13

内線越しに聞こえるのは木虎ちゃんと米谷君の声。木虎ちゃんの機転でワイヤーを張り、米谷君の動きを封じたらしい。ほんと、私の後輩達はすごいな。
これ自分の出番無いんじゃないのと思いながらも走っていれば、頭上から窓を超えて落ちてくる2人の姿が。

「弾バカ!出番だぞ!」

米谷君の言葉にすかさず足元にグラスホッパーを出現させ、方向を前ではなく左に急転回。遠くの方にいる出水君を目に捉え、孤月に手を触れた。

「誰が弾バカだ。蜂の巣にするぞ」

手元にたくさん浮かべているアステロイドを全て木虎ちゃんに打たれる前に、グラスホッパーに乗りながらぐいぐい前に突進する。
間合いに入った瞬間、私は孤月を抜いた。


旋空 孤月


「…!?げ、赤坂さん…!!」

振るったそれを避けるように、出水君が動く。それに合わせて、彼の放ったアステロイドの軌道がずれた。のにも関わらず、致命傷ではないものの木虎ちゃんに当たりそうなそれに、思わず舌打ちを零した。さすがトリオンお化けだなこの子。

その時、シールドをかざしながら時枝君が空中に現れた。

「時枝先輩…!」

グラスホッパーを足に出現させて空中にジャンプする。木虎ちゃんを守った時枝君たちをキャッチしようとすれば、すかさず現れたのが、当真君の放つ弾。

狙撃手ナンバーワンの弾はさすがに私にも防ぐことはできなくて、その弾が時枝君の頭を貫いた。

「ごめん時枝くん!」
「あとお願いします、赤坂さん」

緊急脱出していく時枝君を視線で追い、私は腕を伸ばして木虎ちゃんを抱える。彼女は足にアステロイドが当たったのか、トリオンが漏出していた。

「とっきーと木虎の片足か。ま、損はしてないな。あとよろしく〜」

にやりと笑った米谷君も、同じように緊急脱出をしていく。
空中は当真くんの間合いだ、私はすぐに木虎ちゃんを抱えて、グラスホッパーをあちこちに出現させることで、撹乱しながらそこを抜けた。

「うわ、赤坂さんのあれは狙えねーわ」

下にいる出水君の声がちらりと耳に入る。それに小さく笑いながら、誰の射線にも入らない塀の後ろに隠れ、嵐山君と合流した。

「すみません、ありがとうございます赤坂さん…詰めを誤りました」
「ん、反省はあとにでもね」
「あぁ、まだおわってないぞ」

少し悔しそうにしてる木虎ちゃんの頭を優しく撫でる。しゃがみこんでいたのを立ち上がり、さぁ、と声をかけた。

「三輪くん達来てるね」
「そうですね、やりますか」

いくつか上にある嵐山君の顔を見上げて、こくりと首を縦に降る。もう後ろにまで迫ってきてる三輪君、出水君の姿を目に捉えて足を動かす。
木虎ちゃんと嵐山君は後ろで攻撃しながら、私は孤月に手を触れながら、出水君の放つアステロイドを避けていく。

いつでも攻撃できるぞと威圧するだけでも、十分な攻撃になるのだから構わない。

「さっきのお返ししますよ、赤坂さん!」
「それはいらないわ」

出水君の言葉に冷静に返して、路地裏にかくれる。嵐山隊の連携プレイで瞬間移動して反撃するのもありだけれど、流石に三輪君がいるんだからそこまで突っ込んではこないだろう。

案の定。路地裏には誰も入ってこない。

「持久戦ですか?」
「それならありがたいけど違うだろうな」

嵐山君と木虎ちゃんの声に耳を傾ける。
嵐山君は、無線に声をかけ佐鳥君を呼んだ。佐鳥君に対して呆れたように声をかける木虎ちゃんに、少し笑みを浮かべる。

「レーダーの精度を10秒だけあげてくれ」
『了解です!』

嵐山君の言葉に、レーダーの精度があげられる。一瞬見えたレーダーの動き的に、2人は迅君のところへ向かってるようだった。

「罠ですね」
「うん、私達を釣るための誘いだろうね」
「でしょうね。けど放っとくわけにはいかない。迅に任せられた相手だ。綾辻」
『はい、嵐山さん』
「このあたりの狙撃ポイントを洗い出してくれ」
『了解しました』
「賢、木虎、働いてもらうぞ。赤坂さん、サポート頼りにしてます」
「りょーかい」

嵐山君の珍しい不敵な笑いに、私はコクリと首を縦に振った。









「メテオラ」

嵐山君をかばうように、シールドをかざしながら出水君の放つ弾を一つ一つ避ける。

「いやいや、赤坂さんそれまじで反則」
「見えるんだもん、仕方ないかな〜」

出水君の苦笑紛れの言葉に、ニヤリと笑いながら後ろに下がっていく。嵐山くんもなんとかこのメテオラ爆発みたいなものを防げたくれたようだ。すこし苦しそうだけど。

「大丈夫、嵐山君」
「はい、すみません赤坂さん」
「全然おっけ」

しゃがみこんでる嵐山君をかばうように、腕を広げて前に立つ三輪君を見る。
彼は銃を構えながら仁王立ちしていた。ガラガラだね。

「嵐山さん、あんたの有能な部下はどこに行った?あんたをおとりにして奇襲するんじゃないのか?」
「…それはどうかな?」
「うわぁ嵐山さん嘘下手だなぁ〜」
「まぁいい」

三輪君はそう言うと、レッドパレットを嵐山君の腕に撃ち込み、一人一人潰すまでだと言いながら私のほうにもその焦点を合わせてきた。

すかさず私も目を凝らして、瞬間移動の先を指示する。
斜め上6m先、と静かに内線に言葉をかければ、嵐山君は瞬間移動する。そこは当真君の射線に入るところだが、大丈夫。

「木虎ちゃん!」

当真君のところまで登り、後ろに回った木虎ちゃんが当真君を切ったらしい。緊急脱出の跡が見える。

足を切られてるわけだから、本当は私が行こうかと言ったけど、やられた分は自分できっちり返したいと木虎ちゃんが言ったから、行かせた。いやいや、本当に私の後輩たちは凄い。

「…嵐山!!」

そしてこっちを狙ってきた三輪君と出水君の腕を、狙撃チャンスを狙っていた佐鳥君が撃つ。2人の腕が同時になくなる。

そして同じタイミングで、遠くの方から二つの緊急脱出が見えた。


恐らく太刀川と、風間さんだ。


「くぁ〜〜負けたか〜〜!」
「任務達成ですね」
「赤坂さん見ました?俺のツインスナイプ!」
「うんうん、すごかったよ」

いつのまにかこっちに戻ってきていた木虎ちゃんと、佐鳥君が言った。
犬のようにわちゃわちゃしてる佐鳥君の頭を優しく撫でて、次は木虎ちゃんの頭だ。なんて可愛い後輩なのだろう。

「赤坂さん」
「ん?」

嵐山君と話していた三輪君が、私に標的を変えた。
近界民を庇ったことを後悔するぞ、と嵐山君に言っていた三輪君は、私にはその視線をさらにつよめた。

「あんたも、近界民を恨んでいるんだろう。だから城戸さん派に入ってるはずだ」

盗み聞きするつもりではなかったから佐鳥君と木虎ちゃんと話していたのに、やっぱり聞こえるわけで。
迅君も親や師匠を近界民に殺されてる。それでも彼は恨んでるわけじゃない。らしい。

そういう話は、ぜひ違うところでして欲しかった。

「何故庇う。あんたは、なんのために城戸さん派に入ってるんだ!!!」

ほぼほぼ八つ当たりみたいなものだろう。まぁまぁ落ち着けと、出水君が三輪君の肩をぽんぽんと叩いたと同時に、違うよ、と一言言った。

「私は別に近界民を恨んでるわけじゃない」

じゃあ何を恨んでるのか?忍田さんだ。それはまがい物じゃないはずなのに、どこか心の奥でなにかが渦巻いている。

自信なさげに言ってしまったのが見えたのか、失望したのか興味が薄れたのか、三輪君は緊急脱出を宣言してこの場から消えた。

私が恨んでるのは近界民じゃない。忍田さんだ。それは確かなものなのに。


「…それじゃ、私も帰るかな」
「はい、ありがとうございました」
「ん、またね」

もうここに用はないし、自分の役割もなくなっただろう。帰って寝たい。
頭を下げる嵐山君達に手をひらひらと振り、緊急脱出、と小さく言った。

ふわふわした浮遊感の後に、ポトッとベッドに倒される。目を開ければ見慣れた天井。自分の隊室のものだ。

ちらりと、皆でいつも談話してるこたつのある方を見ればまだ光がうっすらと見えた。こんな時間なのに誰かいるのだろうかとゆっくり起き上がり部屋を見れば、そこにいたのはコタツに入ってるカゲだった。

「カゲ?」
「何してんだよ、一人で」

カゲだけじゃない、ちーちゃんも、ヒカリも、ユズルもいる。ちーちゃんはヒカリとユズルを寝かしつけてるみたいだ。お母さんのようで、ちーちゃんらしかった。

「バレた?」
「あんまり一人で行動してんじゃねーぞ」
「カゲが隊長みたいなこと言ってる〜」

少し茶化すようにそう言えば、カゲが少し腰を動かし隣を開けた。そこをぽんと一つ叩く。隣にに座れってことのようだ。

「そうだよ、真琴ちゃん。あんまり無茶されると心配しちゃうよ。ヒカリちゃん達もすごく心配してたんだから」

向かいに座るちーちゃんが、心配そうな顔をしてそう言った。

机に突っ伏して寝ているヒカリとユズルをちらりと見る。いつもはうるさいヒカリも、いつもはツンツンしてるユズルも、こんな遅くまで私を待っていたのか。可愛い妹達で、少し私は不謹慎ながらにも嬉しく思った。

「…うん、ごめんね」
「カゲの事でこの前だって一人根付さんに怒られてくれたんだし、少しは休んでほしいよゾエさんは」
「年下なのに私のお母さんみたいだね、ちーちゃん」
「お前が勝手な事するからだろ」

私の頭をコツンと叩くカゲ。勝手なことと言えば君もでしょ、とは思ったけど、それでもこれが彼の優しさなのだとわかっていたから、私はただ笑顔を浮かべることでそれをうけいれた。

足をゆっくりとコタツに入れる。
なんだか暖かい。心まで暖かい。



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