前進と虚脱感


IHから数ヵ月経った



肌寒い季節になってもやる事は変わりない



今日もいつも通り部活。何の変わりはない1日だ



部室の扉を開けると、二年生の二人が何やらこそこそしている



「……何やっとんの?」

「げっ」

「あ!御堂筋君!」



僕が声をかけると水田君は驚き、山口君は慌てて何かを机の中に隠した



「…今、隠したもん何や?」

「や、別に隠してなんか……」

「すんません!御堂筋君!」



シラを切ろうとした山口君やったけど、水田君が素直に謝りながら山口君の代わりに隠したものを出して僕に渡した

受け取ったそれは……月刊の少年漫画雑誌やった



「ほぉ〜……ええ身分してるなぁ。ろくに練習もせんで漫画読むなんてなぁ」

「いや、その、なんと言うか……」

「言い訳はええ。とっとと準備しぃや!」



僕がそう言うと、水田君は返事をしたと同時に山口君を引っ張って着替え始めた



「(全く……)」



こんな下らないもんに時間を取られて情けないわ……

何気なく没収した月刊少年漫画雑誌を見てみたんやけど……これ。たしか……




「にしても、あの続きどうなるんやろな〜」



着替えながら雑談しとる二人の声が聞こえた



「ああ。主人公の母さんを食った巨人が現れて、ハンネスさんもやられたなんてな……」

「あの駐屯兵のおっさんもやけど……俺はクリスタを気にかけてたあのべっぴんなお姉さんが喰われたのが地味にショックなんやけどなぁ」

「えっと、たしかそのキャラの名前って……ユーリィやったっけ?」

「そうそう」

「……ふぁ?」



思わず僕が声を上げると、二人はビクッと身体を震わせて水田君はまた謝り始めた



「す、すんません!御堂筋君!雑談やめてさっさと着替え……」

「……別にええ」

「え?」



僕はこの時自分が何を言ったのか、あまり覚えてへんが

手に持ってる少年漫画雑誌をただ眺める事しか出来ひんかった




「あ、御堂筋……君。もしかして読みたいすか?それなら貸すけど……」

「山口!御堂筋君がそないなわけ……!」



山口君がええなら

僕は黙って雑誌をパラパラ捲った



「あ、あれ……?」

「珍しいな。御堂筋もやっぱ読みたかったんやな」



二人は僕が漫画雑誌を読んどるのが珍しいんか、唖然としながら僕の様子を見とった

そして、色々何やら話しとるみたいやけど僕は気にせずあの漫画の……進撃の巨人の最初のページを見つけてゆっくり今月号の内容を読んだ



「お、御堂筋君は進撃の巨人が好きなんすか!」

「巨人が巨人の漫画を……」

「山口!!」

「のぅ…」



僕がまた声かけたら、水田君は焦って山口君の口を塞いでさっき話した事を誤魔化そうとした



「や、あの、なんと、いうか………山口がその……!」

「この話で死ぬ兵士は………こいつかぁ?」




二人が何を話そうが今の僕には関係あらへん

話を遮って僕は二人にあるページに映るキャラを指差しながら聞いた



「え?あ、ああ……そのキャラやけど……」

「………」



そう聞いた僕は返事も返さずページを進めて、あの前髪を分けた見るからにアホそうな面した女の兵士

留学生としてこっちに一時的にいた調査兵……


ユーリィちゃんが人を庇って


右横腹と右脚を巨人に喰われ、無惨に草原に落ちるシーンを見た



「み、御堂筋……くん?」

「な、なんや、御堂筋も……ノブと一緒で、そのキャラに惚れたんか……?」

「…………」



僕はそれから一通り読み進めて、終わった所で雑誌を閉じて机に置いた



「御堂筋君……?」

「………なぁにしとるんや。準備はまだ終わらんの?」

「えっ」



何をそんなに驚いとるんやろ……

まさか僕が練習よりも漫画を優先するかと思うたか?

………ププッ!ありえへん!




「さっさとしぃや。ザク共!」




そうや。こんな事しとる暇はない

前に……ペダルを漕ぎ続けるんや!



例え………僕が知っとる人間が………


……………