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遠征部隊がもうすぐで戻ってくるらしい。

というのを知ったのは、いま目の前にいるこの人間、迅君がそう言ったからだ。

「お疲れ様、赤坂さん」
「お疲れ、迅君。こっちにいるの珍しいね?」
「赤坂さんに用があって」

そう言ってぼんち揚を食べている彼を横目に、私は缶コーヒーを飲む。さっき前もって彼のためにと買っておいた一つを彼に渡せば、ありがとうと言いながらそれをポケットに突っ込まれた。飲まんのかい。

「そういや大変だったね赤坂さん」
「ね、なんとかB級に持ちこたえたよ」
「唯一成人してるのも大変だね」
「風間さんとかよく隊長してるよね、すごいわ」

なんて適当に話しながら、小さく笑みを浮かべる。太刀川も隊長だけど、あいつは別だ。
コーヒーが半分ほどになったところで、それで?と口火を切ってみた。迅くんは、彼特有のサングラスに手をかけたあとに、ぼんち揚を私に一つ渡して口を開いた。

「太刀川さんたちが戻ってきたら少し面倒なことが起きるんだ」
「うん?」

とりあえず手に持ってみたぼんち揚をじっと見つめて話を聞いていれば、それ食べていいよと彼は一言いって続ける。私はおとなしくそれを口に放り投げた。

「玉狛と城戸さんで対立するかもしれない。赤坂さんにはこっちの味方について欲しいんだよね」
「なんで私?太刀川とかは?」
「太刀川さんは敵になる」
「じゃあ私そっちじゃないの?」
「ううん、赤坂さんは中立だ。」

彼の副作用は特殊すぎて他の人は置いてけぼりになる節がある。迅くんの考えてることがよくわからなすぎて頭にはてなを浮かべていれば、彼はぼんち揚をまた一つ取り出し、私の口の中に入れてきた。カリカリと音が鳴る。

「お願い赤坂さん。赤坂さんが必要なんだよ」

そうやって私を見てくる迅くんに、思わずぼんち揚が喉に詰まりかかる。ゴホゴホと咳をこぼして、私の頭いくつ分か高い彼を見上げてみた。

「…えぇ〜〜」
「赤坂さんがいるのといないのとじゃ全然違う」
「例えば?」
「太刀川さんと互角にやれるのは赤坂さんくらいでしょ?」

そういった彼の目を見つめてそのあとに、彼の持つトリガーをちらりと見やった。

「君の黒トリガーは?」
「これは別」
「なんじゃそりゃ」

思わず笑えば、迅くんは笑いながら私の目をみた。じっとみてくるから居心地悪くて、壁に寄りかかるのもやめて、身じろぎをした。

「…なに?」
「ううん。ただ、赤坂さんのためにもなるはずだから、考えておいてほしい」
「私のため…?」
「うん」

彼はそういうと、それじゃあお願いねと言って立ち去った。彼の後ろ姿を見届ける。手をひらひらと振りながら歩いていく姿を見て、私はもう一度ぼんち揚をゆっくりと咀嚼し、そしてそれを飲み込んだ。

私自身がどう思ったってそれはどうしようもない事だ。彼の未来視の前に、私の未来は覆せない。



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