あれからどのくらいの時間が過ぎたのだろうか
ついこの前……向こうの世界にいて様々な文化や歴史を知り、生活や作法も学んで色々大変だったが楽しく充実したのが、あっと言う間に感じる
だけど、そうこうしてる内に現実に……自分の世界での最大の問題に叩きつけられた
今まで不透明だった巨人について何か判明するんじゃないかと、光明の兆しが見えたらしいが……本当に僅かだから、それを頼りにもっと深く探らなければならない
「(翔君………元気にしてるかな?)」
そんな目まぐるしく身辺が激変していく中、俺は別の事を考えてしまう
思い出に浸る暇は無いのはわかっているけど、どうしても彼の事が頭から離れられない
「(いけない……こんなんじゃ“後悔や困難を乗り越えた兵士・ユーリィ”じゃなくなる)」
すぐに切り替えようと両手で自分の頬を軽く叩いたり、がむしゃらに任務に励んだ
俺も負けるわけにはいかない。翔君だって悲しい過去に負けずに頑張ってる……
俺だって……!
物心ついた時から、俺はシガンシナ区に住んでいて父の行商や身体の弱い母の手伝いをしていた
そして……遠くから勇敢に門を潜り、やがて血塗れになって帰ってくる兵士達を見ていた
そんな生活が当たり前。何も疑問に思わず囲まれた脆い守りの中で何も苦悩も感じずに過ごしていた
だが、ある日
「なぁ。お前、捨て子なんだって?」
「母ちゃんから聞いたぞ!」
「え……?」
突然、同じ区域に住む年の近い子達からそう言われた
捨て子?捨て子って………何?
王都から遠いせいもあって学校に通ってない俺はその言葉が理解出来なかった
でも、あの子達の様子からすると“捨て子”は皆と違う者、忌み嫌われる者だと自己判断できる
それから俺を取り囲んでからかわれる日が続いて、外に遊びに行きたくなくなり家に引きこもるようになった
母に心配されて原因を話し“捨て子”の意味を聞いた。だけど母は悲しい気持ちを必死で押し殺したような笑顔で「大丈夫だから」と何度も何度もそう言って俺を励ました
違う。俺が聞きたいのはそうじゃない。捨て子の意味だ
はっきり答えない両親にムキになりながら何度も問いかける
そしたら、父がある言葉をかけてくれた
「ユーリィ。この国には色んな事情から悪い事をする人達がいるのを教えただろう?」
「それが何よ……俺は……!」
「親のいない子供に酷い事する大人もいるが、中には自分の子供ですら平気で傷付ける親だっている。血の繋がりが全てじゃないんだ」
「……?」
どういう事だろう?突然言われた言葉を黙って考えてると、父は俺の頭を優しく撫で「ユーリィなら分かってくれると信じている」と言って行商の準備に戻った
その時の俺はそれ以上しつこく聞くことをやめる……不思議とさっきまで煮え切らなかった怒りが消えているから
やがて、俺は年齢を重ねるにつれ父の行商を本格的に手伝うようになる。商品の棚下ろしや荷造りだけじゃなく父と一緒に馬車に乗ってウォール・ローゼ内の町に行ったりした
シガンシナ区から出たことなかった俺は壁内とは言え、広い草原に驚いたりウォール・マリアより発展した町を見て感動した
俺は……今まで狭い世界しか見てなかった。そう自分の無知を悔やんで商品の中にある本で文字や読み方、そしてその内容や歴史などを学んだ
……そんな時に俺は、いつかに知りたかった“捨て子”の事を知った
捨て子……実の両親から捨てられた子供。何故捨てられたのかは理由は知らないが、おそらく本に書かれてるような経済的な理由とか男女の不誠実な愛の末。とかだろう
この事実を知っても俺は別に悲しくもないし怒りも感じない。なぜなら俺は今いる家族に満足しているし、見たことも口も聞いた事もない人間にいらない感情を持つことは無かったからだ
何より……
「ユーリィ、疲れたんじゃないか?」
「ううん。大丈夫だよ!」
今まで知らなかった知識や世界を知る楽しさに夢中だったから
この日もまた父と行商で遠くまで来ていた。俺の疲労を心配する父に日が沈む前に帰った方が安全だと言って休まず帰り支度をする
俺が帰り支度をしてる最中に父は仕事の本拠地であるリーブス商会に報告と新しい品を納品してもらい、シガンシナ区に向けて出発した
その帰りの道中に父と今日の話を沢山して、自身も思い出や反省点などを振り返る
「ユーリィは本当に色々な物に注目してるな。その学習意欲があれば学校に通っていた方が楽しかったかもしれないな……」
「何言ってんの父さん!俺は行商だから、こうして色々知りたいって思ってんだよ!」
「そうか?」
「うん!だって、行商は物語に出てくる旅みたいで、物知りな父さんと一緒なら最強だから楽しいんだよ!」
この気持ちは嘘ではないし、父にいらない心配をかけさせまいと俺は意気揚々に話す
そしたら、父は「そうなら、いいが…」と嬉しそうだけど少し複雑そうな顔をした
その様子に首をかしげて父の顔を見ていると、続けて話し始めた
「父さんは行商人であくまで一般人。だから壁の外の事を知ることが出来ない……だけど、やがては調査兵団が道を切り開いてくれると信じている」
「調査兵団…?」
「あの壁を越えて外へ行くのをユーリィも見てるだろう。勇敢にも戦い………散っていく彼らを」
その言葉で思い出した。
そうか、あの人達はただ巨人を倒して世界を平和にするだけじゃなく、壁外の文明を……触れる事を許されない歴史の真実を探ろうとしていたんだ……
「巨人がいなくなって外へ行けるようになったら、それこそ一緒に旅をして珍しい動植物や物を発見したいな」
「うん……」
この時の俺は父の言葉に頷きながら考えた
“父も国に隠された真実や文明を知りたがっている。調査兵団に任せればいいと言っていたけど、任せているだけで……解決するのか?”
と。この考えが日に日に強く思うようになり、やがて俺にある決断をさせた
「調査兵団に入りたい……ですって?」
俺が12歳になった時、思い切って両親に話した
将来を決めてもいいこの年に……行商ではなく、調査兵になる。と
「何を言ってるの。調査兵団は危険すぎるわ!」
勿論、父は黙って首を横に振り、母は猛反対した
だけど俺は意思を曲げずに反対しつづける母と口論になる
「たしかにそうだけど、俺は……!」
「いい加減にしなさい!ユーリィ!!」
母との口論が勢いを増していく最中、唐突に父が声を張り上げてそれを静止させた
驚いた母は口を止め、黙って父を見る
俺は……構わず父に言った
「だって、父さん………俺は、前に言ったように外に……約束……」
そう。俺はただ約束した“平和になった壁外への旅”を果たしたいだけ
このまま黙って過ごしていたら、何の進展もなく終わってしまうのではないか………そう不安に思っていたら、自然と答えが出てきた
他人に自分の夢を託すんじゃない。自分で叶えるために道を切り開くんだ。と
しかし
「だからと言ってお前が兵団に入る必要はない。実力ある者に任せるんだ……いいな?」
父は俺の意志や考えを理解しなかったのか、再度首を横に降って思い留まるよう、その手を俺の両肩に置いて落ち着かせようとした
父さん……父さんなら、分かってくれるって思っていたのに……
同じく新しいものを追究する心を持っていたと思っていたのに……
俺は…………勘違いしていた
勝手に“同じ気持ちだろう”と見えない繋がりを感じて喜んでいたけど
所詮は……血の繋がりのない他人だ
「だったら……」
俺は震える手で、父の手を振り払う
「だったら!実力を付ければいいんだろ!?付けてやるさ!!勝手に決めつけるな!!」
怒りと悲しみが混ざる宣言を吐くと、俺は側に置いていた荷物を持って家を飛び出した
後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえる
進む道先にいる町の人達が驚いて道の端に寄る
今の俺には関係ない事ばかり……
飛び出した身体は休む事なく走り続ける。この勢いのまま俺は訓練兵の志願をしにウォール・ローゼの訓練兵舎まで行った
一切、振り向かずに