兵士を志した少女(前編)





あれから何度も何度も壁外調査を繰り返し、その度に数人の死人を出して「もう頑張っても結果は現れないのでは?」と心が折れかけた

最初に誓ったものとか希望が消えてしまいそうだ……


でも、良い上司や同僚に恵まれ、戦闘以外でも助け合いしながら生活してるのがせめての救いかな





「ねぇ、ユーリィ!あたし次の休みに故郷に顔出すけど貴女も一緒にどう?」

「え。故郷に?」



ある日の事だった。同僚のアマレットから一緒に里帰りしないか?と誘われた

彼女は訓練兵時代から一緒で唯一仲良くしてくれた……云わば人生で初の友達であり親友だ。そして故郷も俺と同じくシガンシナ区

せっかくの誘いだけど……


「ん〜……俺はいいや」

「え〜?何でよ?家族からの手紙で中央通りに新しい雑貨屋が出来たって書いてたの!ね!行きたいでしょ?」

「あんまり」

「も〜!!」


どんなに誘われてもなかなか首を縦に振らない俺に対して、アマレットは頬を膨らませ子供の駄々のように俺の腕を掴んで揺さぶる



「……全く。ユーリィは立派な兵士で格好いいよ?」

「は?」



いきなり何?まさか褒めちぎり作戦?

それで気分良くさせて行かせようとしてるのか?

アマレットの言葉に首をかしげると、彼女は続けた




「だからさ。今の貴女を見たらご両親も納得して応援してくれるわよ。きっと」

「え……」



そうだった。アマレットにも昔話したっけ。俺が両親の反対を聞かないで、ほぼ家出同然に飛び出して兵士志願した事を

俺がシガンシナ区に帰りたくないのは家族での事だと彼女は分かってて、そう言って励ましてくれたんだな


だけど

あれから両親は連れ戻しに来るどころか、手紙すら送ってくれない

やはり家出したも同然だし………俺が実の子供じゃないから見限ったんだろう。そうだとすれば尚更どの面を下げて会えばいいか分からない

俺がどうしようか考えてると、アマレットはまた話し始めた



「あたしもさ……調査兵だった兄がいたって言ったでしょ?兄は度々顔出しに家に帰ってくるし強くて巨人にやられないから、帰ってくる度に毎回会わなくても大丈夫だろうって根拠のない自信があってね。ある日にあたしは友達の家に泊まりに行って兄に会わなかったの………それから兄は巨人に食い殺されて、会わなかったのをすごく後悔したわ」

「!?」



アマレットに調査兵の兄が居て殉死していたのは知っていたけど、そんな詳しい話を聞いたのは今日が初めて

まさか……彼女が兄に対して、そんな風な罪悪感を背負っていたなんて



「だからユーリィ。あたし達がこうして生きてるのは当たり前じゃないしチャンスは二度と来ないかもしれないわ。貴女や貴女のご両親があたしみたいに後悔してほしくないから……」

「アマレット……」

「ね。これを機に仲直りしてみない?」

「………」



当たり前じゃない。か

家族の死を経験した彼女が言う言葉だから、かなりの重みを感じた

………なら



「そこまで言うなら……」

「お!一緒に来てくれる?」

「まぁ。遠くから様子見くらいはしてやるか」

「もう〜素直じゃないな〜!」



俺が素直に頷かないのを見て「可愛くないな〜!」と頬をつついてくるアマレット

うざいな〜と邪険にその手を振り払うが、俺と一緒に行けるのを嬉しそうにしてる彼女を見てると、何だかんだで許してしまう

本当に……がむしゃらに調査兵になることしか考えてなかった俺に親切にしてくれるアマレットには頭が上がらないかもな

なんて自身の状況に苦笑しながら、かなり久しぶりの里帰りを決心した
















「着いた〜!!お久しぶりです!シガンシナ区!!」

「ったく。お前ずっと元気だな〜」


壁内の街から街への移動は馬車なり定期連絡船を使うのが主だ

俺達もそうした方法でシガンシナ区に辿り着いたが、距離が長くて移動だけで少し疲れてしまった

アマレットは慣れてるのか一切疲れた表情をせず、楽しそうに連絡船から降りてシガンシナ区に足を踏み入れる



「えっと、どうしようか」

「まず最初に新しく出来た雑貨屋に行って、それからあたしは自分の家に行くけどユーリィも一緒に行く?それから次は貴女の家に行ってさ……」



アマレットは俺に気を遣って一人じゃ実家に行きづらいだろうから同行しようか?って言ってくれた



「……ううん、大丈夫だ。俺だけで行ける」

「そう?もしまた喧嘩しちゃったら、あたしの家に駆け込んで来てもいいからね?」

「うん。ありがとう、アマレット」



立派な姿を見せるとなれば一人で堂々と行った方がいいだろう。そんな変なプライドが出てきて、アマレットの気遣いを断りながらお礼を言う

……こんな感じで、決まったな

まずは雑貨屋に行こうと、久しぶりの育った街に繰り出した



















「何も……変わってないな」



雑貨屋などを回ってアマレットと別れた俺は街の様子を見ながら歩いた。壁外調査へ行く時にはシガンシナ区を通るけど、今まで過去の自分に目を背けるように街や人達を一切見ずに出向いていたからな

今日が……出ていってから初めてちゃんと街並みを見たな。と自覚して不思議な気持ちになった


変わっているようで変わっていない

いや、自分が成長して見える風景が変わったのか?

そう考えながら進んでいると



数年振りの……俺が育った家に着いた




「(ここも……変わっていない)」



ボロボロになってる玄関前の階段、庭に干している洗濯物や保存用の野菜……全く変わってない外観の我が家だ





「(いるのかな……)」




ゆっくりゆっくり玄関のドアに近付いて開けようかどうしようか悩んでいると、家の中から数人の話し声が聞こえてきた



「(……?、誰か来てるのかな?)」



恐る恐るドアをゆっくり開けて少しの隙間から家の中を覗くと、両親と黒いコートを着た男が三人ほどいた

そして




「だから!何度も言ってるじゃありませんか!うちには娘なんて居ません!」

「そうだ!ここは私達二人だけの家だ!」




………そう男達に訴える両親の声が

俺の耳や胸に鋭く、深く突き刺さった


















………だろうな。やっぱりな


何を期待していたんだろうか


これで認めてもらえる。とか

仲直りできる。とか


そんなお伽噺みたいに上手く話が進むわけがない


最初から分かっていた事じゃないか


俺は………あの家の本当の子じゃない。飛び出した時点でもう俺は家族じゃなくなった




「(何が……何が血の繋がりだけじゃない。だ!)」



昔言われた父の言葉を思い出した途端、急に怒りがこみ上げ近くの壁に思いっきり殴ったが、拳を伝う鈍い痛みしか出なかった



そう。こんなことしても何にもならない

急に冷静になると、とてつもない虚しさが胸にのしかかる

………アマレットのところに行こうか。と思ったけど、両親から突き放された事実を知ったなんて言いにくいし、言ったとしてもそれを彼女が聞いたら困るだろうし





……………




………?



その時、俺はある異変に気付いた




「(……風が止んだ?)」




特別珍しい事でもないが、急にピタリと風が止んだ


その空気から………何か違和感を感じた


まるで、何かの前兆のようで………






そう考えていた時だった




壁の向こう側から、とてつもない爆発音が轟き

辺りが閃光弾で照らされたように一瞬光が広がった!!




何……?雷か?いや、雨天ではないから雷はあり得ない

なら、駐屯兵達が所有してる大砲が暴発したのか!?

どちらにしろあんな爆発音から判断すると、ただならぬ事態になってると思う




俺はその場から何気なく壁の方を見た



おそらく、ミスをして大慌する駐屯兵たちが走り回ってるだろう。と思っていた壁の上には








蒸気を纏った巨大な赤い手が乗っていた








ーーーーーーは?





俺は自分が何を見てるのか瞬時に判断出来なかった

………


だって、あれは………50mもある巨大な壁なのに


あんなところに手があるって事は、あれは……





壁の上に置かれた手の横から



皮膚の無い筋肉質が剥き出しになった


巨大な顔が現れた





あれは………あれは………







「きょ………巨人………?」




自分で発した言葉でようやく自覚したのか、俺の背筋に寒気が走って一気に冷や汗が吹き出す



あれが……巨人?



そ……………そんなわけない!!


巨人はデカくて20m以下だ!!あんな超大型な巨人なんて見たこと無い!!!いや、いるはずは……!!



街の人達も俺と同じく

その突如現れた巨大な顔を呆然と……または放心状態や己の目を疑いながらしばらく見ていた




そして










巨大な顔の下………その巨人の足元に位置する壁に大きな爆発音と共に煙が上がったと思ったら

そこから次々と砕けた壁が大砲のように無差別に区内に降り注ぐ!




「(まずい!)」


俺はすぐに周りにいる街民たちを避難させようと「逃げろ!」と声をかける!

だけど、誰一人その場から身動き取れず……


一瞬だった


すぐ近くにいた小さい子を連れた女性が

落ちてきた壁の残骸の下に……



それを見てようやく周りは慌てて逃げはじめた





「(クソッ……!!)」





今更逃げはじめた街民に対するイラつきと、近くにいたのに親子を救えなかった……その悔しさで頭がどうにかなりそうだったが、すぐに恐ろしい現実に気付かされる




「きょ、巨人だーー!!」

「壁に穴が空いて巨人が入り込んで来たぞーー!!」


「っ!?」




そうだ……壁が砕けて区内に落ちてきたって事は……


壁には………




俺はすぐにあの超大型巨人がいた方向を見ると、あの壁の上から覗く巨大な顔はもうなかったが……




すぐ下に大きな穴がぽっかりと空いており


そこから次々とあの醜い顔をした巨人達が入り込んで来た!




「(まずい!)」



俺は咄嗟に立ち向かおうとしたが、非番だった為に立体起動装置を拠点に置いてきた事を思い出した


こんな時によりによって……!!


一旦、ここは急いでアマレットと合流して駐屯地に戻ってから戦いに行くべきか……?

それとも、今ここで巨人達の気を引いて住民を避難させるべきか……?


どれを選択しようか悩みながら街中を見渡してると………砕けた壁で屋根が破壊された俺の家が見えた




「(父さん達は……逃げた……よな?)」



まさか、あの瓦礫に……




そう不安が過った時に、一体の巨人が俺の家に近付き、空いた穴から





家の中を探り出した






…………待て。おい!!





「やめろぉぉぉぉぉ!!!」





聞くわけでもない巨人に大声で叫びながら、家に全速力で走った


この時には、さっきまでの家族に拒絶された事を忘れて……否、言われた事なんて関係なしに家族を助けたい一心で頭がいっぱいだった



「(なんと言われようと……やっぱ俺の両親は……!!)」



逃げ惑う人々にぶつかりながら必死に家を目指したが




俺の叫びと急ぎを嘲笑うかのように


不気味な顔をした巨人は、両手に持った俺の両親を



口に放り込んだ






「あ………う……嘘だ……」



俺は……目の前の光景を信じたくなかった。これが現実ではない。と


しかし、吐き気がする巨人の租借音で





「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」





残酷な現実を叩き付けられ、俺の中で何かが一気に壊れた




「お前………」



もう自分は泣いているのか、怒ってるのか、それとも表情すら無いのか分からない…

俺は近くにあった大きめの石を片手に取って、家の近くでまだ両親を食ってる巨人に近付いた

フラつく足を引きずるようゆっくり、ゆっくりと……




「よくも………よくも!!」



そのまま石を持って巨人の足にぶつけてやろう


そんな突発的で無謀な攻撃は



横から伸びた腕と「何やってるのよ!」という聞きなれた声に引っ張られ失敗に終わった



「ア、アマレット…!?」


それは途中で自宅に行ったアマレットで、彼女は物凄い力で俺を引っ張って走っていた


「ま、待てよ!俺は…!!」

「武器も無いのに巨人に挑むなんて無謀よ!今は逃げて駐屯地に戻らないと!」

「でも…!」

「貴女まで死んでどうするの!?私だって、私だって家族を……」

「っ!」


ここで俺は気付いた。アマレットの目には大粒の涙が止めどなく流れている

その様子から……彼女も家族を助ける事が出来なく、せめて仲間を助けようとやむを得ず自宅に背を向けて走ってきた事を……



「すまない……アマレット……」


俺の言葉が聞こえたどうかは分からない

それから俺達は巨人を避けながら、ただただシガンシナ区から離れるため走り続けた