兵士を志した少女(前編)



俺達がシガンシナ区から出ようと内門の壁に向かって走った

おそらく定期連絡船は他の避難民達で溢れてるだろうから、陸路でウォール・ローゼに向かった方がいいだろう。と………

しかし、とことん俺達は……否、全人類は天に見放されてしまったようだ

全身鎧のような塊に覆われた見たことない巨人が突如現れたと認識した途端、その巨人は内門の壁に向かって走り出た!

まさか……あれも壁の門を破壊するのか!?

駐屯兵達の大砲攻撃も虚しく、最悪な予感が的中してしまった

衝突された内門はあっという間に粉々に吹き飛び、いつの間にか鎧の巨人は居なくなった巨大な穴に、シガンシナ区に入ってきた巨人達がそちらにも進行し始めた


あれだと、シガンシナ区だけじゃなく……



「(ウォール・マリア全域に巨人が……!!)」



俺は……俺達は………


もう……………





















それから、俺はどう行動したのか覚えていない

ウォール・マリアからいつの間にか離れていて

俺が拠点にしてる駐屯地に着いてて

すぐに立体起動を装備して他の調査兵達と再びウォール・マリアに向かっていた

もう壁の外と化したウォール・マリアで巨人を全滅させるなんて不可能だから、街民達の避難の手助けと逃げ遅れた人がいないかの確認のために近辺の巨人を退治。ただそれだけ

それから……そこら辺もあまり覚えてない

ただ、人々に避難誘導してたり

ただ、無惨に食い殺された街民の身体の一部を踏み台にして巨人を倒したり……


そんな事を無心にやっていたと思う






それから、また日々が流れて……


たしか避難は完了したんだけど、急にマリア内に住んでいた人達が押し掛けたからローゼ内の衣食住が間に合わなくなり、戦闘経験の無い人達に巨人退治の仕方を教えるとかで口減らしを行ってて……

でも、俺達調査兵も勿論出陣していた

いたちごっこになるが巨人が減ってくれたら。と高価な布きれよりも薄すぎる希望を持って


それから…………それから、いつだったかな


怪我した俺の代わりに戦いに行ったアマレットが


無言の帰宅をしてきたのは


俺は帰ってきた兵士達の中からアマレットを探したが、見つからず怪我で医務室にいるだろうとそこへ行って見てしまった

布にくるまれた数人の遺体の中に、見慣れた指輪をした手がはみ出ていたのを


あれはたしか、アマレットが今は亡き婚約者から貰った大事な指輪だと愛しそうに眺めていたもの……




……………





そこからの記憶もあまりない





それから………それからいつだったかな




俺がふと気付くと、薄暗い倉庫の中で黒いコートを着た数人の男達に囲まれていた


たしか、街中をフラフラ歩いていた時だったか?

それとも、寝ていた時だったのか?

どちらにしろ、俺はこの男達に拐われたのを把握した




俺はこの時にはもう「何されても構わないから、最後には殺してくれ」と願っていた



そんな俺の様子を知ってか知らないか、男達は何故俺を捕らえたのか話し始めた

俺は自分が捨て子であるのを知っていたが、その出生についてだった


どうやら俺は、ある名家の貴族とその使用人だか愛人だかとの間に産まれた子供らしく、正式な継投者じゃない血縁者を邪魔と判断した貴族の関係者からの命令で排除に来た。と


「この前命令で逃がしたガキの兄弟はこいつだけだよな?」

「あぁ。間違いない……それにこいつに関しては何も言われてねぇから最初の命令通りに始末して構わん」


正直、ここまでの話はあまり覚えておらず、だいたいこんな感じの話しだったな。と認識した程度だ


まぁ、いいさ。こんな話を聞いても聞かなくても、俺はこの命を捨てるつもりだったし

俺は抵抗しないで黙って刃なり銃なり突き付けてくれるのを待った




アマレット………母さん………父さん………


今、俺も………






「しかし、あの夫婦も馬鹿だよな。娘がこんなに大人しく捕まっちまうなんて、努力が報われないぜ」




…………………え?




「お前………い、今なんて」



夫婦の努力が報われない?

思わず引っ掛かった言葉に俺は男達に聞いた



「あぁ。お前は知らないか。俺達は最初お前が家に居ると思ってお前の両親の元を尋ねたんだ。そしたら俺達の様子を察したあの夫婦は必死にお前の存在を隠そうとしたんだ」

「!?」




この時俺は思い出した


『うちには娘なんて居ない』


両親が言った言葉は……まさか、こいつらから俺を守るために……!?



「往生際が悪いあいつらに口を割らせるために妻の方を人質にしようとしたら、二人で抵抗してきやがった。あん時は驚いたが……ま、返り討ちにしてやったけどな」

「返り討ち……?」



その言葉を意味を知りたくて、男達の話を黙って聞いた



「何の情報も入手出来なかった腹いせに夫婦をバラバラにして臓器売買しようとも考えたが、その後に巨人が来てそれどこじゃなくなったから、おしい事しちまったな……」

「いや、むしろ巨人達に感謝だろ。俺達のやった事を裏から手を回さなくても揉み消せたんだから」

「それもそうだな」


そう話し終わった男達は下品な笑い声を上げて楽しんでいた



つまり、両親は俺を守ろうとして………


巨人に殺される前に、こいつらに殺られて………



じゃあ、俺が勇気を振り絞って家に入って、こいつらを撃退してたら………巨人が来る前に両親を………助け…………られた…………?



そんな…………



そんな事って………!!






「お前らが………お前らが!!」

「あ?」

「許さねぇ!!」




俺は腕を縛られて床に座っていたのを無理矢理立ち上がり、男の一人に向かって突進しようとした!

だけど、やっぱり両手が使えない俺はすぐに蹴り飛ばされて、後ろの壁に叩き付けられてしまう



「くっ……!」

「安心しろ。すぐに両親の所に行かせてやるよ」



俺を蹴り飛ばした男が後ろに周り込んで、次こそ俺が抵抗しないよいに抑えると、別の男がナイフを持ってこちらに近付いてきた



クソッ………クソッ………!!



さっきまでは投げやりに死に急いでいたのに

あんな真実……あんな真実を聞かされたら……!!




「(簡単に……死ねないじゃないか!)」



俺は必死に何か無いか、辺りを見回してると



突然、天井の窓が破壊され、誰かが倉庫の中に入ってきた!


そして



「ぐわあああ!!」

「う!ぐぅ………!!」

「ぎゃあああ!!」



その突如現れた人物は黒いコートの男達を次々に切り裂いていった!

あれは……あの人は……!




「リヴァイ……兵長……?」



間違いない。あの男性にしては小柄な背丈で、鋭い目付きをした顔……俺の上司に当たるリヴァイ兵長だった

彼は一人なのにも関わらず、黒いコートの男達を全てあっという間に倒してしまった



「チッ………面倒事を起こしやがって」



もう男達は起き上がらないのを確認した兵長は、そう舌打ちしながら俺を縛っていたロープを解いた



「他にこいつらの仲間がいる可能性がある。さっさとここを離れるぞ」

「は……はい」



俺への心配よりも、早く離れるよう促した兵長の言葉に黙って頷く

動揺してるのか少しよろめく身体と、縛られていたため痛む手首を気にする暇はなかった

俺達は警戒しながらすぐに倉庫から抜け出した

















倉庫は街や村から離れた所にあって、周りには鬱蒼と木が生い茂っていた

ここからどうやって戻ればいいのだろうか……と一瞬悩んだが、すぐに兵長が近くに待機させていた馬に一緒に乗るよう言ってきた

よく見れば兵長は立体起動装備してるし、馬もいるって事は………おそらく壁外調査に行ってたのだろう

なら……



「あの、どうして……」

「はぁ……帰ってきた矢先にお前が妙な連中に連れてかれるのを見たからな」


みなまで言わずとも兵長は俺が何に疑問に思ったのか分かったようで、俺の言葉を遮って淡々と答える

そうだったのか。巨人と戦ってきたのに俺が拐われるのを見つけて………


………


普段、俺はこのリヴァイ兵長が苦手であまり積極的に関わろうとしなかった

何故なら昔、途中から入隊してきたこの人に対して「ミケさんを差し置いてなんで兵長に昇格するんだ!?」とエルヴィン団長たちもいる前で喧嘩腰に意見してしまった事がある

その時の彼は俺に対して言い返しもせず黙って見ているだけで、俺だけ一人がもやもやしながら生活していた

そして彼は周りに有無を言わせない程の実力もあって……半分嫉妬に近い悔しさがあったな。そのせいもあって彼にあまり関わらなかったが、こうして助けてくれるなんて……

なんだか、昔の自分がガキみたいで恥ずかしくなってきた



その後の俺と兵長は調査兵の宿舎に辿り着くまで何も話さなかったが、最後に「今日会った連中については詮索するな」と釘を刺されて終わった


それから………それからだったな。俺の周りにまたも変化が起きたのは



数日経ったある日に、俺宛ての荷物や手紙が沢山届いた

誰が俺に荷物を?差出すような人は居ないはずだと宛名を見ると、それは驚く事に両親からの物だった!


何故これが……?そう驚いたまま宅配係りに訪ねると……


これらの荷物や手紙は全てウォール・マリア内北部にある調査兵の駐屯地に届いたものだそうだ

たしかに壁が破壊される前はウォール・マリア内にいくつも調査兵の駐屯地があった。俺は東部に住んでいたけど、なぜこれが北部に……?

なんでも、この様子から察するに「送り主は届け先を間違えていた可能性」と「そこの駐屯地の責任者が該当する兵が居ないのを確認したものの、それ以上の対応はせずに貯めまくった」もの。らしい


そんな……今になってから、こんな事って……!!


突然の事で戸惑いながら部屋に戻って中を取り出すと、手紙には俺を心配した応援する両親の言葉が綴られてる。そして荷物の中身は手編みのセーターが入っていた……


ああ………ああ………


なんだ………



「俺………あの家の子だって、ずっと思っても……良いんだな」



どうして早くに気付けなかったのか。手紙などの存在や両親の本心に気付かずに「自分は血の繋がりがないから見放されて当然」だなんて……

どうして両親との暖かい生活やかつて言ってくれた嬉しい言葉を信じられなかったのか……


後悔に苛まれたが、皮肉な事に後から真意が判明したおかげで、俺は忘れていた決意を……約束を思い出す



「(俺がまだ……まだあの家の子で良いなら、俺は……壁の外の世界を目指す約束を……果たそうとしても良いんだよね?)」



沢山心配かけた上に助け出せなかった両親への

最後に弱い所を見せてしまった親友への

せめてもの償いになってしまうけど


俺は約束を果たそうと、再び決意した



生かされた命だと気付いた魂で逞しく生きて、どこから見られても立派だと思われるように