記録 いつかイスラ・ヌブラル島で出会おう2020/01/10 彼らと彼らを取り巻く世界についての考察‖夏の蒸し暑い夜、リンリンと鈴虫が鳴いてゐる。どうやら番を探しているようだつた。 幾年この囀りを聴いてゐるかはもう定かではないが、私たちが美しいと思い情緒を感じるこの声は彼らの一生なのだ。魂の叫びなのだ。 また、蝉も同類である。ジワジワジワ、ミンミンミンと多種多様に夫婦を探してゐる。我々のように惰性に過ごし気付けば伴侶を見つけているのではなく__まぁ近頃は恋愛婚という言葉も在るが__彼らは自らの命が尽きるその前に、まず一度命をかけるのだ。 それのなんとまぁ美しいことか。我々の美徳にはない考えである。 2020/01/09 槐夢リフレイン‖再度、考えてみる。もう癖になってしまったようなものだ、二度考えるというこの行為は。 やはりこの景色は見たことがある。そう、正夢というやつだ。いつからかは忘れたが、どういう理由か気付けば見たことがある景色に立っているということが度々起きるようになった。やはり理由はわからないがとにかく一度私はここに来たことがあるのだ。夢か真かは区別がつかない。いや、二度目ということは今は現か。しかし、近頃、 夢の方があまりにも現実味を帯びてきているので、私は段々と夢か現実かの区別がつかなくなってきている。とにかく分かることは二度目は現実ということだけだ。いや、それすらも、本当なのだろうか。 何故こうなったかはとにかく分からない。 どういう理由か私は必ず二度、同じ場所に立つ。夢か真か、何かに化かされているのだろうか。それともこれもすべて、夢なのだろうか。何度考え直しても、答えは出そうにない。 2020/01/08 涙が儚いと誰が決めた‖残された者が感じたのは、無念だった。あの二人は、お互いを愛していた。番などという言葉では足りない、それでもって二人でやっと一つになれたような存在だった。彼が死んでしまった彼女に向けられた目は、同情だったかもしれない。しかし彼女は悔やんだりしなかった。ただ、先立った彼を思い、己が死を遂げるまで彼の意思を継ごうと決意したのだ。 その全てを知るものはかく語りき。 ――彼女は今までずっと幸せでしたよ。誰よりも、何よりもずっと。 二人は、二人いてやっと一つになったようなものだった。周りはそう思っていた。彼女はどうだったか、今ではもうわからないが。 2020/01/07 群青で模られた儚きもの‖君が孤独にならないで済むのなら、僕は甘んじて地獄へ堕ちよう。その代わり、僕は愛を教えた君を恨むよ。なんだってこんなに苦しいんだ。知らない方が良かった、なんてそんなことは流石に言わないけれどさ。愛がこんなに辛いなら、僕は地獄の炎の方がすごく優しいと思うよ、多分ね。それにきっとお互い様だからさ、君も僕を許してよ。君を置いていくことをさ。だっておあいこだろう? でも、それでも君が苦しいと言うなら、僕は毎日神様にお祈りだってするし、届くとは思えないけど君に向かって叫ぶよ。どうか幸せに、ダメならせめて泣き止めるように。地獄の閻魔様にも頼んでみるしさ。だから君も、この夏は頑張って僕の声に耳を傾けてくれよ。 2020/01/06 始まりは白から‖あなたが誰かなんて、あなたが何かなんて関係ない。ただ愛しているからじゃ、ダメなのですか。あなたの耳が尖っていようとあなたの牙が愛おしいように、あなたの口が裂けていようとあなたの美しい毛に触れていたいと思うのは。 それが理由じゃ、ダメなんですか。 2020/01/05 そうして役目を終えたのなら幸い‖私は貴方を殺すに足りる人物なんかじゃない。だから、そう、そうね、貴方を殺して生きるくらいなら、貴方に末路を見られるくらいなら。星の夜に一人で泡とともに沈むことを選ぶわ。 そうよ、 2020/01/04 人間へのあこがれ‖薄い膜を破るにはどうすればいいのか。その手で破るなんてのは華がない。然らば、答えは簡単だ。その薄い膜ごと包み込んでしまえばいい。そうしてしまえば中身が自ずと壊れるだろう。 2020/01/03 子どもじみた大切を抱く‖愛が欲しかった。ただそれだけだった。だから幸せそうな彼女を見れば壊してやりたくなったし、少しでもその幸せを傍で感じていたかった。結局彼女は何一つ拒まなかった。それ故に自分は彼女という概念を殺してしまったのだろうか。あぁ、それでも、彼女が今日も愛おしい。 2020/01/02 されど盲目‖憧れのあの子が知らない誰かと唇を重ねていた。人の眼前で、それも見せつけるように口付けるなんて彼女はおかしい。いや、おかしいのは僕の方だ。それを見てなお、彼女を彼女として愛していられる僕の方がおかしいのだ。 2020/01/01 明かりをつけよう‖甘酸っぱいいちごはジャムに。 スコーンも一緒に焼いて、バターを包んで、葡萄の蔦で編んだ籠に入れるの。そしてあなたの待つ丘へ向かうのよ。考えただけでワクワクしちゃう。いつかあなたもいちごも、ものにして見せるわ。 ;prev or next ☂top page |