骨の色だけで話がしたい

「わざわざ夜中河川敷まで行ってアパートの荷物も纏めて橋の下で横たわったのに。
包丁を三本だけ鞄に入れて、手首を二度切りつけたら赤が零れて、ビーズのように煌めいてた。血液にさえ温度があるんだなって生温く思って、傷口が乾かないように川に手を突っ込んで、それなのに。
犬が。朝散歩に連れていた犬が嗅ぎ付けたんだって。ICUで目が覚めた時あーあって思った。また失敗したんだって」

それ以来彼女の手首はカラフルになったらしい。長い黒髪をかきわけると首元にも白い糸が這っているのを、俺は知ってる。

工事現場のような匂いがすると思ったら、初音がマニキュアを塗っていた。「爪は剥がしても一色にしか染まらなくて、つまらない」と謳うように呟く彼女はきっと指先一つ切り落とさない。
初音が怖れているのは中途半端な状態で生き延びて、苦しみが増長されることなのだ。やさしさによって生き延びてしまうのが怖いのだ。犬に嗅ぎ付けられて集中治療室で目覚めたように。

俺はそこまでわかっていて、わかっているから何も言わない。
代わりに小瓶を摘まむ。ひっくり返した。
塗料の匂いがいっそう強まって、だから視界が滲むんだ。飛び散った色、色は電灯に照らされててらてら光る、けれど彼女の言うような温度はない。

マニキュアを肌にかけるのは暴力の内に入るだろうか。それを彼女が望んでいるとしても?

何も語らない彼女の瞳は揺れていた。水底を覗くように。
そして朽ちた花弁が落ちるように、野良犬のように顔をほころばせて「ありがとう」と笑った。赤も青もまだらになった腕で。

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説明やあらすじなど。
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