それから俺はそのまま訓練兵として訓練兵舎で暮らすようになった
……両親が連れ戻しにやってくるんじゃないかと、外を気にしていたがそれは最初だけ
すぐに訓練兵としての厳しい訓練や試験が待っていた
体力、攻撃力、そして知識……全てを兼ねていないと扱えない兵器・立体起動装置を使いこなすために俺は昼夜問わず参考書を読んだり一人で自習練習をして1日を過ごす
ただ淡々と、その日を無駄にしないように
自分を高めた
「これより上位10名を発表する」
三年後の卒業の日。訓練兵はこの日にどこの兵団に所属するか決める日でもあり、その中から上位10人が発表される日でもある
教官から1位、2位、と順に名前を呼ばれた訓練兵は前に整列する
そして
「第3席!ユーリィ!!」
俺の名前が集合所に響き渡ると、俺は特別驚くことも喜ぶこともせず返事をして先に呼ばれた奴らの横に並ぶ
何気に横をやると1席と2席、そして俺より後から呼ばれる奴らは皆、姿勢は真面目に卒業の日を受けてるように見えるが顔つきや雰囲気が「10位内に入れてよかった」と安易な安堵感が出ていた
俺はそんな様子にため息つきながら、早く先に進みたいとイラついた
「あの子、3位なのに調査兵に入るんだって」
「え〜!?勿体ない!憲兵になれる権利があるのに、その有り難さ分かってないのかな?」
「まぁあの子、結構変わった子だもんね。誰とも話さないしずっと予習復習ばかりで……」
……訓練兵の時から「兵士になるなら憲兵がいいな。無理なら駐屯兵が無難」だとか言っていた連中ばかりだったからな
このやり方を俺はずっと疑問に思っていた
じゃあ、なんの為に巨人の退治方法を学んでるんだよ。出来が良い奴ほど壁外から離れて安全な王都でぬくぬく暮らすなんて……出来る奴ならこの国の発展の為に壁外でその学んだ技術を生かせばいいだろ
結局どいつもこいつも……
「自分の命が惜しい。ってか」
まぁ俺も、国の為とか大層な事は言わないし思わない。ただの個人的な目的。父と交わした約束を果たすためだからな
命が惜しいと思う事もあるし、入団して後悔するかもしれないが……
「………行こう」
俺は三年間、世話になった訓練兵舎の部屋の荷物をまとめて調査兵団の拠点に向かった
調査兵団の団長キース・シャーディスに迎えられ、すぐに深緑色のマントを支給された。背には兵団の象徴である自由の翼が刻まれており、人類の自由を勝ち取るための激励でもあり責任という重さを背負うんだな。と緊張しながら受け取った
そして、新兵だからと軽く予習や見学をするという甘い待遇ではなかった
すぐにベテランの兵士達と壁外調査が始まる
割り当てられた馬に乗り、ベテラン兵士や上官達の後ろを着いていく
やがて、壁外へ続く門のある最南端の街………かつて育ったシガンシナ区に到着する
この時、俺は「どうだ。兵士になれたぞ」と見返すような気持ちで両親を探そうとしたが、すぐにそんな考えをやめた
まだ巨人を1体も倒してないし、まだ外の世界を見ていない。だから不必要な見栄は今は捨てよう……
住民達に見守られながら進む道を俺はただただ門だけ一転に見つめ、脇目も振らなかった
そして、ついに
鎖が素早く巻かれる音と重い門が開かれる地響きのような音と共に………俺にとっては初めての壁の外の世界が見えた
「これより壁外調査を開始する!!」
団長の号令を合図に兵士全員、馬の速度を上げて駆け抜ける
これが……これが……
「壁の外……!!」
壁外に初めて踏み入れた感動とわくわくした心臓の高鳴りにしばらく浸りたかったが、すぐに気を引きしめる。忘れてはいない
ここが……決して安全ではない事を
どこまでも続く草原をしばらく駆けてるとーーー
斜め向かえからズシンッズシンッと大きな足音が聞こえ、その先をよく見る
そこには生殖器の無い全裸のような姿で顔は不気味な笑顔を浮かべてる………人類の敵である巨人が勢いよく走り迫ってきた!
あれが……
「(あれが、巨人……!!)」
すぐに兵団は戦闘態勢にはいり作戦通りに動く
戦闘で団長の横を走っていた上官が馬から立体起動装置を使って巨人の頭上まで飛び移る
そして、首の後ろの……うなじを目掛けて二本の刃で斬り付け肉を削ぐと、巨人はうなり声を上げながら倒れ絶命した
「(すごい……これが、調査兵……!!)」
慣れた勢いで、あっと言う間に巨人を倒していく兵士の姿
これが人類の希望……!
そう思っていたのも、束の間だった
「うあああああ!!」
すぐ左後ろから悲鳴が聞こえ、そっちに目をやると
新たに出現した巨人に捕まり腕を噛み千切られそうになってる新兵
「待ってろ!今、助ける!!」
それを見たベテラン兵士が彼を助けようと当該の巨人に飛び掛かろうとした。けど別の巨人に進行を邪魔されて救助が遅れ………新兵の上半身は丸ごと巨人の口の中に……
「あ……あ……」
幼い頃に何度も壁外調査から帰ってきて悲惨な姿になった調査兵達を見てきたのに
訓練兵の時にあれだけ散々巨人の恐ろしさと不可解について聞いていたのに
頭では分かっていたはず。なのに……
いざ、目の前にすると……
「っ!?、おい!!そこの新兵危ないぞ!!」
「え、」
前を走っていた一つ年上の先輩兵士が振り向き、慌てて俺に向かって声を張り上げた
それと同時に
俺を照らしていた太陽の光は、バランスの悪い醜い巨大な身体に遮られた
すっかり日は傾き、辺りがオレンジ色に染まった時間帯に俺達は壁外調査を終え、壁内に戻ってきた
「また半数も残らなかったか……」
「ったく毎度毎度、懲りねぇな……」
「………」
今朝と同じように道の隅で俺達を見てる街の住人の声が聞こえる
幼い頃から「自分達は何もしないで人任せなのに」と住人達に怒りを覚えていたが
今は怒りも何の感情も出ない
「……すまないな。新兵。君の馬を借りてしまって……」
「……いえ」
俺は乗っていた馬を怪我したベテラン兵士に貸して歩いていると、街に着いて安心した兵士が俺に声をかける
返事をしながら彼を見ると、怪我した左腕を抑えながら笑顔を向けてるが、無理しすぎて顔が引きつってて怖い
無理もない。彼は元々明るくて気を遣ってくれる人だが……
あの食われた新兵を助けようとしたけど出来なくて、悔やんでいた所に巨人に飛ばされて岩に身体をぶつけたから
痛みと悔しさを必死に隠してる
「にしても君、すごいな」
「?、何がですか」
「今日が初陣なのにすぐに的確に移動して、巨人を3体倒したじゃないか」
「え、ああ……」
何の話をするかと思ったら、見ていたのか……
まぁ正直、自分でもどんな風に飛んで刃を振ったのか、あまり覚えていない
初めての外の世界に踏み出した喜びから、仲間が喰われる絶望に変わり……呆然としていたかもしれない
それでも、なんとなく覚えているのが……
うなじを削ぎ落とす時、つまり狙うポイントを定める時は、対象の動物の視界から外れて後ろから捕獲をする……
……自分がやっている狩りや虫の捕まえ方のようだ。と思っていた事だ
「そんな大した事ないですよ。無我夢中でやってて運良く生き残っただけで……」
「いや、俺から見れば君はかなりの実力者だ。すぐに俺なんか越して上官に昇格するかもな」
そう苦笑いするベテラン兵士に「大袈裟な」と思いつつも、本心は嬉しかった
訓練兵の時はほとんどが「朝から晩まで予習復習ばかりで怖い」「成績良いのに憲兵目指さないなんて変」だとか第三者の視線を気にした評価しかされなかったから、こうして実力を認めてくれるなんて……
俺は間違った選択はしていない。絶対結果を出してやる……!
散々な目に遭った初めての壁外調査は、俺に絶望だけじゃなく僅かな希望を与えてくれた
新たに自分に誓った俺は調査兵として精進と調査を頑張った