兵士を志した少女(後編)





「(ーーーーーーそう。ほんの少しの安心したあの時だったな。事故で転落して別の世界へ行って……翔君と会ったのは)」


何故自分にあんな事が起こったのか、いまだに不明だけど

もしかしたら、いつかに本で読んだ海の存在とか日本と同じようなものがある可能性を誰かが俺に教えたかったのかもしれない


まぁそんな第三者がいるのか不明だけど、どちらにしろあの異世界トリップのおかげで素晴らしい体験やかけがえのない思い出ができた

帰ってきて数日経った今。まだ楽しかった思い出に浸りたいけど、この世界の俺は兵士として休む暇はない




「(翔くんも頑張っているんだ。俺だって……!)」



すぐに気持ちを切り替えて戦闘の準備をする

上司や部下とか頼りになれる仲間が沢山いるから何も怖いものはない




しかし、そう考えていたのがすぐに崩れてしまった




ハンジさんが捕獲した実験用の巨人2体が何者かに殺された事件から、運命の歯車は目まぐるしい程に回転を始めた


そこで“エレンと同じように巨人化出来る人間が居て、そいつが巨人側の味方だからハンジさんの捕まえた巨人を殺した”という事実に気付いたエルヴィン団長と俺を含めたごく一部の兵士が先陣を切って犯人を捕まえる作戦を決行した


しかし、そこには事実に気付けなかった兵士も沢山いて……しかもヒストリアまでも作戦に加わってて気が気じゃなかったが、団長の「誰が巨人化出来る人間なのか分からないから炙り出すためにも黙っているんだ」との事で俺は苦汁の決断で団長の指示に従った



その作戦で得たものよりも……失ったものが多かった

狙い通りに巨人化した人間と思われる女型の巨人が現れ、捕獲しようとしたが失敗に終わりエレンは拐われかけてリヴァイ兵長は足を負傷する

そして何より沢山の兵士が犠牲になった

幸い妹達104期生は皆無事だったけど………リヴァイ班として集められた俺の後輩達が皆、女型の巨人に殺された


ペトラ、オルオ、エルド、グンタ……

後輩のくせに生意気な態度ばっかりだけど、なんだかんだで調査兵として協力し合ったり、時にはふざけた話しをして笑い合ったりして……本当に良い仲間だった


誰だよ……こんな事をしたやつは……何の目的があって!


俺がこの手で後輩達の仇を取ろうと意気込んでいたが、あの女型の巨人は………憲兵に入団した104期生のアニ・レオンハート

俺達は今度こそ捕らえて知ってる秘密を吐いてもらおうとしたが、アニは剣を通さない程の硬い鉱石を生み出して自身を閉じ込めた

自分の命と持ってる情報を守るために

結局また大きな損害を出したばかりか……と愕然としてる暇もなく、次々と予想外の事ばかり起きた



巨人化したエレンとアニの戦いでウォール・シーナの内壁の一部が崩れ、そこから巨人の顔が見えた事

突如現れた巨人の調査しに別行動していたヒストリア達の班がウトガルド城で巨人達に囲まれ、加勢しに行くとヒストリアと一番仲良くしていたユミルが巨人になって囲んでいた巨人達と戦っていた事

ナナバさんやゲルガーさん、そしてミケさん達が死んだ事




そして、ようやく生き残った兵士が全員戻ってきたところに……

ベルトルトが超大型巨人でライナーが鎧の巨人だと正体を明かし、ユミルとエレンを拐って行った


動揺しながらも俺達は傷にすぐ手当てをなどをして、すぐに救出作戦を立てる


ライナー達が向かったのはおそらく巨大樹の森。そこで巨人達が大人しくなる夜になるまで待機するはずだ………なら、夜になる前に彼らに追い付かなくてはならない

続いてばかりの戦闘の疲労を少し休めながら次の作戦の準備をしてると、俺の元にヒストリアが来た








「姉さん。ユミルは……ユミルは大丈夫だよね?」

「ヒストリア……」




俺の隣に座ってきた妹を久しぶりに本名で呼んだ

あの巨人が埋まっていた壁の秘密を唯一知っていい立場の人間がレイス家と知られたのもあるけど、何より互いに信頼し合ったユミルに自分の意志を見せるためにヒストリアは本名を名乗る事にしたらしい

だから、俺はそんな彼女の真っ直ぐな決意に頷いて本名で呼んだ



「大丈夫だ。彼らはおそらく殺すために連れ去ったんじゃなく、二人を言いくるめて仲間にするつもりだと思う」



これは俺の予想だけど、ライナーとベルトルトの巨人の戦闘力は凄まじいものだから殺すならあの場でさっさと殺すはず

それにいつかのアニが女型の巨人として立ち塞がった時もエレンを殺さず連れ去ろうとした

だから……彼らには何か考えがあるはずだから、殺してはいないと思う



「そうだよね………ライナーやベルトルトも何か事情があるはずだし……」

「ヒストリア。もう本名を名乗ったなら“クリスタ”として振る舞わなくていいはずだ」



ヒストリアはクリスタとして生きていた時、まるで小さい時に読んだ本に出てくる心優しい女の子みたいに他人の事ばかり気を遣っていた

俺みたいにかっこよく人の手助けがしたいから。だとか言っていたけど、なんだか無理してるみたいで正直あまり見てられなかった

そんな殻を破ってくれたのが他でもないユミルで………彼女が拐われたとなれば、その事だけを気がかりにして良いはず

なのに、ライナー達の心配までして……


俺はどんな事情があるか分からないが、後輩をはじめ沢山の同僚達を殺されるきっかけになったあいつらを今は許せなかった

だから思わず、私情を挟んでライナー達に怒りを露にしてしまう


それを見たヒストリアは悲しそうに俯いた



「ごめん……でも、どうしてこんな事になってるのか知りたくて……」



まだ気にかけるのか。と言いそうになったけど彼女の言い分にも一理ある

たしかに怒りに任せて捕まえようとしても力が入りすぎて殺めてしまう可能性がある。まだ何も知らない俺達には彼らが知っている情報が必要だ



「………そうだったな。ただ痛め付けても何も知る事は出来ない。こんな時こそ冷静に敵を知る必要があるね」



ヒストリアにそれを気付かせてくれた礼を言いうと、壁に下ろしていたリフトが稼働してゆっくり馬を地上に運んでいた



「そろそろだな。作戦通りの陣形で行くぞ……無理はするなよヒストリア」

「うん……姉さんも」



そう互いに声をかけた俺達はエレンとユミル救出へと出陣した