寒い冬は過ぎて、すっかり暖かくなった景色は青い空に薄紅色が映えていた
春。新学期が始まった今、石垣君達三年は卒業して僕は二年に進級した
新しく入部してきた一年にも僕のやり方やメニューをきっちり叩き込む
早い時期に始まる大会も近いからな……
そんなある日に、夢にまた母さんが出てきて『翔、遅くなってごめんなぁ。ようやくユーリィちゃん連れてきたから迎えに行ってあげて』と言った
それで………
僕は母さんが行ってた公園に来たんやけど……
平日の朝のせいか、ジョギングやペットの散歩させに来とる年寄りしか見えん
「(…………って!僕はなんで夢の話を真に受けとんやろ!!キモッ!!キモッ!!)」
別に母さんを疑うつもりはないけど、端から聞けば夢の中の話を信じとるなんて、現実と区別付かんくなった頭おかしい奴や
ファー………ほんま、僕は何しとるんやろ?
「…………」
急に我に返った僕はさっさと登校しようと、ロードを押しながら来た道を戻ろうとした
そしたら………
「う、うわあああ!?」
「ファッ!?」
急に上からマヌケな女の声が聞こえたと思うたら
僕の上に何かが落ちてきて、そのまま押し倒された
ーーーーーーーーーーーーー
「あいたたたた………」
変に手を地面に叩きつけてしまったし、足も少し捻ってしまったかもな……
くぅぅ……元・兵士なのに、こんな風にドジな怪我をして情けない
予想していなかった転倒だったとは言え、地味にじわじわくる痛さで自分の情けなさを悔やんでいると………
「………キミィ。いい加減、退いてくれへん?」
俺の下から声がした
うわ、忘れていた!!そう言えば俺は人を巻き込んで転倒したんだった!
しかし、その声と喋り方……どこかで聞いたような?
いや、今はそれよりもすぐに「すまない!」と謝りながら起き上がって、巻き込んでしまった人を介抱しようとその人物を見た
そこに居たのは………
「あ………」
「ピギィ………全く、君は人と会う時は攻撃的なやり方しか知らんのかぁ?」
見間違えるはずはない。この人を見下した黒々とした目、長い舌をだらんと垂らして気だるそうにしてる表情、そしてひょろりと細長い身体と銀のフレームのロードバイク
会えた……こんなに早くに……
「翔君!!」
俺は嬉しさのあまり、翔君の手を握って喜んだ
「ファー!キモッ!!いきなり何なんや!」
だけど、翔君は俺の手を振り払ってキモッ!キモッ!と連発
はははっ!相変わらずだな〜
久しぶりに聞いた彼の台詞に俺は思わず感動で涙が出そうになったけど、ゆっくり起き上がった翔君に頭上チョップを食らった
「いったぁ!何すんだよ!」
「それはこっちの台詞や!僕は砂まみれやし、ロードにも傷付いとるかもしれないんやで!」
ほんま迷惑やぁ……と言いながら翔君は制服に付いた砂埃を手で払って俺をじと〜と睨んだ
「し、仕方ないだろ!久しぶりに日本に着たから歩き方を忘れてたんだ!」
「下手な言い訳やな」
「ぐっ……そ、それに……」
「それにぃ?」
高い背丈の腰を曲げて俺の顔を覗き込む翔君
「あ、翔君に……早く会いたかったから慌てちゃって……」
「………」
これで許してもらえるかな?と、翔君の方をチラッと見たら、すぐにプイッと顔を反らした
「なぁにを言っとるんや!君の事や。大方食い物の匂いに釣られて暴走しとったんとちゃう?」
「ギクッ!………でも、翔君に会いたかったのは嘘じゃない!それがたまたま予想外の美味しそうなのが見えて………ほら!人探しは体力いっぱい使うから、腹ごしらえで………」
「このアホ女」
俺の言い分を最後まで聞かない翔君は、またも俺の頭にチョップをする
うぅ……翔君に誤魔化しは通用しないんだった。でも翔君に会いたかったのは嘘じゃないんだけどなぁ
翔君はそんな俺に目もくれず、ロードを起こして「うわぁ……最悪や」とぶつぶつ文句を言い始めた
「悪かったよ翔君。整備は後で俺も手伝……」
「いらん」
「………はい」
案の定、きっぱりと断られてしまった
にしても……
「翔君………やっぱ怒ってるよな。さっきから全然俺の方を見てくれないし」
翔君をロードごと押し倒した事はやっぱマズかったな………悪いタイミングで最悪なやり方を再会をしてしまった。と自分を反省しながらポツリとそう呟いた
「…………僕にあんな事した女を直視できるか」
「………え?」
あんな事?一体何の事だろうか?と首を傾げて翔君に聞き返すと……
「…………君、元の世界帰る時、横になってる僕にキモい事したやろ」
「帰る時…………あ」
その言葉で思い出した
そうだった。それだ……
俺が忘れていた何かってのは………それだぁぁぁぁ!!!!