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しばらく休んだ私と千鶴はホテルの中を歩いた

本当はこうして出歩くのは危ないかもしれないけど一人じゃないし、いざとなった時のために電話や非常口を確認しておきたいから……の意味もあるけど、単に探検みたいなものかもね



「あ、美雪ちゃん!」



2階に上がった時、廊下の向こうを歩く美雪ちゃんを見つけて千鶴は早足で彼女に近づき、列車内の検査はどうだったのか尋ねる

私も千鶴の後を追おうとしたら……

ふと、吹き抜けで見えていたエントランスの方に目がいった


そこにはチェックインカウンターにいるお客さんを対応している長崎さんがいて、何か話してるようだ


何気なく、その様子を見ていると

コートと帽子を身に付けたその客は何も言わずにキーを出して、両手に荷物をかかえて出入り口に向かって歩き出したと思ったら……


その顔がふと上にあがり


私の方を見てニヤリと笑う


そして、追ってきた長崎さんから逃げるようにホテルから立ち去った



「(え……!?)」



上から見ていたのがバレた後ろめたさのせいなのか、その客の顔が不気味な白いゴムマスクで覆われてるせいなのか、数秒しか目が合わなかったのに私はドキッとした

そして、なんとも言い表しにくい寒気が背筋を走る

な、何……?一体……


なんだか……まるで………私の心の中を覗こうとしてるような……性的とは違うタイプのやらしい視線のようにも感じた


追って見ていた出入り口から目を離せないでいると、廊下の奥から千鶴が私を呼ぶ声がした



「一華、何してるの?今から美雪ちゃん達の部屋に行ってトランプしようって話になってるんだけどー!」

「あ……ごめん!今行くわ!」



私はその場から早く離れたいために小走りで千鶴達の元に行った


今のは………忘れよう


どうせ私の思い違いだし、なんの事もない偶然的に他人と視線が合ってしまっただけ。なんだから……



だけど、それが思い違いじゃなくなるなんて、この時の私は知らなかった



私達は軽く話ながら廊下を歩いていると



突然、「わあああああああ!」と男性の悲鳴がホテル内に響く



「い、今のは……!?」



悲鳴が聞こえた方へ向かうと、ちょうど金田一君達もそれを聞いて先に駆けつけていた

そして、廊下に尻餅をついて震えている幻想魔術団員の桜庭さんを見つけ、事情を聞きながら彼の指差す方を見ると……



「きゃああああああ!!」

「っ!?」



美雪ちゃんと千鶴は悲鳴を上げ、私は嫌な予感が当たってしまったと心臓が跳ね上がる





何故なら部屋の中にあったのは、切り離された関節をスーツや紐で無理やり繋げたような奇妙な形をしたシルエット


それはまるで捻れたマリオネットのような姿で吊るされている…………あの時列車から忽然と消えた山神団長の死体だったから







「人殺しだって!?」

「列車の中でいなくなった幻想魔術団の団長が殺されていたんだって……!!」

「え〜〜!?じゃあ今夜のマジックショーは中止……?」




悲鳴を聞きつけた他の客達が次々と集まりはじめ、ざわめきが聞こえてくる

その野次馬の間からすり抜けて、夫である山神団長を殺されたショックで涙を流す夕海さんを左近寺さんが支えながら部屋に戻っていくのを見ていると、剣持さん達は遺体を調べて分かった事を話した

検察医ではないけど、死因は刺殺で死亡推定時刻は列車に乗ったいた頃だと判断したようだ

そして、あの列車で見た死体と……同じものである事も



野次馬達を各々部屋に戻した後に長崎支配人から話を聞くと、山神団長が見つかった部屋は「都津根 毬夫」と言う妙な人が宿泊しており、数分前にはチェックアウトしたとか……

それを聞いた私は、あの白いゴムマスクをした人の顔が脳裏に過り、ゾクッと震えた

まさか………あれが犯人である地獄の傀儡師?

そう考えていたら、予感は的中した。名前である都津根 毬夫はマリオネットを言い換えたもの

ふざけたマネをしやがって!と怒る剣持さんを宥めながら、金田一君達は一旦部屋に戻って状況を整理するようで、私と千鶴もそれについて行く事に






部屋に着いてから金田一君と剣持さんは犯人はどうやって山神団長の死体を列車から消してホテルに運んだのか色々推理した

犯人は二人いて、列車で殺害した一人が外に投げて待機していたもう一人が回収してホテルに運ぶ………という剣持さんの推理に金田一君は首を横に振る

列車は電話があって最初の山神団長の死体発見から死骨ヶ原駅までは一度も止まる事なく走っているため、後ろの乗降口が開かない。つまり死体を外に投げ捨てるなんて不可能

開くとしたら頭しか通れない狭さの窓。ならば死体をバラバラにしてそこから一つずつ投げ捨てたのではないか?と、あくまで犯人は二人説を曲げない剣持さんに金田一君はため息をつきながらその案を却下した

たしかに。死体が繋がってようとバラバラだろうと外に投げ捨てるなんて、そんな面倒なやり方で犯行がこんなにスムーズに出来るとは思えない

それに………なんだか、この犯行はおぞましいやり方だけど準備も見せ方も決して見苦しくならないように上品に演じる……マジックのようだ

幻想魔術団への当て付けでこんな事をしているのか?それとも……



私も考えながら金田一君達の推理を聞いていると、部屋をノックする音がして誰かが入ってきた



それは魔術団のさとみさんで、今夜のマジックショーは予定通り行われるという案内だった



「え?団長が殺されたっていうのに、やるんですか?」

「はい………団長に代わり、新たに責任者になった由良間さんが取り仕切るとの事で」



そうか……そう言えば、あいつが魔術団の中でのNo.2だものね。これを期に自分が団長に就任しようとして……




「(まさか、由良間が団長を殺した犯人なんじゃ……)」



一瞬、嫌な考えが過ったけど、それは無いなと思い直した

そんな殺害動機のありそうな人が予告状を送って堂々と殺人をするわけがない

それにあんな短気そうな人が、スムーズなマジックのような殺人が出来るのか?

とりあえず……まだ分からない事を勝手に決めつけても仕方ないか。私は一旦、犯人は由良間説から離れる事にした


説明が終わったさとみさんは、隣の部屋の客にも同じ案内をしに出て行き、私達はマジックショーを見ようかどうしようか考えた



「おそらく他の客はみんなショーに行くんでしょうね。そうなれば、むしろ皆同じ所に固まっていた方がいいんじゃないかな?」

「うん……限られたスペースしかない劇場でなら、不審な行動は出来ないと思うし」

「そうだな……一華さんと千鶴さんの言う通りだ。俺達もマジックショーに行こうか」



私と千鶴の意見を聞いた金田一君が頷いたのを見て、私達は準備のために一旦部屋に戻る事にした

幻想魔術団のマジックよりも………犯人の動向を気にしながら行くショーが始まるまで




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