かつての自分の姿




暗い夜道だし見えないだろうってこっそり立体起動装置を使って二人の後を追いはじめた俺は、二人がゴール地点にしている薬局に一足早く向かう


本当は二人の後から様子を見たいって思ったけど、立体起動装置を使ってもいいんじゃないか?って思う夜道だから、当然二人に気付かれないように追う距離だと姿を見失いやすい

だから、一足早くゴールに行って待つ事にしたんだけど……薬局は何処だろう?

そこを重点的に探していると、大きな店に光る看板で“マツキトヨゾウ” って見えて、そこだと判断して降りた


さぁ、来るか?って店の陰に隠れて道路を見ていると………タイヤの走る音が聞こえて、目を凝らすと二人が見えてきた!

翔君は少し驚いている様な表情で、小野田君は笑っている。どっちが先に着くか?……って見守っていると



先に着いたのは翔君。つまり……小野田君の申し込みであるアニメの語りは無しになったって事だ




「(小野田君にとっては残念な結果になったけど、翔君の心に変化が起きたんじゃないかな…?)」




そう期待して見続けていると、翔君は小野田君になんで走ってる時に笑うのか聞く

それに対して小野田君は上手く言えないけど、素直に思った事を話す。そして、小野田君が別の方を見ていた隙に……翔君は黙って行ってしまう




「(あ。翔君……!)」




せめて小野田君の話は最後まで聞けよ!見てない隙に京都に帰るなんて……

結局は俺からも何とかしなければと思って翔君を追いかけた















「おい。こら、ちょっと待て〜〜!!」



なんとか翔君のスピードに追い付いた俺は、走る翔君のちょっと前に立ち塞ぐように降り立つ

俺が前に現れたのに驚いた翔君は急ブレーキをして止まろうとするが、あのスピードでだからすぐに止まれない!衝突するか?って思ったら、ハンドルを左に曲げて俺とは衝突にならずに無事に止まった




「いきなり出てくるな馬鹿女!轢かれてしもうたら……」

「翔君が俺を避けてくれるってわかっていたさ」




本当はぶつかるんじゃないか?って少し不安になったけど、ちゃんと距離を取ったから大丈夫だろうって気持ちが大きかった

さて、翔君が止まってくれたから、さっさと捕まえますか……




「ちょっとお姉さんに付き合いやがれ」

「ファ?」

















―――――――――――





用があるからって言って連れてきたのは薬局のちょっと奥にあった公園。そこのベンチに俺達二人は腰掛ける



「何なんや」

「まぁまぁまぁ。疲れてるだろ?一緒にゆっくりしようぜ」

「ボクゥ、そんなんする暇無い……」

「意見は変わらないのか。さっき小野田君と勝負してる時と終わった後に少し気持ちが揺らいでいるように見えるけど」

「………」




何の部分で引っ掛かったのかわからないけど、あの時の翔君は何かを思い出したような顔をしていた

もしかして……少しだけ明日はやっぱり出ようって気持ちになったけど、半分半分でどうしたらいいのか悩んでいるかもって思った俺は……また昔の自分の姿を見てしまった




「……俺もさ。前に自暴自棄になりかけた時があった。望み通りにならずに予想外な事が起きたショックで」




本当に……またこんな事言ったら、今回は“んなわけないやろ”って言われるかもしれないけど、やっぱ翔君は昔の俺と似ている

だからかな?なんだか……彼から目が離せないのは




「俺達の住んでいる国は壁に囲まれていて、数人が手作業でゲートを開かない限り外に出れないってのは話したよね?しかも高さは50mもあるから並みの巨人。いや、全ての巨人は絶対入ってこない………そう誰もが思っていた」




ゆっくりと、自分自身の事を話す。翔君は相づちとか返事はしないから、勝手にべらべらとだけど




「俺は調査兵団に入る時に両親の反対を押しきって入団したんだ。だから長期休みがあっても里帰りはしなくて……ある日、友人に付き添ってもらって帰る事にしたの。数年振りの再会でまだ俺の事を怒っているんじゃないかな?って不安に思いながら……」

「ファ〜……なんでいきなり話を変えるん?キミィは何の話をしたいんや」

「ああ、ごめんね。全く違う話だと思うけど、これから繋がるから」




この時に翔君は初めて話に対する事を言ってくれて、ちゃんと話を聞いてくれているのを知って嬉しくなった俺は続けて……

思い出すのが辛いある体験を話す




「俺の住んでいる街は最南端にあって、壁一枚を隔てて向こうはもう巨人達がいるって場所。怖いけどさっき話したように条件的に大丈夫だろうって思っていた……けど、その里帰りの時、俺や友人、そこの街にいた人達は見てしまったの」

「何をや」

「壁の上から顔を覗かせる……超大型巨人を」

「ハァ……?」




ただでさえ、今まで話した俺の世界での事を……特に巨人は半信半疑だった翔君は50mを超える超大型巨人って聞いて“またぶっ飛んだ事を言うてる”って思っただろう

だけど、事実。俺はたしかにこの目で見た……あの壁の上から見下ろす、皮膚が無く筋肉質が剥き出しになっている大きな顔を




「超大型巨人は一回の足蹴りで壁を破壊した後は消えたんだけど、壁に穴を開けられてしまったから、そこから外にいた巨人達が無数に入ってきて街にいた人達を……俺の両親を食い殺した」

「っ……!」

「あ……ごめんね。怖い話しちゃって」




前に俺の話で巨人は人を食べるって聞いてて分かっていた翔君だったけど、そうして数秒で街が地獄と化したのを想像したのか、言葉を失っている様子

……結構エグい話をしちゃったなって翔君に謝った後、その悲惨な状況は話さずに俺の話に戻す



「俺はその時にかつてないくらいに自分自身の無力さを呪った。だって調査兵なのに立体起動を置いてきたから何も出来ずに、両親が食われるところを黙って見て泣き叫ぶ事しか出来なかったんだぞ?………ホント、何のために調査兵団に入ったんだ。って悔しくて」

「………」

「俺が調査兵団に入ったのは調査兵が憧れだったからと、父親との夢を……壁外に巨人がいなくなったら一緒に旅をしようって約束でもある夢を叶えたかったから」

「約束……夢……」




そう、幼い時に壁外が平和になったら一緒に世界を見ようって約束

父は行商人をしていたから壁内の国や街や村を回っていて、俺もよく手伝いしに同行した

色々な所に行って物知りな父との旅路は楽しくておとぎ話の冒険みたいで「知識豊富なお父さんがいれば最強だね!」って言ったら「けど、壁外の知識はあまり無いんだよな〜」って苦笑されたなぁ

王や憲兵団に規制されてるせいで外を知らないから、自分が生きている内に調査兵団が巨人を全滅させて自由に行けたらいいなぁって言葉を聞いた俺は……「なら、俺が調査兵団に入ってその夢を叶える」って言った

当時幼かった俺の言葉だから父は本気にしなかったけど、そう言ってくれた気持ちが純粋に嬉しかったらしい。で、訓練兵団に入って調査兵になるのを話して猛反対されたのを押しきってようやく……ようやく夢への道が進もうとしたのに




「だけど、その父親も母親も全て失って、もうどうにでもなれって思って、その後の戦い方は無茶ばかりで……まるで身投げしてるみたいって言われた」

「………」

「けど、その後に気付いたんだ。生身で巨人に立ち向かおうとした俺を止めて一緒に逃げてくれた友人もその時に家族を失って同じく辛い思いをしていた事と、ここまで来て本当に全てを投げ出していいのか?って」




辛いのはあの時街にいた人や、街に家族とかがいた人……皆同じ。巨人を憎んで自分の手で仇がとれたらって思うのも同じだけど、それは力のあるものにしか出来ない。って悔しさも同じ




「その後に生き別れていた妹と再会して俺が守らなければって思った時に、再び兵士として何があっても戦いを放棄しない事も思えるようになったんだ……だから翔君。今はとても辛いだろうけど、本当にここで終わらせていいとは思えないんだ」

「………」

「これは翔君が決める事だから、俺はあまりとやかく言えないけど……翔君には後悔してほしくないの。やらないで後悔するのは、すごくやるせない気持ちになるから…」

「………じゃあ、キミィは?」

「え?」

「ユーリィちゃんは……今、兵士のままでよかったって思うん?」




全てを投げ出さないで来たこの道は……




「ああ。よかったって思ってるよ」

「……ほうか」




質問にそう自信満々に答えると、マスクした顔で表情は読めないけど翔君は俺の答えを聞いて、何かを考えてるようだ

……とやかく言えないし、これで考え直してくれって強制しているわけじゃないけど、俺の気持ちが少しでも翔君の心に届いていればなぁって思っていたら、翔君はベンチから立ち上がりロードに手をかける




「…行くで」

「え?どこに…?」

「腹減っとるやろ。近くのコンビニまで行くで」

「あ、ああ…」




てっきり京都伏見メンツのいる旅館に帰るのかと思ったけど……まだ決められないのかな?まぁお腹を満たせば考えも少し穏やかになって判断してくれればね

そう言えば俺も腹減ったなぁ〜

俺達は公園近くにあるコンビニに向かった