彼女は物心ついた時から生みの母親からも祖父母からも愛されず、周りの人間から冷たい視線と石を投げられながら牧場で動物たちの世話をしていた
そんなある日……あのウォール・マリアが破壊された日にヒストリアの前に父親を名乗る男……ロッド・レイスと彼女を突き飛ばし逃げるように出ていった母親が現れる
これからはこの家族で暮らそうと言った矢先に、俺の時と同じ黒いコートの男達に囲まれて殺されそうになったそうだ
「(やっぱり……あの連中は正式に戸籍登録されていない妾の子供が跡継ぎにならないように消しに来たんだな)」
俺は密かに奴らの狙いに確信持つと、ヒストリアは続けて話した
母親は……ようやく自分も貴族の妻の座に座れると思っていたのに、黒いコートの連中を見て何をされるか察して『私はこの子の母親じゃありません!』と訴えた
しかしその嘘は連中には通じず、口封じのために母親にナイフが向けられた
その時
『お前も……あいつも……お前らなんて生まな……!』
と、喉を切られるその最後まで、そう恨み言を言っていたとか……
その後、ヒストリアにもナイフが向けられた時に父親から「クリスタ・レンズと名前を変えて遠くで暮らすなら見逃す」と提案されて………今に至るそうだ
「その言葉と……あの男達が話している内容でなんとなく分かったんです。私には上に兄弟がいるんだと」
「………」
俺は今の話しで確信を持てた
それは……俺とヒストリアの母親は同一人物だという事を
生みの母親……アルマとかいう女は貴族の妻になるためだけに俺とヒストリアを産んで利用しようとした。だけどそう上手くいかず俺を捨て、ヒストリアに最後まで逆恨みした
なんて……
「なんて身勝手で……最低な奴らなんだ!!」
アルマもそうだが、そもそもの元凶であるロッドも身勝手すぎる
今まで気に留めてすらいない妾とその子供を利用しようとして、結局は役に立たないと判断してまた突き放して……
怒りに震えてると、ヒストリアは「あの……」と不安そうに俺を見つめていた
「ごめん。大きな声出しちゃって……えっと、ヒス……」
ヒストリア。と呼ぼうとしたら彼女は慌てて首を振った
しまった!そうだった。別の名前で呼ばないといけないんだったな
「………“クリスタ”」
「はい……」
「俺達は存在しちゃいけないって思われてるけど、それはごく一部の人間からにしか過ぎない。それにこうして俺達が生きて、欲にまみれた奴らは遠ざかって行ったって事は俺達がこれから幸せになっていい証拠なんだ!」
「幸せ……に?」
「ああ!頼りないかもしれないけど俺が君を守るから………一緒に生きよう!!」
憲兵よりも駐屯兵よりも権力が弱く、ただの調査兵の一員にしか過ぎない
そう考えると頼りなく聞こえるし、今さっき会って姉妹と分かったばかりの知らない人間から言われて説得力が無いかもしれないけど
俺は本気だし、真剣だ
これはきっと家族の愛情を思い出した俺に対して、死んだ育ての両親が天から引き合わせてくれた縁だと思っている
だけど、ヒストリアにとっては突然すぎる事だから困惑してると思う。俺は少し勢いに任せてしまったのを反省して立ち去ろうかと考えた時に
「わかり……ました……」
ヒストリアはそう恐る恐る返事をした
「私……ずっと心細かったです。触れ合える動物も居ないし人との話し方もよくわからなくて……だから……ユーリィさんの言葉、すごく嬉しいです」
か細く開いた口から出た言葉
その様子から彼女がこれまで周りからどう扱われてきたのか。そのせいで他人を信じていいかと思う不安があるのに……
これまでの自身を隠すように。そして俺に気を遣うように見せる微笑みはどこか悲しく、ぎこちない
「ユーリィさんだなんて、そんな他人行儀。俺達は姉妹だから姉さんとか気軽に呼んで……と言っても急な話しだし無理に頷かなくていいし無理に笑わなくていい」
「無理に笑うだなんて、そんな……」
「俺は他の連中みたいに君にああしろこうしろとか強制しない。ただ助け合っていきたいだけだから」
「…………」
ヒストリアはてっきりまた大人の事情に振り回されるだろうと思っていたのか、俺の無理しなくていいと言った事にきょとんとした表情をして俺を見つめた
そして
「ふふっ。わかったわ……ユーリィ姉さん」
「!……クリスタ!」
次に見せた微笑みは本当に安心したようにふわりと穏やかなものだった
こうして俺とヒストリアはこの日を境に姉妹として接するようになった
あの黒いコートの連中みたいにロッドからの刺客がまた現れるかもしれないから、表立って触れ合えないし姉妹と公に言えないけど……
陰から衣食住の支援なり、会える時には必ずあって最近あった事など近況報告をして姉妹の絆を深めた
それから………ヒストリアはクリスタ・レンズとして訓練兵に入団してきたのは本当に驚いた
何でも彼女曰く「姉さんの手助けをもっと近くでしたいから」と言っていたけど、だからと言って何でよりによって将来の兵団志願が調査兵なんだよ……
俺はあれから“実の母の面影”を消すために、伸びた髪を後ろで纏めて前髪を分けるようにしたから周りから姉妹とかレイス家に関わってるってパッと見には分からなくなったけど
ヒストリアは俺を後ろから支えてくれるだけで良かったから、そのまま一般人として開拓地に居てもよかったのに……
ロッドに近い憲兵団も危険だけど、調査兵はそれどころの話じゃない。だから駐屯兵に変えないか?と持ちかけたけどヒストリアは首を横に振るだけだった
「私はどう言われようと、調査兵に入るわ」
「(ヒストリア……君は……!)」
俺は負けずに考え直すようにしつこく言おうと思った時、両親がかつて俺の調査兵入団を反対したのを思い出した
「(父さんや母さんも……こんな気持ちだったのかな?)」
今になってから分かる。大事な人が危険に飛び込もうとしてるのを止めたいのは、相手の身を本気で心配してるから
でも、それと同時に自分が調査兵志願した時の覚悟も思い出す。生きて帰ってこれる保証のない兵団に志願するのは、それなりの目的や決して曲がらない覚悟があるから
こうなれば彼女の意志を尊重して、俺はヒストリアの調査兵入団を了承した
必ず………必ず俺がヒストリアを守り通してみせる
任務中に私情を挟んでそちらばかり意識するわけにはいかないけど、ヒストリアも俺も……必ず死なないように努力した
それが、ある時……
ヒストリアの周りをよく見てみると、いつも居てくれる仲間が沢山居る事に気付いた
今回、調査兵に入団してきた104期生は成績優秀の子達ばかりで珍しい例だな。と思っていたけど、やがてその内の一人の男の子があの巨人になれるエレンで、周りにいる同期達も巨人と戦うのが初めてじゃないと分かって俺は安心した
「(彼らなら……彼らなら、ヒストリアの力になってくれる。俺が居なくなっても……)」
少し寂しい気もしたけど妹に同期の仲間が沢山出来たのが何より嬉しかったから、俺は手助けの回数を減らして見守るべきだと考えた
これでいい。全ては良い方向に向かってるから大丈夫だ……