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ホテル内のしん……とした嫌な静けさに包まれ、不安が募るそんな静寂の中



入り口から慌ただしい足音と共に扉が勢いよく開かれる!



そこには上半身裸に泥まみれでぐったりしてる金田一君を剣持さんと佐木君が支え、その側で美雪ちゃんが心配そうに見守りながら長崎支配人に案内された近くの客室に入り込んで行くのが見えた!

よかった……金田一君、見つかって……!

そうこうしてる内に、千鶴も手伝いに行くと金田一君が運び込まれた客室に行く

………あとは、専門知識のある人達に任せようと、私は一息ついてロビーの椅子に座った



「金田一君は……大丈夫ですかね……?」



そんな時、私に高遠さんが話しかけてきた



「大丈夫だと思います。長崎支配人は元お医者さまらしいですし、現役の看護師もついてますから」

「現役の看護師?」

「ああ。千鶴の事です。彼女は都内の大きな病院で働く看護師なんですよ」



そう、千鶴は都内では有名な大学附属病院の看護師でもあり、そこの病院長の娘でもある

立て続けに起きた殺人事件は警察じゃないから下手に触れなかったし気分を害してしまってたけど、彼女の医療知識はエリート医師にも負けないレベルだからきっと金田一君を助けられるだろうと信じてる



「それなら安心ですね」



千鶴に関して看護師だと知って驚きつつも、金田一君が助かる見込みがあるのを確認出来て安心した様子を見せた高遠さん



「………」

「……あの。粟田さん」

「はい?」



私はちょっと考え事しながら、高遠さんの様子を横目で見ていたら彼が私に再度話しかけてきた



「本当に申し訳ないです。僕のせいで、こんな事に……」

「そんな。高遠さんのせいじゃないですよ」

「いえ、マネージャーでありながら、団員の方達にもお客様方にも怖い思いを………」

「大丈夫ですよ!少なくとも私は……」



会った時から気弱そうな感じに見えていた高遠さんだけど、そこまで責任を感じていたなんて……

別に高遠さんが主催で全責任を負う役じゃないのに。でも山神団長と由良間が居ない今、そういう企画に関しては彼らの代わりに責任を受け持っているかもしれない

高遠さんだって、こんな予想外な事起こるなんて想像出来なかったはず。不安で困り果ててるのは私達と一緒だ。そう思って私は彼を励まそうとした



「粟田さんは……怖くないんですか?」

「そうね。不気味で怖いと思ったわ………最初は」



そして、ついでに私の考えてることをちょっと話す事にした



「私、色々考えていたんです。この殺人事件は何のために起こっているのか」

「何のために……とは?」

「最初は私達を恐怖に陥れるための快楽殺人だと思っていたけど、金田一君達と行動を共にして近宮さんの事故死を知って、それが今回の殺人事件と関わってるかもしれないじゃないかと」

「ま、まさか……近宮さんの死と今回の事件が何らかの関わりが……?」



あくまで私の予想ですけど。と付け加えながらそう考えてると頷く



「そうなれば……一体誰が……」

「誰がとはハッキリ分からないですけど、予想からある程度の犯人像を二つ想像しました」



山神団長や由良間………近宮さんの弟子だった人が死んで得する者と言えば



「一つは、近宮さんの死に関わる事実を知っている者。殺害された山神団長と由良間もその仲間だとしたらそれがバレそうになって彼らを消した。ってなれば納得がいく。そしてもう一つは……近宮さんの仇を取ろうとしてる人」

「仇……?」



本当にただの想像でしかないけど、ここまでの犯行の流れで感じた“近宮さんはただの事故死じゃない可能性”と“ただの殺人”とは思えないやり方から考えられるのは、そんな犯人像



「そう。おそらく近宮さんを心から慕っている弟子だったりプライベートで彼女と仲が良い人。そんな人が近宮さんの事故に関わったと予想している団員達の何かを掴んで殺人を………」



ここまで話して、黙って私の話を聞いていた高遠さんの唖然とした………否、私と同じく何かを考えてるかのように少し眉を潜めいたのに気付いた



「すみません。こんな事話してしまって」

「いえ………それで、粟田さん」

「?」

「もし、犯人が粟田さんの予想した人物だとしたら……どうします?」

「えっ」



てっきりそのまま話は流されると思っていたから、いきなりそんな事を聞かれるなんて……




「そうですね…………前者でしたら、あまりに身勝手すぎますから早く捕まってほしいですし、後者でしたら……」



ここまで言いかけて、何故か言葉が詰まった



「後者………近宮先生の仇を打つ者だとしたら?」

「…………」



どうしてだろう。ただ自分の考えを話すだけのに言葉が出てこない

さっき感じた高遠さんの異様な冷静さもそうだけど………もし彼が真犯人だったら?なんて不安よりも、それ以前に


私が考えてる……“仇を取る事”について正直に話してしまえば、私は違う自分になってしまうのではないか?

何故かそんな恐怖が込み上げてくる


さっきまで不安からなのか。

一体、何が私をそうさせてるのか………




「あの………?」

「あっ」



高遠さんの呼び掛けに、ふと我に返り再び彼の方に向き直った



「すみません。粟田さんを困らせる事を聞いてしまいましたね」

「いえいえ。私の方こそ勝手に話しておきながら黙ったりして…………」



………………



「とりあえず……さっきの質問は無理に答える必要はないですね」



少しの沈黙が流れたあと、高遠さんは申し訳なさそうな表情をしてまた軽く頭を下げると、仕事に戻るかのようにすぐに私に背を向けてこの場から去ろうとした



「……………今は」


「(え……?)」



何かを聞き取った私はその場から動けなくなり、遠くなっていく彼の背中を見ることしか出来なかった

何………?高遠さん、さっき去り際に「今は」って言わなかった?

いや、聞き間違いかも………でも…………



私は深く探りを入れられなかった自分の中を守れたようで安心した気持ちでいたけど、微かに聞こえた高遠さんの言葉でまたドキリと胸が鳴る

………優しく穏やかそうだった高遠さんが、一瞬怪しく微笑みかけたように見えなかったのは気のせいだったかしら?


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