かつての自分の姿



表彰式が終わり、京都伏見の待機テントに行くと、翔君達選手はもうテントにはいなかった

片付けや明日の準備をしている助っ人の人達にどこに行ったか聞くと、宿泊している旅館に行ったらしく、久屋家に翔君の様子を見てくるから遅くなるって言ってその旅館に向かう







旅館には翔君達のロードがあり、ここで間違いないと判断して中に入ってどの部屋にいるか探していると……多目的室と書かれた部屋から声がして、聞き耳を立てて誰がいるのか確認する





「待て……もう一回だけ言ってくれ」




そこからは石垣の声がして、皆はここにいるんだとわかって俺はそこに入る

すると、俺の登場で少し驚いて見る皆と……奥で縮まって座りマスクをしている翔君がいた





「明日は……ボクは走らん。棄権する」





翔君は俺の登場にも何も反応しないで、まるで何事もなかったかのように話を続ける

それを聞いた皆は戸惑いの顔をして近くにいた人と顔を見合わせ、石垣がゼッケンを持って励ますけど、翔君はそのゼッケンすら捨ててもいいって言って聞かない

すると、石垣君が土下座をして明日参加してくれるように頼んだ

石垣君……君も最初は俺と同じく翔君のやり方に納得してなかったけど、こうして成績を取れたから信頼するようになったんだな。それで翔君の実力を信じて一緒に頑張りたいって言うけど




「全てを出した。手を尽くした……それでも勝てんかった………もう、明日走る理由はないやろ」




翔君はどう言われようと首を縦に振らない。そこで、俺も入って翔君に聞いた




「なぁ……翔君。君は何のために走っていたか自分でわかっているか?」

「………わかっとる」

「そう……なら、まだ諦めきれない心があるはずだ。明日で全てが決まるなら明日にも全力で挑めばいい……翔君達にはその権利を勝ち取ったんだ。時間内にゴール出来なかった他のチームと違って」

「………ボクが目指したんは……完全優勝……」

「完全には出来なかったけど、明日優勝すれば全て良しだろ?な?俺から見て翔君達は今すごく良いところにいると思うよ」

「ほら、ユーリィさんからもそう思われとるから大丈夫やで御堂筋!」

「………」




俺からも何とか言葉をかけるけど、翔君の心には届かず

……仕方ない。他人とあまり干渉しない翔君にちょっぴり乱暴な渇を入れるか




「そうか……お前の決意や誓いはそれだけの脆いもんだったか」

「………」

「ユーリィさん……?」

「こんの……小さい奴め!デカイのは見た目と態度だけか?まだ終わってもいねぇのに全てを出し切っただと?ふざけるのも大概にしろ!」

「………」

「っ!?」




翔君は変わらず座ったままで、石垣君達は驚いて俺を見た

この前みたいに言い争いが起こりそうか?って不安になる視線を感じた俺は「大丈夫。俺に考えがあるよ」って笑ってみせると、石垣君達はキョトンとした顔をして様子を見続けた


そう、俺は言い争いをするために怒ったわけじゃなく、これはまだ始まりに過ぎない………本当にする事は





「だったら………俺が翔君の代わりに出てやる!」

「………」

「………は?」

「えっ」

「えっ?」

「ええっ!?」

「はぁ…!?」



そう宣言すると翔君は黙ったままだけど

流石に皆は声を出して驚く……って言うより、呆れたのかな?「こいつは何を言い出すんだ?」って




「ユーリィさん……?」



冗談だろ?って聞くように石垣君が俺を呼ぶ。それで俺が勿論冗談だよって言うだろうって思っているみたいだけど、俺は「本気だよ」ってきっぱり言う

そうしたら半信半疑ながらも皆は俺を止めようとした



「な、何言うてはるんすか?」

「あの、ママチャリで参加出来ないのはわかってますよね?」

「そ、そうですよ!ロード経験者やないから……」

「経験者じゃない?だったら……今から練習してやるさ!!」




俺はそう大声で言って持っていた大き目のバッグを床に無造作に置いたあと、旅館の外へと飛び出した!









もう暗くなっている夜空に旅館の脇に停めてあるロードから翔君のを探して手にかける

よかった……鍵は付けてないみたいだから……乗れる!!

俺は翔君のロードを出して股がると、旅館の入り口に来た石垣君達がまた予想外だと酷く驚いて大声を上げた




「ユーリィさん!?一体何を…!?」

「言っただろ?今から練習するって……」

「ま、待ってください!い、いきなりロードに乗るなんて……ましてや御堂筋君のロードはマズいっすよ!!」




水田君が混乱した様子で止める声に笑いそうになったけど、俺も真剣だから悪いけど皆の言葉を聞けない


翔君と俺。言葉を聞かない人に挟まれて皆も大変だなって、自分で言うのもあれだけど同情してしまう




「俺が無事にここら辺回ってこれたら、出場を認めてくれよ?」

「いや、せやけど……!」

「御堂筋!早よう来い!ユーリィさんがお前のロードを……!」




そうしている内に井原が翔君を連れてくる。無理に引っ張られて気だるそうな感じだった翔君は、俺が翔君のロードに乗っているのを見て目を見開いて「ファ…!?」って驚いていた




「翔君も見ていろよ。俺が……翔君達の努力を無駄にしないって本気の力を!!」




そう言った俺は、サドルではなくフレームに乗るように尻を置いて、ペダルにグンッと力を入れて……旅館から出発した!!

















「な……な……!」

「うわっ!ユーリィさんロード乗れるんやったな!」

「ノブ、今言うとこそれやないで」

「ど、どうすんや……誰か追いかけんと……!」

「……ぁ……ぉ」

「御堂筋……?」

「あの……馬鹿ユーリィ〜〜〜!!」

「げっ!や、やっぱロード勝手に乗られたんから怒るよな……」

「?、何しとんや御堂筋。ユーリィさんの荷物漁ってええん?」

「ザク共ぉ……ちっと手伝え」


「「??」」