09


 右よし。左よし。後ろもよし。


「(ブース入るだけなのになんでこんなに神経使うんだろう……)」


 もちろん、あいつらに見つかると面倒くさいからだけど。
 真織先輩とご飯を食べた翌日。今日は個人ランク戦をしに来た。しつこく付きまとわれているからといってボーダーに来ない理由にはならないし、それが理由で個人戦を休む理由にもならない。週末にはじめての防衛任務があるのでそこに向けてバイパーの経験を積んでおきたいというのもある。

 ブースに入ってさっそくパネルを立ち上げる。今日は射手中心でやりたい。ちょうどいいポイント帯の人は……いた。よし、やるか。




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「≪10本勝負終了 10-0 勝者南沢≫」


 しゅん、という音と共にブースに戻される。今日はバイパーがイメージ通りに決められていい感じだった。5人くらい対戦して全勝。うん、今日は調子がいいかもしれない。でも頭が痛くなってきそうだからいったん休憩挟もうかな。軽く伸びをしてからブースの扉を開ける。開けて___後悔した。


「南沢!」
「(ベイルアウトしたい)」


 反射でベイルアウト、と言いそうになってとどまった。ベイルアウトしたらもう今日はランク戦できなくなってしまう。それは困る。……という風に思案している間にも例のしつこい隊の人が近づいてきた。オペレーターを含め3人の隊なのだが、今日は1人だけだ。手分けしているんだろうか。そんな暇があったら作戦とか立てた方がいい気がする。チーム戦とかよくわからないけど。


「やっぱお前凄いな」
「……」
「な、やっぱ考え直さねえ? A級になったらトリガーの改造権利も貰えるし、固定給も出るしさ」
「(それを貴方たちと目指す理由が無い)」


 何も答えずにいると焦れたように捲し立て始めた。距離を詰められたのでそのぶん距離を取り返す。位置的に追い詰められることは無いからいざとなったら逃げだせる。……いっそトリガーにカメレオンでも積んでいた方がよかったのでは。


「チーム戦だけどさ、マジで1人で暴れてくれるだけでいいんだって! まじで難しい事何にも考えなくていいしさ、な? 頼むよ」
「(はやくどっかいってくれないかな)」
「なあ、聞いてる? とにかく一回話聞いてほしいからさ、俺らの作戦室来てよ」
「!」


 ぱしり、と腕を掴まれる。距離は取っていたのに無理やり詰めて握られた。なんなんだ本当に。顔をしかめるのもお構いなしで相手はぐいぐいと腕を引いてくる。


「離して」
「ほんと悪い話じゃないからさ、とにかく作戦室で、」
「……なにしとんの」


 ふいに降ってきた声に両者とも動きを止める。声の方を見上げれば、もさもさしたオレンジ色の髪の人がこっちを見下ろしていた。というか背が高い。180くらいありそう。
 じっと見つめてくるのでじっと見つめ返していれば、未だ腕を掴む男の人は驚いたように声を上げた。


「い、生駒隊の水上先輩……」
「なんや。俺のこと知っとるん」
「それは……上位チームですし」
「さよか。で、自分らなにしとんの」
「いや……その、勧誘を」
「ほお、勧誘」


 生駒隊。言われてみればすごく見覚えのあるジャージを着ていた。昨日の真織先輩といいエンカウント率が妙に高い気がする。よくわからないけど、この先輩が来てからスカウトマン()の男の人が妙にたじたじとして焦り始めた。


「勧誘ねえ。年下の女子の腕掴むとか随分熱烈やん」
「あ、いやこれは……」


 ぱっと腕が離された。よくわからないけどありがたい。掴まれた場所赤くなってるな。ていうかこの人年上だったんだ。腕をさすさすしているわたしをちらりと一瞥した後、水上先輩は再びスカウトマン()に目線を戻す。


「優秀なC級上がりをスカウトすんのはええことやん。なにをそないに怯えとんの?」
「いや、その」
「ん?」
「あ、ちょっとチームの会議があるので失礼します……っ!」
「そうか。頑張ってな」


 結局よくわからない内にスカウトマン()は去っていった。興味もないので別にいいか、と思い直してわたしは水上先輩に向き直って頭を下げる。


「ありがとうございました」
「ええよ。べつにお礼言われる筋合いもないし。身内になる奴が困っとるところ見過ごしたら寝覚めが悪かっただけや」
「でも助かったのは事実なので。ありがとうございました」
「……そういうところは似とんねんな」
「?」
「なんでもあらへん」


 ぼそっと何か言った気がするけど聞こえなかった。まあなんでもないならいいか。


「生駒隊の人ですよね。名前聞いていいですか」
「水上敏志。自分は海のお姉さんやろ」
「はい。南沢天です。海がお世話になります」
「なんや、知っとったん」
「いえ、知らないです」
「……なるほどなあ。まあ今日会ったって話すこともないやろし、黙っとくわ」
「話がはやくて助かります」


 さっきのやり取りといい、頭の回転がはやそうな人だ。今まであった面子的にこの人が参謀っぽい、というか多分そう。生駒先輩、隠岐先輩と海を想像して、うんと頷いた。隠岐先輩はともかくあとの2人は策を弄するってタイプじゃない。真織先輩は……どうだろう、できそうだけど。それに比べて水上先輩は前陣からあふれ出る胡散臭いかんじがとても参謀っぽい。


「なんや今失礼なこと思われた気がするんやけど」
「気のせいでしょう」
「ホンマかいな」
「先輩、すきな食べ物なんですか」
「唐突」
「お礼がしたいので」
「なに、手料理でも作る気なん?」
「いえ、おいしいお店探します」
「ほーん。ほなうどんで」
「うどん!」
「エッなにビックリした」
「いえ、わたし小麦粉から生まれるありとあらゆる食べ物が大好きなので……つい」
「そ、そうか……」
「はい。おいしいうどんやさん探しておきますね」
「……はあ、ほなよろしく」


 ちょっと複雑そうな顔の水上先輩はちらりとスマホで時間を確認すると右手を上げた。


「うちも今から作戦室で話し合いあるねん」
「そうですか。じゃあまた」
「ほなな」


 会釈した水上先輩にぺこりと頭を下げる。そのまま作戦室のある方へ歩いていく後ろ姿を見送っていると、ふと思った。


「……生駒隊って作戦会議とかするんだ」


 まあチーム戦の事はわからないし。作戦会議……海とかそういうのちゃんと理解できるんだろうか。まあわたしの目下の課題はおいしいうどんやさんを見つけることだ。せっかくならいったこと無いお店をはしごして探してみるのもいいかもしれない。


「……うどんの好みきいておけばよかったな」


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