VS未知のモノ〜前編〜



俺は寝起きが悪い体質だが十年くらい兵士としての生活をしていたせいか、最近は自然と毎朝決まった時間に起きれるようになった

そして今日も決まった時間に目が覚める

つい、いつものように朝礼だって思いながら体を起こすと、見慣れない部屋に少し驚いてしまったがすぐに思い出す

そうだ……俺は昨日、壁外調査の帰りに巨大樹から落ちて、何故か知らないが俺の世界とは違う世界にいて、しばらくこの家に世話になるんだった

……やっぱり夢じゃなくて、本当に知らない世界に来てしまったんだ。突然すぎて今はまだ信じられないが不思議と恐怖感はない。物騒なところじゃないせいかな?

そう考えながら着替えていると、美味しそうな料理の匂いがした。昨晩の伯母さんの料理はとても美味しかったから、今朝はどんなのが出てくるか楽しみだ



「(しかし、世話になりっぱなしのわけにはいかないな…)」



着替えを済ませ髪を束ねた俺は、台所へ向かった















「おおきにぃ、ユーリィちゃん」

「いえいえ」



料理はそんなにする方じゃないけど、台所に行って朝食を作るおばさんの手伝いをする



「もう少し寝ててもええのに」

「お世話になる身としては、これくらいやるのが当然です」



そう話していると、誰かが台所に入ってくる



「あ、翔君おはよう」



のそっと静かに入って来たのは翔君だ

おばさんが挨拶をして、彼は挨拶を返しながら俺を見つけると、眠そうに細めていた目を少し大きく開く




「………」

「おはよう。ん?どうした?」

「いや…お前、料理出来るんやなぁって」

「一応、ちょっとしたものは作れるぞ。だが…」

「?」



俺は翔君の近くに来て、おばさんには聞こえない声で話す



「物資の少ない環境にいたからな。少ない食材で作れる料理しか出来ないんだ」



俺の世界では高価に当たる食材が数多く揃えられているこの台所

それを見ているだけでわくわくしている俺は楽しい気分でそう話すが、翔君は「ふぅん…」と薄い返事一つ

……興味がないってやつすか。少し寂しいなー




「ユーリィちゃん、悪いけどまな板に乗せている豆腐を切ってそこの鍋に入れてくれへん?」

「はい。わかりました」



おばさんに頼まれたのを快く受けたのはいいけど……ト、トーフ?トーフって何だろうなって考えながら、まな板に乗っているものを見て驚く



「(これ…食い物なのか?)」



そこには見たこともない白くて綺麗な四角いものが乗っていて、これがどんな物なのか想像つかない俺はまるで大理石か石鹸のように食べられない物に見えた



「(いや、切ってくれって事は食い物には間違いないと思うが……どうやって切ればいいんだ?)」



包丁を構えた俺に緊張感が走る。しまった…あらかじめ、おばさんに切り方を聞いておけばよかった

おばさんはユキちゃん達を起こしに二階に行ってしまったから、ここは俺がなんとかするしかない…!



「(まさか、食い物相手に苦戦するなんてな…)」



持っているものは包丁だが、刃物を持っているから戦っていた時を思い出し、何年もかかって巨人に立ち向かう勇気を培ってきたのに、こんなところでって少し焦る




『落ち着けユーリィ。相手をよく見るんだ…そして隙を伺って足を斬った後に、一気に背後に回ってうなじを削げ――』

「(ああ、いつぞやに聞いた兵長の言葉が……だけど、こいつに足やうなじが無いどころが、巨人じゃありません……!)」



ピンチになって、いつぞやに聞いた兵長の言葉が頭の中で甦って聞こえてきたけど、今相手してるのはトーフと言う未知なる食材……!しかし、俺は引かない!




「(思い切って……削ぐ!)」




包丁を両手に持って勢いだけで切ってみると……なんと、あっさり切れた

え?え?何?俺、今切ったよな。切った感覚があまり感じられなくてトーフを触ってみるとたしかに切れていたが、それよりも触ってみて柔らかいってのに驚く



「(おおぉ…!トーフって柔らかいんだ!すげぇこんな食材があるのか…)」

「何しとんの?」

「うわっ!?」



後ろから翔君が不審そうにゅっと顔を出していたのに気づいて驚いて声を上げる

こいつ…気配を消して俺に近づいただと…!?いや、それじゃないな。おそらくトーフ切るのが遅くて来たんだろう



「ごめんな。トーフとやらが初めてで、どうやって切ったらいいか考えていたんだ…けど、ようやく一回切ったからコツを掴んだぞ!」

「一回切ったって……」

「ん?」



翔君がなんか変なものを見るような顔をしてトーフを触る。すると、トーフは斜めに切れ目が現れて上の部分がずれた



「な?切れてるだろ?」

「切れてるんやけど、なんでそんな切り方したん!? 」

「えっ?」

「馬鹿ちゃうの!?もう、ええわ。貸しぃ!」



俺の切ったのを見た翔君は呆れながら怒って、包丁を貸すように言ってきた。言われた通り包丁を渡すと、翔君は慣れた手つきでスッスッと縦横に切って鍋の中に入れた



「ああ!それ小さく四角に切るんだ!」

「朝から頭痛いわ…お前やっぱ料理できひんやろ?」

「出来るって!ただ知らない食材だったから…」

「かと言うて、斜めに切るやつがどこにおんの?」

「あれは…勢いでああなってしまったんだ」

「迷惑な勢いやな…」



そう言って頭を抱えて台所から出ていくと、入れ替わりでおばさんが来る



「あ、終わったん?おおきに〜」

「いえ、これは翔君がしてくれたんです。すみません、トーフの切り方がわからなくて…」

「あら!そうやったの?また気づかなくてごめんなぁ」

「いえいえ、知らなかった俺が悪いんで…」



おばさんに謝りつつ内心翔君にも申し訳なく思った

…この世界で生きるために色々勉強しなくちゃいけないなぁって反省しながらそう決めて、出来た朝食をいただいた