん・ばっ!」




少し調子乗って1フレーズだけチアガールっぽく動きをつけて応援すると「キモー!今まで以上にキモいで!家から追い出したろか!?」って言って首根っこ掴んできたから、冗談だよー!って言うと自身の部屋から追い出しただけで勘弁してくれた


それに対して本当に言い争う前みたいになったって思い、何とか謝る事が出来てよかったって安心する




「(そうだよね……翔君はこの世界にいる限り、俺みたいに人との突然の別れ……巨人に喰われたり、権力者からの理不尽な処罰って事は無いもんね)」




本当に世界規模的に次元の違う話をしたから、翔君はすごく困っただろうって思い、次からは気を付けて話さなければって反省する

そして、翔君には話さないでいる“もう一つ気付いた事”に対しても思う





「(俺はやがて……この世界や翔君達とお別れする事になるから、あまり無責任な事は言えないな……)」



仲直りした後でも翔君の事がまだ気になってしまってすぐに帰らないけど、今後に関わるような事とか何か影響を及ぼすような事も言わないようにしようって、さっき話していた時に気づく

本当に馬鹿だな俺は。違う世界から来たって事はいつか帰らなければならない……つまり、こっちで関わった人全てと別れになるって考えれば最初からわかっていた事なのに

なんで今頃気付いたんだ……でも、これを考えると胸を締め付けられたように苦しい気持ちになるのは何故だろう。そりゃあ皆と別れるのは寂しいけど、それだけじゃないような……


なんだか、翔君に対するよくわからない気持ちも混合しているみたいで、もっとわからなくなった