運命線からふわりと欠落
07
B級に上がってはや数日。ひたすらブースに籠ってランク戦をしていたお陰でバイパーの個人ポイントはうなぎ登りだ。クローニンさんが言っていた通りバイパーの弾道をリアルタイムで引ける人はほとんどいないようで、ランク戦であたったことは無い。銃手でバイパーの軌道を引く人がいなかったというのも本当らしく、半ば初見殺しのようにサクサク勝てていた。しばらくしたら情報が出回って今までのようにはいかなくなるだろうからポイントは貰えるうちに貰っておきたい。
今日はわたしよりポイントが高い人からごっそりもらえて内心小躍りしていると、とんとんと肩を叩かれた。
「なあ、最近噂の銃手のバイパー使いっておまえだろ?」
「……?」
振り返ると黒コートの人がいた。明るい茶髪ですごくノリが軽そう。今もすっごく楽しそうにわたしを見下ろしてるし。最近よく知らない人に話しかけられるけどそんなに噂になってるのか。聞いたこと無いんだけどな。
「銃手のバイパー使いなのはそうです」
「お、やっぱりか! っていうか、銃手用トリガーでバイパーの弾道引いてるってマジ?」
「はい」
「マジか! なんで射手じゃないんだ? トリオン量の問題とか?」
「サイドエフェクト的に」
「サイドエフェクト持ちね、なるほど。……ってごめん、自己紹介まだだったよな。おれは出水公平。ポジションは射手。んでもって、メイントリガーってわけじゃないけどバイパーの弾道をリアルタイムで引ける人です」
「!」
「はは、すげえ反応」
リアルタイムでバイパーが引ける人。はじめて会ったな……。特徴的な隊服を着てるしどこかの隊の人かなとエンブレムを見たらA01とあった。……A級1位、この人が。
「もうB級上がったんだろ? 俺とランク戦してくんない?」
「ぜひお願いします」
::
「≪個人ランク戦 5本先取≫」
「≪開始≫」
転送と同時に出水先輩がトリオンキューブを出す。射手はキューブを出して、割って、狙って、撃つというアクションが必要だから攻撃に入るまで若干のタイムラグが生まれる。その間にまず距離を、と思ったけど。
「アステロイド」
「(速い……っ!)」
流石にそこら辺のB級とは動きが違う。即座に攻撃を仕掛けてきた。それにトリオンキューブが今まで見てきた射手の中でも断トツで大きい。射手のトリオンキューブは常にその射手の最大サイズだから、出水先輩はかなりのトリオン量の持ち主ということになる。
「ほらほらどうした? このままだとシールド削り倒しちまうぞ〜」
「っ!」
火力が桁違いだ。もしフルアタックで来られたらこちらもフルガードにせざるを得ない。まだこちらを警戒して片手を空けているから、そうなる前に対応しないと。
「バイパー」
距離をとりつつ、空いている手に拳銃を出してバイパーの引き金を引き続ける。分割されたアステロイドの弾は3分の1ほど先輩の手元だ。手元の弾を使って相殺しにかかるはず。
「うーわ、思ってたよりずっとえっぐい弾道引いてくんじゃねーか!」
「どうも」
そうは言っても全部相殺されてるけど。でもわたしが狙った状況は作り出せた。場は弾が飛び交う乱戦状態。一度に出せる火力は当然拳銃一丁のわたしの方が小さいから、隙をついてフルアタックに切り替えられたら終わりだ。
「でもこの弾数なら火力で押し切れ___、っ!?」
「そうですね。……だから、その前に終わらせます」
「≪伝達系切断 緊急脱出≫」
襲い来るバイパーを全て落とした後、出水先輩がフルアタックに切り替えた瞬間。遅れて後ろから迫ったバイパーが先輩の頭を貫いた。驚きで目を見開いたまま緊急脱出していく。
「≪マジかよ、いきなり1本取られたわ〜。すぐ2本目やろーぜ!≫」
「テンション高いですね」
「≪いや純粋な撃ち合いの場面で落とされるの久しぶりなんだよ! 今のどうやったのか後で教えろよ!≫」
「(戦闘狂なのかな……)」
::
「いや〜楽しかったわ! ここまでバイパー使いこなせる戦闘員とか那須さん以来だし、まじでスゲーのなお前!」
「負けましたけどね」
「いやいや、さすがにBに上がりたての奴に負けたらおれの面子丸つぶれだっつーの」
スコアは2-5。わたしの負けだ。最初の一戦以降はとにかく火力でバイパーを相殺しながら押し切る形で攻められてあっというまにリードを取り返された。中盤からはバイパーも使われるようになったけど、弾道を引き方がすごく勉強になった。あとで記録見返そう。
「ってかおれ名前聞いてなかったな。なんていうんだ?」
「……そういえばそうでした。すみません。南沢天です」
「南沢ちゃんな、覚えた」
「たぶんそれだと弟と被るので下の名前でいいです」
「弟? ……あ、もしかしてこの間入隊した双子ちゃん!?」
「たぶんそれです」
「なるほどね〜、OK。じゃあ天って呼ぶわ」
そんな会話をしながらラウンジまで来たところで、飲み物奢るからもうちょっと話していかね? と言われた。時間もあったので頷くと、先輩は自販機に小銭を入れる。
「好きなの押しな」
「ありがとうございます」
遠慮するのも悪いのでお言葉に甘えてボタンを押す。がたんと落ちてきたオレンジジュースを拾うと出水先輩もボタンを押した。出てきた炭酸を手に取りながら、そうだ、と思い出したように声を上げる。
「一戦目の時、時間差で後ろからバイパー飛んできたやつ。あれ結局どうやったんだ? ひとり時間差なのはわかったけど、こっそり別方向にバイパー撃って弾道変化で回り込ませて……っていうんじゃないだろ。おれずっと銃口見てたけど天が撃った弾は全部こっちに来てたし」
「そうですね。あれは別方向に撃ったバイパーを回り込ませたわけじゃないです」
「だよな」
「最初は出水先輩に向けて撃ったバイパーが、先輩の撃って来るアステロイドにぶつかって相殺される前に避けるように設定してました」
「……ん?」
「そのまま建物を使って回り込んだ後先輩がフルアタックに入ったタイミングで急所に一発入るように」
「…………」
「先輩?」
顔を上げると出水先輩がドン引きした顔をしていた。何か変なこと言っただろうか。首を傾げると出水先輩がいきなり大きい声で訴えはじめた。耳がちょっときーんとする。
「いや迅さんかよ!!! え、未来見えんの!? 普通弾避けるように弾道引くとか無理だろ!!!」
「サイドエフェクトでなんとなく。流石に相手がバイパーとかハウンドとか動く弾だったら無理ですけど、アステロイドはまっすぐなので。これの対策で2戦目以降地味に弾の種類をアステロイド以外に切り替えられたんだと思ってたんですけど違いました?」
「いやそんな事できるとか思わねえし普通! お前機動力あるからハウンドとかバイパー使って狙った場所に動かした後撃ち落とした方がはやいと思ったんだよ」
「あ、やっぱりあのバイパーはそういう意図で弾道引いてたんですね……なるほど」
「おれは点取り屋っつーかアシストタイプの射手だからな。単純な力押しよりか頭使って仕留める感じ。おまえの戦い方はなんつーかあれだな、ひとりで完結してる」
「ひとりで完結」
「二宮さんみたいな点取り屋のエースっぽい。あとバイパー使いでいくと那須さんの“鳥籠”みたいな。弾道の引き方はおれより那須さんのを見た方が参考になるんじゃないか?」
「なすさん……」
つい野菜を思い浮かべてしまった。うーん、おなかすいたな。この後食堂行こう。
それにしても、なすさん、なすさんか。あとで記録探してみよう。鳥籠っていうのも気になるし。
「あ、あと1個質問。アステロイド避けたバイパーを建物使って後ろに回り込ませるときさ、おれがその弾道変化に気づくって思わなかったのか? いや実際なんでか気づかなかったんだけどさ。あの時正面から撃ち合いしてたから普通その中で横に飛ぶ弾あったら気づくだろ」
「そうですね。なので先輩の意識を“撃った後の弾”じゃなくて“これから撃ちだされる弾”に誘導しました」
「というと?」
「先輩がわたしのバイパーを警戒しているのはわかっていたので、最初は普通にバイパーを撃ちました。この時わたしは片方シールドを張って一丁で撃つことで、火力差に目を付けた先輩が弾数に物を言わせるように仕向けました」
「……あ〜なんとなくわかってきたわ」
「そうなると弾の撃ち合いで乱戦状態になります。その状態で出水先輩が優勢になってくれば、当然先輩は撃ちだされた後の弾よりもこれから撃つ弾、つまり銃口付近に意識を持っていかれるわけです」
「こっちに向かってくる弾に撃ち返して、それがきちんと撃墜できたかなんていちいち確認してねえからな。こっちに飛んできてなければそりゃあ撃ち落とせたもんだと思うし、今向かって来てる弾全部なくなれば当然これから撃つ弾に意識が向くわな」
「そういうことです」
「なるほどなあ、たぶんバイパーの弾道変化を起こすタイミングとかもちょっとずつ弄ってたんだろ? わざと遅くしておれが撃ち落としやすく調整したりとか」
「あまり必要無かったですけどね。先輩のコントロールが正確なので」
「いや、よく練られたやり方だったよ。天とはじめて当たる相手ならまず刺さる。ただ実力あってトリオン量も豊富な奴が相手だと2回目以降は火力押しでやられるな、おれみたいに」
「ですね」
それは今後の課題だ。いくらテクニックがあっても一度に出せる火力差は埋められない。特に出水先輩のようなトリオン量が豊富な射手相手だと完全に分が悪い。でもそこの対策をしようと思ったら突撃銃型でも火力が足りない気がする。ううん、でも連射性は拳銃型より優れてるしな……まあこれは追々考えよう。
「ほんとは今日射手に誘おうと思ってたんだけどな〜」
「そうだったんですか」
「けどま、銃手で正解だと思うぜ。拳銃じゃ火力負けするから銃の種類は他のも考えた方がいいと思うけどな。とりあえずバイパーの設定に慣れるために拳銃にしてるってところだろ?」
「そうです」
「こりゃこれからが楽しみだな。もうすぐB級ランク戦始めるけどもうどこに入るかも決まってんの?」
「いえ、チームに入るつもりはないです」
「……マジで?」
「はい」
炭酸のキャップを閉めた出水先輩がギョッとした顔をしている。あ〜……と何か言い淀んでいるので見つめると後頭部を抑えながら困った顔をした。
「いや、おれ自分で言うのもなんだけどボーダーの中じゃそこそこ、かなり強い方にはいるわけよ。一応A級1位部隊だしな」
「はい」
「そんな奴にB級上がりたての奴が負けたとはいえいい勝負してたら目立つだろ」
「……」
「そんでまだどこにも入ってないと来たら、まあ勧誘されるわな」
「…………」
わたしは今どんな顔をしていたのだろう。とにかくわたしを見て出水先輩がぎょっとして慌てたように弁解し始めた。
「でももう日も近いし、連携の兼ね合いあるからそうでもないかもしれねえじゃん!?」
「……そうですね」
「南沢姉、出水先輩相手に2-5だったらしいぞ」
「A級相手に? ヤバくね? もうチーム決まってんのかな」
「それがさ、大体弟といるかひとりかだからまだどこのチームにも入ってないっぽいんだよ」
「マジ!? うちまだ空き1つあるから勧誘しよ!」
「…………」
「…………なんかごめんな」
「いえ……」
申し訳ないと思ったのか、この後作戦室からいいとこのどら焼きを持ってきてくれた。おいしいけどなんだかすごく面倒なことに巻き込まれた気がする。
まあ誘われても断ればいいだけだしいっか。日にちも近いから今更メンバー増やそうとするところなんて少ないだろうし、なんて考えていたこの時のわたしはまだ知らない。
次の日から、食堂で落ち着いてご飯も食べられないような面倒に巻き込まれることを。