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嵐山隊、現着した。

内線から聞こえる言葉に思わずため息を吐いた。本当に私は今から玉狛の味方につくのか、いやつくべきなのか?
黒色のミリタリージャケットのチャックを開けたり閉めたりと繰り返しながら屋根の上に立つ。下にいるのは三輪隊、風間隊、そして太刀川隊。ガチじゃん。思わず呟いた一言に、内線越しに迅くんが笑った。


『まだこないの、赤坂さん』


は?赤坂?なんであいつがここに来るんだよ。そう言ってるのは太刀川の声。なんでこうも煽るのが上手いんだろうな、彼は。
私は意を決して屋根づたいに降りていく。迅くんや嵐山君の隣に立てば、息を飲んだように目を見開いた人達がこっちを見てた。

「どうも、赤坂現着しました」
「なんでお前そっちについてんだよ!」

太刀川の言葉にごもっともと返事をしそうになるのをこらえて、頬をかきながらなんででしょうとこたえてみた。

「あんたも近界民を匿うのか…!?」

そう怒号を浴びせてきたのは三輪君だった。彼の方をちらりと見て、別にそういうわけでもないんだけどな、と一言。なんせこの争いがなんのためにおこなうのかさえ詳しくは知らないから。

「嵐山に赤坂さんがいれば、はっきり言ってこっちが勝つよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

迅君お得意の決め台詞をなんとなしに聞いて、自分の孤月に手を触れた。太刀川と迅君の2人の会話もそこそこに止められたのは、太刀川が孤月を抜いたから。

「お前の予知を、覆したくなった」

その一言を契機に、全員が一歩間合いを置く。
私は未来を覆すことなんてできないと思う人間だったからこの場にいるわけだけど、太刀川は本当に純粋な人間というかなんというか。

まぁそれでも、そういうところが彼らしいのだが。








「おいおい赤坂、久しぶりの再会だぜ俺ら」
「うんうん、それで?」

迅君の間に入りながら2人で太刀川の孤月を受け止める。後ろからきたこうげきは木虎ちゃんがスコーピオンで受け止めてくれた。
そちらを一瞥しながら、攻撃しながら話しかけてくる太刀川に答える。

「ステキな歓迎じゃねーの」
「歓迎なんてしてないって。さっさと家帰ってレポート書きな」

遠征行く前に提出しなければいけないレポートはちゃんと提出したのだろうか。そんな今考えるべき事ではないどうでもいい事を頭に浮かべながら、くるりと横に一回転し、太刀川の攻撃をいなした。

「久しぶりに兄弟弟子同士の戦いか、いいな」
「そんなつもりは全くないんだけどな〜〜」

間合いを置いて、腰を低くした状態で孤月を抜いた太刀川。


旋空 孤月


ビュンと長い攻撃を放った太刀川のそれに、嵐山君、迅君がジャンプする。私も自分の足元にグラスホッパーを出現させ、すぐさま屋根の上に飛び立った。

屋根の上にしゃがみこみ、下の動きを伺いながら作戦会議をする。

「次はこっちを分断しに来そうだね」
「その場合はどうします?」

私の言葉に、嵐山君が言葉をなげかける。彼をちらりと見たあとに、迅君にどうするよと声をかければ、迅君はくすりと一つ笑ったあとに口を開いた。

「別に問題ないよ。何人か嵐山たちや赤坂さんに担当してもらうだけでもかなり楽になる」
「うちの隊を足止めするなら多分三輪隊ですね」
「どうせなら分断されたように見せかけてこっちの陣に誘い込んだ方がよくないですか?」

木虎ちゃんや時枝君の言葉に耳をかたむける。
私はどうしようかなと、口元にジャケットを持っていけば、迅君に話しかけられた。

「赤坂さんにはとりあえず俺のサポート入って欲しい」
「迅君の?」
「うん。まだ黒トリガーを使うつもりじゃないから、そうなったら五分五分だ」
「おっけー。黒トリガー使ったら嵐山君のサポート行けばいいかな」
「お願いします」
「赤坂さんのサポートは嬉しいです」

迅君と嵐山君の言葉にコクリと首を縦に振る。後輩たちにそう言われるのは嬉しいものだ。迅君は後輩と言っていいのかわかんないけど。それじゃあまた、と言って嵐山君達は走っていった。

孤月を抜いて迅君と共に太刀川たちを迎える。太刀川の孤月と迅君のスコーピオンが重なった瞬間に、彼の後ろから隠れて孤月を振るえば、すぐさまそれに反応した風間さんが前に出てきた。

腕から出てくるスコーピオンだ。迅君がピクリと反応した後に、後ろに避ける。私は彼の隣でその攻撃を受け止め、後ろに下がった。

さすが未来視の副作用。遠くから撃ってくる狙撃手たちの攻撃でさえ全て読んでいるかのように避けていく迅君に、思わず苦笑を浮かべた。

「このまま下がって行こう赤坂さん」
「はいよ」

多分トリオン切れを狙っているのだろう。とにかく下がって攻撃を受け止めるだけの消極的な迅君に合わせて、私も後ろに下がっていく。

それでもすかさず攻撃してくる太刀川に風間さん達。

「ずいぶん大人しいな迅。昔の方がプレッシャーあったぞ。それに赤坂、お前もどんどん来いよそれでも忍田さんの弟子かよ」

太刀川の言葉にぽりぽりと頭をかいて迅君をちらりと見れば、彼は食えない顔のままスコーピオンを握っていた。

「こいつの狙いは俺たちをトリオン切れで撤退させることだ」

依然として冷静なままの風間さんがそういえば、迅君は一つ冷や汗を流した。あらら、ばれた。私はそっと彼の隣に近づき、耳打ちをする。

「どうする?」
「風刃使うしかなさそう」

黒トリガーに触れながら私にだけ聞こえるようにそう言った彼に頷いて、私は口元をミリタリージャケットの襟の中に隠した。

「俺の攻撃に合わせれる?」
「誰だと思ってんの」
「流石赤坂さん。俺の攻撃に合わせて攻撃したら、嵐山の方のサポート行ってほしい」
「了解」

自分の孤月に手を触れて、彼らの方を伺えば「玉狛に向かおう」と風間さんが言った。風間さんの言葉をかわぎりに、迅くんのスコーピオンがピクリと動く。

私もすかさず腰を低くして孤月を抜き、さらに自分の足元にグラスホッパーを出現させ突進。迅君から放たれた風刃の動きに合わせて孤月を振りかぶる。


旋空 孤月


勘良く反応した太刀川と風間さんの間を抜けて、迅くんの攻撃と私の攻撃が菊地原くんの首に直撃する。

「出たな、風刃。赤坂もやっと本気出したな」
「仕方ない、プランBだ」

戦闘体、活動限界。緊急脱出。

無機質な声が聞こえたあと、菊池原くんの体が飛んで行った。彼には申し訳ないけど、風間隊の連携は早めに潰しておくのがいい。

「申し訳ないが太刀川さんたちにはキッチリ負けて帰ってもらう」

ゆらりと動く迅君の黒トリガー、風刃の一つの枝が地面に突き刺さる。同時にカメレオンを起動した風間さんと歌川君たちを瞬間に記憶した。

「カメレオンか…!」
「大丈夫、覚えた」

透明になった風間さんたちは、たしかに普通なら見ることはできないけれど、瞬間記憶の副作用を持つ私には効かない。

「右斜め後ろから来てるからね」

太刀川の相手をしてる迅君に向かってそう声をかけ、嵐山君たちのサポートにいくために足を違う方へ向ければ、歌川君らしき人がこっちに気づいたのが見えた。

「歌川やめておけ、赤坂には見えてる!」
「残念歌川くん」

風間さんの声が伝播する。
グラスホッパーを足に出現させ、すぐさま次の空間にも出現させ、何個か空中を移動したあとに歌川のいるところへ向かった。

この目にきちんと彼は見えている。
私が周りになんて言われているのか教えようか。


赤坂に捉えられたら終わり。


ふるった孤月の攻撃は、歌川君の足元に当たる。トリオンが漏出しているのが丸見えだ。攻撃をされたから一度下がった歌川君から避けるように、私もすぐさま空中をくるりと回転しながら下がっていく。
塀の上にたち、もういいだろうと内線に口元を寄せれば、迅君の声が聞こえた。

「赤坂さんナイス〜」
「こんなもんでいいしょ?」

太刀川と戦ってる彼にそう声をかければ、ありがとうとの答えが。
見えないだろうけれどそれにこくりと首を縦に振り、私はもう一度、嵐山君達の方へと足を向けた。

「嵐山君、聞こえる?」

内線に向かって声をかける。

「赤坂さん…!」

サポートに行こうか、と声をかければ、彼は木虎ちゃんの名前を出した。

「木虎のところにサポートに向かって欲しいです」
「赤坂了解〜」

塀の上を走るのは大変だ。屋根に一度飛び乗り、射線が通らないように十分に周りに警戒しながら、木虎ちゃんのいる方へと向かう。
内線で彼女の名前を呼べば、木虎ちゃんだけじゃなく米屋君の声が聞こえた。

「赤坂さん、お願いします」
『おいおい、こっちに赤坂さん来るとか卑怯なんじゃねーの』

彼は相変わらずらしい。元気そうなその声に一つ笑いをこぼし、屋根を駆け抜ける足を早めた。


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