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スポットライトに照らされた由良間が死んでいる事に他の観客達が気付くと、あちこちから悲鳴が上がる
「そ、そんな……また殺人……」
「千鶴!大丈夫!?」
2人目の死体を目の当たりにして千鶴は体調を悪くしたのか口に手を添えて俯く。それを私は背中を擦るよう彼女を支えた
その間に金田一君達がステージに走っていき、後ろから来た明智さんと由良間の状態を確認しているようだ
そして舞台の裏からも、幻想魔術団の他の団員達とマネージャーの高遠さんも慌てて由良間に駆け寄るけど………
あの様子じゃ、彼はもう………
客席から見える金田一君達の反応を見て、由良間は完全に絶命してると分かった
一体、いつ………由良間を刺して椅子に座らせたの?
その後すぐに、明智さんや剣持さんを中心に劇場内にいる観客全員のアリバイと不審な人は見かけてないか聞き込みに回ったけど、ほとんどが連れや隣に人が居てアリバイは成立し、上演中に出入口が開くところを見てない事から観客の中に不審な人はいないと判断された
そして、詳しい話によると………犯人は殺害した由良間を人形の操り糸に絡ませ、天井の金具に引っ掛けた後に上から落とす。所謂シーソー原理で人形と入れ替わりで由良間を椅子に座らせた
そうなれば犯人はもう劇場から逃走してるかと思ったけど、金田一君が言うに自分達が劇場に入る際に転倒した拍子に橋を上げるレバーを壊してしまい、先程外に確認しに行くまでずっと橋が上がったまま。だそうだ
ホテル側にもレバーはあるけど、橋の上げ下げは1分以上かかるから、ホテル側から来て殺害して天井から落として橋を渡った後に上げて戻す……なんて作業は一分以下じゃ到底出来ない
だから…………
犯人は幻想魔術団の中にいる!と金田一君は断定した
「(……複数の観客がグルじゃない限り、考え付く犯人の絞り込みはそうなるでしょうね)」
私もそう考えてると、犯人がいると断定された幻想魔術団の人達は自分達にもアリバイはあると主張した
マジックをしながら由良間を殺害するだけじゃなく、天井のスノコからステージに移動するのも時間がかかるため、すぐに金田一君達と一緒に由良間の所に駆け付けられない。と左近寺さんや夕海さんは言うけど……
そのシーソーの原理は要は人形より重かったら成立するもので、殺害後に由良間の死体と一緒に降りれば済む事
だからこの犯行は誰にでも行えるものだけど、剣持さんはうっかり由良間の体重を足すのを忘れて人形よりも体重のある左近寺さんと桜庭さんを疑うという検討違いな推理を披露して、一旦その場はお開きになった
観客達が全員ホテルに帰って閑散とする劇場内。ステージではショーの片付けをしてる高遠さんとさとみさん
その傍らに黙って座り込んで必死に推測してる金田一君と、彼の様子を見守る美雪ちゃんと佐木君
そして、私は千鶴を支えながら客席からそんな劇場内を静かに見ていた
「千鶴……具合はどう?」
「ええ。いくらか良くなったわ」
そう言って私を安心させようと微笑む千鶴
だけど顔色は悪いまま……完全に良いわけじゃない
「(私が……大人数で居る時には殺人は起こらないかも。ってショーに行く選択をしたせいで……)」
私の自己判断で千鶴に怖い思いをさせてしまったのを後悔しながら、彼女にすぐにホテルに戻ろうか?と聞こうとした
「千鶴さん!一華さん!一緒にお菓子食べませんか?」
客席から立ち上がろうとした時、ステージから美雪ちゃんがそう私達に声をかけてきた
「あら、いいの?じゃあお言葉に甘えて」
「千鶴!ホテルに戻った方が……」
「いくらか大丈夫って言ったでしょ?それにせっかくのお誘いだし」
「う〜ん………あんまり無理しないでよ?」
私は千鶴を心配しながら美雪ちゃん達の元へ行くと、さとみさんと高遠さんも一緒にいた
テーブル代わりとして段ボールを使ってその上に沢山のお菓子を乗せ、そこをぐるっと囲んで座るおやつタイム……なんだか学生時代とか楽しかった昔を思い出すわ
その証拠に遠慮無しに食べまくる金田一君に美雪ちゃんは少しは控えたら?と注意をしてるところに、さとみさんが「仲良いね君たち!ひょっとして恋人同士?」と聞いたら美雪ちゃんは顔を真っ赤にしながら「ただの幼馴染です!」と金田一君の肩をバシバシ叩く……という微笑ましいやり取りが繰り広げられている
さっきまでの嫌な事とか少し忘れてしまいそうで……
「(本当。私も“普通に高校に通っていたら”……)」
…………いけない。懐かしい思い出や微笑ましい気持ちに浸りたかったのに、連想でまた嫌な事を考えてしまった
せっかくの気分転換なのに……いや、殺人事件が起きてる時点で気分転換にはならないか。でも千鶴との初めての旅行だから、私がしっかりしつつ楽しまないと彼女に申し訳ない
私が………
「あの、だ、大丈夫ですか……?」
「えっ」
不意に隣からそう声をかけられて、驚いてそっちの方を見ると、高遠さんが心配そうに私を見ていた
「え、ええ。すみません。少し考え事をしていたもので」
「あ!そうだったんですね。こちらこそ、すみません。要らない気遣いでしたね……」
「いえいえ、そんな……!その、えっと、高遠さん。でしたよね?」
「は、はい」
ここで初めて私と高遠さんは互いに自己紹介をした
高遠さんの名前は遙一って言うんだ……なんか素敵
「高遠さん。気にかけてもらって、ありがとうございます」
列車での事もだけど彼の気遣いは全然迷惑じゃない。だからお礼を言うと高遠さんは「それなら良いんですが……」と少し照れたように笑った
そこに金田一君が高遠さんに聞きたい事があると話を切り出す
「昔、皆さんがこのホテルに来た時何か良くないコトでも起きたりしたんですか?」
金田一君からの質問に表情が凍り付く高遠さんとさとみさん
思い切った事を聞くわね……でも、彼らは話してくれるのかしら?さとみさんは険しい顔してるし、高遠さんはどう話そうか慌てふためくし……
「――5年前、近宮先生が亡くなったのよ!この劇場で……」
そんな沈黙の中、口を開いたのはさとみさんだ
金田一君達は近宮さんが亡くなった現場はここの劇場だったという事実を知って驚き、私は予想していたのが的中して緊張が走った
やっぱり……近宮さんはここで亡くなったんだ……
「さ……さとみちゃんまずいよ!そのこと勝手に話しちゃ!」
「いいじゃないですか高遠さん!いずれ調べればわかることですよ!!」
さとみさんが話し始めたのを焦って止めようとした高遠さんだったけど、彼女はずっと言いたかった事実を発散するかのように開き直ってる様子
「もっと詳しく教えてください!どうしてその近宮さんって人は亡くなったんですか?」
「は…はあ……なんでもリハーサル中の事故だそうで。僕らが入団する前の出来事なので詳しいことはわかりません!なにしろ他の皆さんは『近宮』って名前聞いただけでイヤな顔されますから…」
「―――…リハーサル中の事故……か」
高遠さんも観念したように話してくれた内容は、明智さんが話してくれた事と一致している
リハーサル中の事故で………
その現場はここ………
「(やっぱり、今回の事件と近宮さんの死……そして幻想魔術団と何か関係が……?)」
お菓子でお腹を満たしてから私達もホテルに戻り、すぐにベッドに入った
金田一君はさとみさん達から聞いた話を頭に入れつつ、今日起こった殺人事件の推理をするらしいけど、私達はもう疲れきっていたから先に休ませてもらう
そして、私はすぐに眠りに就いたのだけど……
「起きて一華!」
「ん………何?どうしたの千鶴………」
「大変なのよ!金田一君が殺人犯に誘拐されたの!!」
「!?、何ですって……!」
突如、千鶴に起こされ何事かと思ったら……!
慌てて飛び起き部屋から出ると、佐木君、美雪ちゃん、剣持さんが急いでホテルの外に飛び出すのが見えた
その姿を見送りながら千鶴から詳しく話を聞くと、金田一君と佐木君が部屋で推理していたら窓辺に地獄の傀儡師が現れ、その腕には美雪ちゃんが抱えられておりそのまま湿地の方へ逃亡
金田一君は美雪ちゃんを助けにすぐに追いかけ、佐木君は剣持さんに美雪ちゃんが拐われた事を伝えに行ったら……なんと美雪ちゃんは隣の部屋にちゃんと居て、一瞬混乱したがすぐに犯人が偽の人質を使って金田一君をおびき寄せた事に気付いて今に至るそうだ
「(何故、金田一君を……?まさか犯人が自分の狙いに気付かれそうになってるのを知って焦ったから彼を……?)」
「一華!私達も金田一君を探しに行くわよ!」
「……そうね!」
今は考えてる場合じゃない
取り返しのつかない事になる前に早く探さないと……
私達も部屋着のまま部屋から飛び出してホテルの出入り口に向かった
「あ、あの!どうかされたんですか……!?」
そしたら、出入り口近くにいた高遠さんが走ってくる私達の様子に驚きながら何事かと尋ねてきた
「高遠さん!金田一君が殺人犯に拐われたみたいなんです!ですから、私達これから探しに……」
「ま、まま待って下さい!外は危険ですよ!」
意外にも高遠さんは事情を聞いて私達みたいに焦る事なく、今の外の状況は危険だと止めてきた
たしかにこのホテルの周りは広範囲の湿地があちこちにある。それに今は霧の立ち込める夜。視界の悪い中、踏み間違えれば湿地に足を持っていかれるかもしれないけど……
「でも!もしかしたら、金田一君は犯人に殺されてしまう可能性が……」
「落ち着いてくださいっ!」
千鶴は何としても助けに行こうと必死に説得しようとしたけど、高遠さんは私達に一旦冷静になるように一括する
「す、すみません。大声出してしまって……でも金田一君と一緒に居たお友達と刑事さんが先に探しに行ったんじゃないですか?」
私達は、たしかそうだったと頷く
「今、闇雲に飛び出して刑事さん達と別々に探しに行ったら、それこそ貴女達が次に犯人に狙われるかもしれません!ですから、僕達はここで待っていた方がいいんじゃないかと………」
そう言われれば……その可能性はある
助けに行くつもりが、逆に足を引っ張るまねをしたら元も子もない
だけど、なんだろう……?
なんだか、高遠さんのあの冷静さに何か引っ掛かるような……
「たしかに、高遠さんの言うとおりね……すみません。取り乱してしまって」
「いえ……僕の方こそ………」
私が高遠さんの様子を伺っていると、千鶴はホテルで剣持さん達を待つことにして高遠さんに謝り、彼もまた申し訳なさそうに頭を下げた
……金田一君の事も気掛かりだけど、なんだか色々と考えてしまう事や犯人の事を考えると……あぁ、もう!分からなくなってきた!
ここはとりあえず私もホテルで待とう