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三雲君の援護はどうするべきか。彼がどこにいるのかわからない今、現時点でのボスである忍田さんの命令を無視することは不可避。
警戒区域ギリギリまで誘うべきか。しかし今私の周りにいるこの後輩君たちがどうするのかがわからないし。
迷いどころ。と一人呟く。
「本部長は玉狛を援護しろって言ってるよ」
「どーすっかなーもうこっちきちまったもんなー」
迅君は確か、しかるべきところで三雲君を助けてほしいと言っていた。多分今、私が向かうべきではないのかもしれない。彼が私にお願いするということは、私の副作用を頼っている、ということだとも理解している。
なら、今私がやることは。
「どうする?赤坂さん」
「放って置いたらどうなるかわかんないし、ここでやったほうがいいでしょ」
「賛成〜〜」
出水くんの言葉にそう答えれば、米屋君が笑いながら言った。
瓦礫の崩れた駐車場から下を見下ろす。こっちを誘うかのように歩いている人形の近界民が目に入った。
「柚宇さん、奴の情報頂戴。緑川と米谷と赤坂さんの分も」
「ほ〜い。東さんたちの戦闘記録送るよ。詳しいことは東さんに聞いてね」
送られてきたビデオを見る。米谷君たちが何かを話しているけれどそれを遮断して、私はその記録を頭に叩き込んだ。
「東さん、出水です。米屋と緑川、赤坂さんも一緒です」
ツノ付きとやるんでサポートお願いします。
出水君が東さんに声をかけてくれた。私は一度目を瞑り、フゥと息をつく。隣に立っていた緑川君が私の腕の裾を引っ張った。何?と聞けば、彼は小さい声で大丈夫?と声をかけてくれる。優しい子だ。大丈夫だよと頷いておこう。
「大丈夫です、弾除けが2つあるんで」
「「おいこら」」
出水君の言葉に思わず笑う。
話おえた出水君が私たちの方を向き直って、作戦を立てようと言った。作戦といえど、ここにいるのは三人が攻撃手、一人が射手。相手は弾タイプだから結局は近距離に近づいていくしかない。
「赤坂さん、覚えた?」
「バッチリ。柚宇ちゃん、聞こえる?」
「はーい聞こえますよ」
「東さん含む全員の視覚共有お願いしていい?」
「うわ、まじで?疲れない?」
「疲れるけど、マップを理解したくて」
全員が今いる場所の情報が一気に自分の視界に現れる。本当にこれを覚えるのは疲れるし一気に空腹に襲われる。後めっちゃ酔って仕方がない。まぁそれでも、この視覚共有をして覚えることができるのは私だけだからやるしかないのだけど。
「…よし、行こうか」
「瞬間記憶持ってる赤坂さんがいれば百人力〜!」
「あんまり持ち上げないでくれる?」
お祭り気分の三人を見ていると、余裕が生まれていいな。今は自分の頼れる隊員がそばにいないから仕方ないけど、そこそこに緊張はしていたし。この三人に背中を預けることにしよう。
「とりあえず一発ぶっ放すんで臨機応変にお願いしまーす」
「結局それね」
「了解〜」
緑川君と米屋君と離れて、私は静かに敵から離れた。二人が近づいてるからいいかな。
出水君の放ったトマホークが炸裂し、爆風が起こる。緑川君と米屋君の二人が陽動し、敵と戦っているのを確認して私は孤月に触れた。
その時、敵が高く空中に飛び上がり、豪雨のように弾をふらしてきた。あの状況で一人一人相手するのが面倒なのだろうか。その選択の決断力の速さに、手強いなと思った。
とっさに建物に逃げ込んで態勢を整えようとすれば、その敵がものの見事に私を見つけて中に入ってくる。
「「「赤坂さん!!」」」
三人の声が耳に届いた。
「一人ずつ、潰していくことにしよう」
にやりと笑いながらそう言った敵に同じようににやりと笑い返せば、同じ建物に入っていた緑川君がタイミングよく消化器を壊して、白い煙幕をあたり一面に散らした。
「ナイス!」
「うす!」
二人で同時にグラスホッパーを出して、突進する。緑川君の攻撃が敵の足に当たった。
敵が彼に気を取られてる間に、グラスホッパーを順に空間に出現させて、敵の周りを囲みながら飛べば、彼はこちらを睨みながら緑川君と私に焦点を合わせて弾を放った。
「とりあえず足!」
「次また飛ぶ!狙撃手!」
緑川君にグラスホッパーを出してもらいつつそう叫び外に出れば、敵がまた同じように空中に飛んだ。
「落とせ弾ばか!」
「落としてください、だろ」
出水君のアステロイドと東さんたちの狙撃が敵に当たる。私は空中にグラスホッパーを出現させて敵を追いかけた。最後の一枚に足をかけて、孤月を抜く。
旋空 孤月
「当たった!このまま追い込むので東さんお願いします!」
ミリタリージャケットのチャックを口元まで上げて、無線にそう叫ぶ。今誰がどこにいるのか、さっきの視覚共有でなんとなく理解はできる。緑川君の攻撃で足がないおかげか、今なら追いつける。
私の攻撃が腕に当たり、トリオンが漏出している敵を見ながら、私は孤月を構えて空中から突進した。
「もう一度は当たらんぞ…!」
別に当たらなくてもいいのだ。ただ、攻撃を休めるな、という合図なだけ。
屋根の上に着地してすぐに走る。弾を撃つタイプとの戦いは距離をとって戦うことが必須。誰かが囮にならないと他の人が入れない。私は攻撃手ではあるけれど、他の人たちと違うところは、捉えたら絶対に逃さない副作用を持っていることだった。
「赤坂に気を持っていかれてる間に叩きこめ!今は数が勝つ局面だ!」
東さんの声が聞こえた。さすが元A級1位の隊長。私の援護射撃が遠くから伸びてくる。それを視覚共有で捉えながらグラスホッパーで撹乱させつつ、わざと逃げ場を作る。
あえてそちらの方に行かせた後に、私は屋根から飛び降りて出水君の名前を叫んだ。
「出水くん!」
「赤坂さんナイス!槍ばかちゃんと落とせよ!」
米屋君が槍を持って落ちていく。敵が意図に気付いた後、米屋君の方を見上げて、攻撃をしようとした。その瞬間を狙って、全員で米屋君にガードをかぶせて庇う。
「わりーな、こっちはチームなんで」
米谷君の格好いい言葉が耳に届いた後、米屋君の槍が貫通し、敵は地面に倒れ込んだ。
「やった!」
緑川君の声を聞いて、ふぅ、と息をつく。同時に地面に着地して走り彼らの方に行けば、ゲートがどこからともなく現れて、敵を連れて行った。縁があったらまた戦おう、そう言葉を残して消える敵。ニヤリと笑った笑みが、ゲートの向こうに消えていった。
「いえー!赤坂さんナイス囮!さすが!」
「ありがと」
米屋君の言葉に笑って、ハイタッチしながら孤月を鞘に収めた。
さて、つぎはどうしようかなとミリタリージャケットのチャックを開けたり閉めたりを繰り返していれば、東さんが私の名前を呼ぶ。なんだろうと振り向けば、彼は小さく笑いながら私に近寄ってきた。
「赤坂」
「はい?」
「助かった。今度何か奢らせろ、そこの三人も一緒に」
「ラッキー!」
「「じゃあ焼肉で」」
「焼肉らしいです」
すごいな高校生。大人の東さんにこうもズカズカと。
思わず苦笑をこぼしてそう答えれば、東さんも微笑みながら、最後に私たちに手を振って去っていった。
「赤坂さんもC級援護行くしょ?」
米屋君の言葉にうん、とうなずいた瞬間。
「赤坂さん、今いい?」
迅君から連絡が入った。
あぁ、ついにきたか。私はチャックを口元まであげて、米屋君たちに手をあげて制した。
「ごめん、迅君から連絡」
「迅さん!?」
緑川君が嬉しそうに叫んで、私の周りを動いた。そんな姿を苦笑しながら見てる二人が、黙ったままあっちいく?みたいな感じで首を傾げてきたから、一つ首を縦に振って私たちは走り出した。
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