キルはこんなにも、震えているミチを見るのは初めてだった。彼女はなにを言われても、どんな状況でも、いつも何でも無いように笑っていたからだ。いつも何でも無いように相手を見て、全てを見透かしたような言葉を紡ぐ。肝が据わっているようで、どこかふわふわとしていて。でも彼女の心はいつも安定している。ゆらぐことのない、いつだって直線を歩む少女。そんな彼女が、ぐらぐらと揺れていた。細い足はがくがくとふるえて、目の前に落ちている強いひかりを発する石を見ていた。片手で口を押さえて、しゃがみ込む。まるで謝るみたいに、そこに膝をついて崩れる。頭が真っ白だった。目の前で起きた一連の出来事が、受け入れられない。情報処理が、追いつかない。彼女の手が折れた木の棒を未だに掴んでいるのを見て、慌ててそれを奪って遠くに放り投げた。ひたすら続く青緑のなかに沈んで、それは見えなくなる。なにも掴むものがなくなった手のひらが、飾りのように宙吊りだった。その手を、掴む。ミチ。名前を呼ぶ。ミチ。彼女は、キルを見ない。真っ黒な瞳はつきのいしだけを見ていた。
 つよく、つよくひかる石。キルにとっては見慣れたいしだった。どこにでもあるのだ。昼間は見えにくいけれど、夜歩いている時なんてすぐに見つけられる。めずらしくもなんともないいし。髪飾りにするくらいまで大きいものはめずらしいけれど、小さいものならいくらでも落ちている。でも、いままでこのいしは"ミチの目に映ることはなかったもの"だった。
 そしてこのつきのいしは、キルとミチにとって「そこらへんにある石」ではなかった。
 つきつける現実を、キルは胸が抉られるような想いで噛みしめていた。こんなはずじゃなかった。こんなことになるなんて、誰も知らなかった。誰も気づくわけなかった。ミチでさえ、そうだ。なにもかも、こんなはずじゃなかった。
 違っていて欲しい、違っていてくれ、その思いを打ち砕く輝きと割れた硝子。

 こんなはずでは、なかったのだ。キル=キルリエイズは小さく、呟く。

くらやみ

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