家の人が集まって朝食を食べてる時に見慣れない男性が来てお互いに驚いて挨拶すると、おばさんの旦那さん……ユキちゃん達にとってはお父さんで、翔君にとっては伯父さんだとわかった
そのおじさんも俺がしばらくここにいるのに、何も異論はなく「残業や出張が多くてあまり家にいないけど、よろしくなぁ」ってにこやかに言ってくれて安心する
“ざんぎょう”と“しゅっちょう”とやらはよくわからないが、本当に良い人達ばかりだな。そう感謝しつつ食べ終わった後に後片付けも手伝った
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後片付けをしていると、おじさんは“かいしゃ”とやらへ。翔君、ユキちゃん、ユウタ君は学校に行くために早々に家を出る。どうやら会社と言うのは仕事場の事らしいな。そして学校に行けるなんてやっぱ金持ちなのか?って思った
何故なら俺の世界の学校はウォール・シーナ内地にしかなくて、金持ちや貴族の子しか行けない所だから
…巨人がいなければ、こんな風に自分のやるべき事も自由で羨ましいな。俺の世界でも仕事は自由に選べるが、巨人の奇襲のせいもあって今じゃ衣食住を満足に得られない人が多い。選びたくない選択しかない中では兵士を選ぶ人もいるけど…
ま、それでも死なずに済む憲兵団と駐屯兵団の志願者だらけで俺の所属する調査兵団は少ないけどな
……ああ、いかん。いらない事を考えてしまってイライラする所だった。これは本当に自分でも呆れてしまう悪い癖だな。そう思いながら使わせてもらっている部屋に戻って布団にゴロゴロと横になっている
しかし…暇だ。何をしよう。たしか今の時間は次の壁外調査の作戦を練っていたような…
「(あ、そうだ。立体起動の整備しよう…)」
そもそも、こうなったのはワイヤーがちゃんと出なかったからだって思い、部屋の入り口から死角になる所に置いておいてた立体起動装置を引っ張り出す
「(ワイヤー部分に何があったんだ?)」
手でワイヤーをゆっくり引っ張ってみると奥で何かに引っ掛かっているようで、これは無理に引っ張ったらまずいなって思い留まり、整備に使えそうな道具が揃うまで放置する事にした
しかし、そうなればまた…暇になる。作戦会議が終われば自主トレしてたのになーって普段の生活を思っていると、突然家の奥からゴオオオオ!って音がして驚く
「(なんだこの音は…!?)」
物騒なものは何もないった思っていたけど、実は何かあるんじゃないか?って不安になり、急いで音が鳴っているところに向かうと……
「え……?」
「?、ユーリィちゃん、どうしたん?」
そこには、おばさんが小さい機械にホースが付いた妙な物を持っていて、それからゴオオオオ!って音がしている。な、何だこれは…!
俺は予想外のものを見て驚いて「あ…いや…あの…」ってしか言えないでいると、おばさんがその様子を見て「ああ!」って何か思い付いたみたい
「ひょっとして、掃除の手伝いしに来たん?」
「あ…ああ。はい…!」
思わずそう頷くと「助かるわ〜」って嬉しそうに納得してくれる。な、何?掃除?掃除なのか?じゃあ、あの妙な機械は掃除するためのもの…?
そう考えながらマジマジと見ていると「掃除機は私がやるから、ユーリィちゃんは叩きで棚とかの埃を取ってくれへん?」って、叩きを渡された
あれは掃除機と言うのか。どんな物かまだ分からないが、とりあえず叩きでよかった…見たこともない道具を渡されたらどうしようかと思っていた
これなら俺にも出来る。掃除はいつも兵長に厳しく言われてて、うんざりしているけど、いつもと違う建物の掃除だから気合いが入った
掃除しながら見たことない物の勉強もした
一番驚いたのは昨日何気なく触っていた黒くて四角い置物で、それは遠くにいる人物や風景を映す物でテレビと言うらしい
他にも食材を冷やして保管する冷蔵庫や衣類を洗う洗濯機など、とても便利な技術であふれているなって感動が止まらない
「(すごいな…電気と言うもので、ここまで技術が発展するのか)」
そう言えば俺の世界ではまだ火を灯りにしている。そこが違いかって思うと電気とやらを持って帰りたいかもなーって出来そうにない事を考えながら次に掃除するためにある部屋に入ると……そこには不思議な物が置いている
「(なんだ、これは……単なる棚じゃないな……)」
そこの部屋にあったのは、平らな棚の上に食べ物や紙で出来た袋、金と黒の縦に長い置物、灰を入れた壺
そして―――綺麗な女性の肖像画が飾られている
「(すごいな…こんなに実際にそこにいた人を切り抜いた様な絵を描く人がいるのか…)」
どうやったらこんな風に描けるのかって思っていると、俺も昔両親との三人で肖像画を描いてもらってその時に本物そっくりですごい!って感動したのを思い出して懐かしくなった
その時後ろからおばさんが来て「そこ終わったら、後はもうええで」って言ってきた
「あ、はい。わかりました…」
俺はこの部屋に飾られている物は何なのかおばさんに聞きたかったけど、おばさんは二階に行ってしまい聞くチャンスを逃してしまう。……まぁ、後ででもいいか
もう一度、肖像画の女性を見て本当に綺麗な人だなって思いながら、その部屋を後にした
夕方になり玄関から「ただいま」って声がして出迎えると、まずはユキちゃんが帰ってきたみたいだ
「おかえり。ユキちゃん」
「ただいまぁユーリィ姉ちゃん!」
俺におかえりって言われたユキちゃんは笑顔でもう一度ただいまって言ってくれる
ああ、もう!ユキちゃん可愛いな!こんなに可愛い妹がいるなんて翔君とユウタ君は幸せ者だなって思いながら、そう言えばそのお兄ちゃん達はまだ帰らないのかユキちゃんに聞いた
「ユウタ兄ちゃんも翔兄ちゃんも運動部だから、ユキより遅くに帰ってくるで」
「うんどうぶ…?」
「ユウタ兄ちゃんは野球で、翔兄ちゃんはロードっちゅう特殊な自転車を使う競技部やで!」
詳しく教えてくれたユキちゃんには悪いけど、“やきゅう”と“じてんしゃきょうぎ”ってのが分からない…
運動部って事は体を動かすものなんだろうなっては思ったんだけど…ふむ、この世界には色んな名前の運動があるのか。それも勉強しなければなって思いながらユキちゃんを出迎えた後に夕飯の手伝いをしに台所に行った
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夕飯を作っている最中にユウタ君、翔君、伯父さんという順番で男達が帰ってきて夕飯を食べる
その時にユウタ君から野球とはどんなものか聞くと緊張しながらも素直に教えてくれて、どうやら手のひらサイズのボールを手で投げたりバットと呼ばれる木や鉄で出来た棒で遠くに投げる運動だというのがわかった
そしてテレビに出るプロと呼ばれる人達がいるらしく、そのチーム名で“巨人”というのがいるのも分かって、翔君の言っていた野球の巨人ってそれか!って理解する
「あの…ところでユーリィさんは得意なスポーツありますか?」
「得意なすぽーつ?」
ユウタ君にそう聞かれて何とか答えたかったけど、すぽーつ…つまり運動のジャンルの事か
だけどそれについてはまだ勉強してないから、どんなのがあるのか…!実際は兵士として剣を振ってるんだが、それは言えない…!
「……乗馬」
「え?」
「(翔君?)」
突然、翔君が乗馬って言ってそれを聞いたユウタ君は俺にそうなんですか?って確認してきた
これは……翔君は乗馬はすぽーつに入るって事を教えてくれたのかな?俺はそれを信じて頷くと、翔君以外は「すごい!」って驚く
「乗馬が出来るん?すごいわ〜!」
「そ、そうですか?」
兵士になるって事は馬に乗るのは当然だから、訓練兵の時に馬術も習い出来なければならい
俺や元の世界の住人は乗馬が出来るだけで別にすごいとか特別に思わなかったけど……おばさんの誉め言葉から、この世界では乗馬はあまりしないのかな?
「すごいなぁ〜!べっぴんさんで乗馬が出来るなんて……もしかして貴族とか良い所のお嬢さんとちゃう?」
「…!?」
「そう言えば、こうして長期間日本に滞在出来るっちゅう事はそれなりの金持ちやないとなぁ」
ユキちゃんと伯父さんの言葉は悪気の無い…むしろすごいって讃えているけど、俺にはその例えが嫌だ
俺にとっての金持ち…つまり貴族ってのは自分達の名誉や財産しか頭にない贅沢にまみれた馬鹿野郎共だと思っているから
けど、この世界は平民でもこうして良い暮らしをしているから、貴族とかの金持ちが嫌な印象じゃないんだなって思った。だけど、俺は貴族は大嫌いだから嘘でも貴族と名乗りたくない
「いえ……そんな金持ちじゃないですよ」
「ほんま〜?実はお姫様やったり」
「ええっ!お姫様やったら…ユウタに翔君!今のうちにどっちかユーリちゃんにアプローチして逆玉を狙え!」
おばさんのお姫様じゃないか?って発言に、おじさんは冗談でユウタ君と翔君に笑いながらそう言った
ユウタ君は「ア、アアア…アプローチって…何言うとんのや父さん!!」って顔を赤くして反論して、翔君は……それに対しては何も言わずに静かに食事を終えて食器を片付け、おばさん達に「車庫に行ってきます…」って食卓から出て行く
「あれ?翔君はどちらに?」
「車庫や。翔君はたまに車庫でロードで速く走る練習するんや」
「ろーど…」
そう言えば“ろーど”とやらはまだ、どんなものか知らない…これは知れるチャンスだと思い、すぐに「俺…その“ろーど”見たいんで、翔君の所に行ってきます」って食べ終えて食器を片付けて玄関に向かった
「おや、ユーリィちゃんが気になるんは翔君の方かな?」
「残念やな。ユウタ」
「兄ちゃん狙え言われた時に否定したからやで〜」
「うっ…うっさい!」