黄泉竈食ひもカニバリズムもできるまなざし

2021/04/11
その時、ある映画のシーンを思い出した。昔、私が子供だった頃見たもので女が男が浮気しているのを知って一つの空間に二つあるシングルベッドで眠る男に強く抱きしめてとこっち来させて強く抱きしめてもらったというものだ。‖春が失われるなんて無い。あんな衝撃もまた過去になって、等しくあなたも歳をとる。妬みと悔やみで苦しくなりながらビルの屋上に立っても、平日の夜にスクランブル交差点で崩れ落ちても、単なる文字や言葉の連なりに病んでも。あなたは日々わたしの中で暮らしている。



2021/04/10
あなたの背中を裂いてあげる。外気に晒される血は天に昇り、空気へと溶けるでしょう。熱い血潮はあなたが感じられない己の熱を自覚させ、影を浮かび上がらせるでしょう。いつか血は流れなくなり、それでも微かに盛り上がる傷痕をあなたは愛するでしょう。忘れてはだめよ、ただそう思うの。何かは分からないけれど。ナイフを持つ手が震える。‖ここの楽園には冬しかない。割れた土地に草木はなく、根すらも枯れている。命など芽生えない。そして私一人だけ。今日も冷たい空気が私の油分を奪う。吐き出した息は白く。作った料理はどんどん冷めていく。そうして一日を終え、外へ出て日の光を浴びる。あたたかさを感じられるのは日没だけだ。ここには冬だけが存在している。


2021/04/09
久しぶりにお店のご飯を食べた。合鴨、ボロネーゼ、ステーキ、辛口のジンジャーエール。どれも美味しかった。海の見える素敵なお店でずっと夜の海を眺めてた。それから家に帰ったらいつもは六時間で目が覚めるのだけど気付けばどっぷりと八時間眠っていた。それなのに、朝から気怠げでそれは眠るまで続いた。海から呼ばれていたのかも知れない。‖そしていつか私はあなたの心臓で鼓動できたらいいと思う。指で手繰り寄せて、ぴったりとくっついて。そのまま。そう、血潮が同じになりたいの。半身であるかのように、片割れであるかのように。叶いっこないから。私の嵐を撃ち抜く銀の弾丸だ、あなたは。



2021/04/08
逃げ出せたけど、走っているけれど、結局何処へも行けないのでしょうね。あなたがわたしをわたしたらしめるのだから。あなたが探しにきてわたしの居場所を突き止めてくれなかったら、きっとわたしは死を選ぶわ。足裏に棘が刺さる。やっぱり逃げ出せたとしたら裸足でした。‖全部を肯定してあげる。あなたが望むならピアノも弾くわ。膝を差し出すわ。身体を貸すわ。でもあなたは親指の背を噛むのをやめない。結局は孤独を孤独たらしめるのはあなたのせい。でも、そんなあなたが好きよ。その孤独に飽きたら一緒にこの白い家の庭で遊び、コヨーテを撫でましょう。そしてまた孤独になりましょう



2021/04/07
あなたの仕草、話し方、目を見ていると誰かを思い出しそうな気がした。でもコーヒーを飲んだら忘れてしまった。しばらくして会計を済ませたら手を振ってわたし達は別れた。駅に向かう途中、ああわたしの叔父だと思った‖ボールパイソンを飼った。体長がよく伸びるように、大きなケージで。探すの苦労したのよ、と買ったばかりのボールパイソンに言ってみる。私の家、ワンルームだからクローゼット捨てちゃった。名前はなにがいい?レールモントフなんてどう?私の好きな人なの。腕をいれて、ひらひら揺らしてみる。明らかに捕食者の目付きをした。私の腕の血管は細いらしい。…………………食べてもらえるにはまだまだ親愛が必要ね。冷凍マウスを解凍する。


2021/04/06
その言葉を言われて、わたしその時初めて分かったのだけどそれがあなたから一番聞きたかった言葉だったみたい‖私ね、雪がタイヤに踏み潰されていく音好きなんだ。
……嬉しいな。私たちこれから二人きりなんだね。
何しよっか。庭付きのお家が欲しいなって思うけど、それはちょっと贅沢?
ああそんなことよりお料理頑張らなくちゃね。私、シチューが好き。



2021/04/05
私の好きな人って、実在すると犯罪者になっちゃうんです。あと私はその人のためにそこまで投げ出せないし……一緒に居たいとも思えないし……だから実在しないもののほうが好きなんです。‖私は両の足で立っていた。波打ち際を踏み締めるその足は、時おり踝辺りまで冷たくなる。気配を感じて振り返る。その人は膝下半分を失って車椅子でこちらまで来ようとしている。砂浜は大変ね。自分の膝下に目を落とす。本当に、変な人だったと泣き笑った。



2021/04/04
ぬいぐるみを抱きしめてねむるあなたは綺麗だ。わたしもこっそりとそのぬいぐるみの柔らかなしっとりとした短い毛並みを撫でる。そしてわたしがゆめみるのはあなたとわたしとぬいぐるみとの朝‖初夏。プールにはまだはやいかしら。みんなが髪を纏める日。うさぎ小屋がまたきっとむっとさせる匂いをさせる。いつも下駄箱にある引き取り手募集の紙。いつもいつかは亀に食べられちゃう小さな金魚。転校先ではまた転校してきた子の学校で飼われていた動物の話を聞くのが好きだった。転校した学校では昔大きな立派な鯉が飼われていたけど跳ねて死んじゃったらしい。今度はアヒル二匹を飼ったけど私も認知していたけど卒業する前に死んじゃった。あの頃はほとんどの女子が唇を青紫色にさせてた。



2021/04/03
とある街の奥まった中心部、寂れた商店街の一角に“○○”という店があった。とは言っても申し訳程度に下げられた看板に気付く人は滅多にいない。‖降り注ぐ雨が窓を洗う。久しく乾いたままだった大地が水を欲しているかのように、強い風雨が止む気配はなかった。刹那一筋の稲妻が轟き、薄暗い室内を鋭く照らした。


2021/04/02
静かな靴音が近づき、背中に声が掛かる。「少しは愉しんでる?」人の気配に振り向き掛けた××は、声の主に気付いて固まった。‖××の右手は、華奢なデザインのグラスをくるくると悪戯に弄んだ。その度にとろりとした琥珀色の液体が波打ったが、彼の関心は全く別の場所にあるようだった。


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