かつての自分の姿






「(いやぁ。ロードはまたママチャリと違って乗りづらいし前のめりになる感じで最初は怖かったけど、慣れれば速さに感動だな…)」




実際にロードのペダルを回してみて初めてわかるこの乗り心地と速さに圧倒されながらも足は止めない




「(そろそろ良い頃かな…?)」




そう。実はこれは半本気で半本気じゃない。どういう事かと言えば、これは翔君に再び闘心を起こさせる作戦で、俺が翔君のロードを勝手に使えば誰かのロードを借りて使って追いかけてくるはず

そこで止まって“な?お前にはまだ俺を追いかけられる力がある。そんな風にまたゴールを目指せるはずだ!”って言えばわかってくれるかも…と言う作戦だ

だから翔君の代わりに明日の最後のレースに出るって言うのは半分本当で半分嘘

上手くいくかどうかわからないけどな……って、考えていると後ろから微かにタイヤが地面に擦れる音がした




「(お。追い付いてきたか?)」




そう期待しながら少しスピードを緩めて追い付かせようとしたら、後ろからロードに乗る人が俺の横に来た!そして……









「あ、あの!だ、大丈夫…で、ですか…!?」

「ん?あれ……?」



なんと。そこに来たのは翔君ではなく……俺と身長差があまり無い眼鏡をかけた男の子だった

ありゃ〜……なんだ。この子は何も悪くないけど、期待外れって俺はガクッと首を下げると男の子はまた慌てた様子で俺を心配する。何が心配なんだろ?




「えっ、えっと……そのフォームがベストでしたら、すみませんけど……あの、の、乗りづらくないですか!?」




そう言う事か。たしかに今の俺のロードに乗っている姿サドルの高さを調節していないからフレームに股がり、サドルの先が背中に当たっている形だからね

それに対して心配していたのか……たしかに事情や一部始終を知らない人が端から見ればおかしな事をしているって思われて当然か




「ああ。これね……たしかに少し乗りづらいよ。何故ならパクってきたヤツだから」

「パッ!パクッ……!!?ま、まままさか、あ、あ、あなたはじ、じじ自転車泥棒!?」

「あ、いや。パクって来たって言ったけど、これは泥棒じゃない。知ってる相手からの許可を聞かないまま目の前で勝手に借りたって言う方が正しいかな」

「え?え?そ、それ……どっちにしろパクっ……」

「大丈夫、大丈夫〜」




眼鏡の男の子の言葉を無理矢理遮って大丈夫って言い切る

なんか心配そうに見る目が段々怪しい人を見る目になってきたから、警察に通報される前にこの子から離れよう……って思った時に、何か妙な風が吹くような音と「ぃ〜……」みたいな声がした




「君、なんか言った?」

「え。いえ。何でしょう……?」




不思議に思った俺達は、ふと、後ろを向いてみると……





大きな人影が両脇から煙を吹き出しながら、夜空に飛んでいた!





「っ!?」

「なっ……ななな何だ!!あれは!?」




驚きながら見ていると、だんだんその人影の姿がはっきり見えてきた!あれは……





「返しぃや……ボクゥのデ・ローザ!!!」




なんと、それは翔君だった!!翔君が来たのには「やったぁ!」って言いたいけど、俺達は何故翔君が空を飛んでいるのかで驚く。俺は何か異様だって思ってよく見ると……





「あー!!!それ俺の立体起動じゃねぇーか!!??」





翔君が体に付けているベルトとガス菅、そして背中にそれらを入れていたバッグが見えて、あれは立体起動だって気付いてそう叫ぶと、翔君はガタガタな飛行をしながら……




俺達の方にスピードを上げて近付いてきた!!




「ピギイイイイイイィィィィィ!!!」

「う、うわああああああああ!?こ、こっちに来ますうううううう!!!」

「うおおおお!?馬鹿!翔君!体の重心を左右のどっちかに掛けろ!!じゃないと…!!」




俺は……いや、俺と眼鏡の男の子は………


突然現れた翔君の飛行に巻き込まれて、近くの草原に豪快にめり込むように叩き付けられ、翔君も盛大に一回転しながら草原に落ちる形で着地した




これはもう……今までに無いマヌケで最悪な事故だなっ!!!


















――――――――――







「バッキャロー!!死にてぇのか!?」

「それはこっちのセリフや!ボケェ!!」

「まぁまぁ。奇跡的に皆無事でしたし、ロードも二台大丈夫そうですし、よ、よかったと言う事で……」



眼鏡の男の子(小野田君と言うらしい)が言うように、俺達が派手に転んだ場所は湿っていて柔らかい草原で、誰も怪我は無いだけじゃなくロードも大丈夫そうだ

ちなみにこの時に小野田君から俺と翔君が親しい仲である事とロードは翔君のだって知って、俺が泥棒じゃないって信じてくれた

だけど、俺は勝手に立体起動を使ったのに対して怒る



「これはなぁ!ちゃんとした訓練を受けてからじゃねぇと使えない兵器なんだよ!受けてない奴が無事でいられるなんて奇跡としか言いようがねぇんだよ!わかったか!?」

「そう言うキミやって、そうやろ!?経験者やないのにロードに乗って無事でいられるんは運が良すぎるで!!だいたいキミがボクのロードに乗らなきゃあんな物騒なもん使うたりせぇへんわ!!」

「うぐ……た、たしかに……」




言われてみればそうか……それに反論出来なくて、仕方なく俺から折れて謝った




「勝手に乗って……あーいとぅいまてーん」

「“とぅいまてん”やないわ……!謝る気無いんか?この馬鹿女……!!」

「い゛ぶぁい゛い゛ぶぁい゛い゛ぶぁい゛!!ぶぉ、ぶぉめん……!ぶぉめんあざっ……!(痛い痛い痛い!ご、ごめん……!ごめんなさっ……!)」



謝ると言っても本当に仕方なくってやると、当たり前ながら翔君は少しキレ気味に俺の頬を強く掴む

いつもと違って本当に怒ってるのか強すぎて頬骨もすごく痛くて、観念して謝るとしばらくしてから離してくれた




「……ファ〜もう、疲れたわ」

「あ、あの!御堂筋君!」




ここで翔君が自分のロードを手に取って行こうとしたところを小野田君に止められる。よし、いいぞ!小野田君!

俺は小野田君が明日の事について話して、参加せざるをえない状態になったらいいなぁ〜って思っていたら




「ザクザク言ってるけど……アニメ好きなの?」

「ファ?」

「は…?」




何の話をするかと思ったら、アニメ関係の話……俺も翔君もキョトンとしているのに、小野田君はお構い無しに熱く語る

これは翔君が呆れて行ってしまうんじゃないか?って思ったけど、小野田君の話すそのアニメは、たしか……




「アホか……真紅で例えるならボクは王立軍。人型兵器二号機や」

「!?」




やっぱり……それは翔君の好きなアニメだ。そうしている内に小野田君はそれについて一緒に話そうって言うけど、翔君は拒否する




「ちょっとくらい話したら?」

「嫌や」




俺からも口添えするけど、やっぱり意見を変えない。小野田君もなんとか語り合いたいって思うあまり色々話す




「ずっと僕一人で……アニメの話する人いなくて。一人で通っていたんだアキバに!毎日自転車で往復90q!夏休みは毎日通っていたんだ!欠かさず!!」

「すごいな君!そんな長い距離を自転車で!?」



小野田君が千葉のどこに住んでるのかわからないけど、そこから自転車で東京の秋葉原に行くのは純粋にすごいって思った

自転車も便利だけど、それは自分で漕ぐから体力消耗もする。好きなもののために頑張れる体力が小柄な体にあるんだなぁって、感心していると……




「そんなに勝負したいんやったら、やったるわ」

「えっ!勝負!?」

「薬局までや……勝ったらじっくりアニメの話したるわ」

「翔君……!」




すごいな小野田君!翔君の好きなアニメを的中して、心を動かす事が出来たなんて…!




「ほな、ユーリィちゃん……ちっと走ってくるから、もう戻ってええで」




そう言った翔君はさっさとロードに乗って行ってしまい、小野田君もその後を慌てて追って行った


ん〜戻っていいって言ってもな……まず京都伏見メンツのいる旅館に行って、翔君が総北の子と個人的勝負しにいったって言ったら困惑するだろうな。それに、そのまま翔君は勝負するフリをして京都に帰ってしまうかもしれない

そう思った俺は、慣れない手つきでおばさんに“もう少し翔君の側にいたいから、遅くなります”ってメールして…


翔君達を追いかけた