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気づけば前から、赤坂の忍田さんへの風当たりの強さには目をみはるものがあった。城戸さん派であることは知っていたが、城戸さんの考えに賛同しているわけではなくて、むしろ忍田さんに反抗して城戸さんについているのだろうか。

それほどに、忍田さんへの反抗心がなんとなくみて取れるのだ。


「...どうかしました?風間さん」

防衛任務前に遠征組の打ち合わせがあり、会議室にはA級の1位から3位の隊員が全員集まっていた。ふと忍田さんを見て思い出したことが先ほどのことだったのだが、実際の所今この場に赤坂がいるわけではない。


「いや、なんでもない。任務に行くか」
「はい」

同じ隊員である菊地原と歌川にそう声をかけ、俺は会議室を出た。後ろの方で太刀川の俺を呼ぶ声が聞こえたが、それには無視をして、会議室の扉を閉めた。



確かに俺の家族も、近界民によって殺された。だがしかし、特別三輪のように近界民を憎んでいるわけでもない。ただ遠征ができるという理由で城戸さんの派閥についただけで、何かを憎んでいるわけではなかった。
そんな中でも、赤坂の忍田さんへの特別な感情というものは、驚きのものだ。




「あ、風間さん」

任務に向かうために歩いていれば廊下の角から赤坂が現れた。トリオン体なのか、黒のミリタリージャケットを着ていた。

「菊地原くんと歌川くんもお疲れ」
「お疲れ様です」
「どうも」

手に持っているのは携帯なのか、自分の隊のメンバーでも呼んでいるのだろうか。その携帯をポケットに入れて、俺達の元へと足を向けて歩き出す赤坂に、菊地原のいつものアレが始まった。

「今から防衛任務なんですけど」
「おい菊地原...!!」
「またそうやって菊地原くんは...今日はあれですか?確か遠征の会議あるんでしたっけ?405会議室で、確かA級1位から3位の」
「よく知ってるな」
「太刀川がその資料を部屋に散らかしたままにしてたんですよ」
「副作用か」
「本当、赤坂さんのそれストーカーみたい」
「菊地原くん、私も傷つくからね?」

赤坂は副作用を持っている。目にしたものを全て覚える『瞬間記憶』という名前だそうだ。

「太刀川のやつ、大事な資料を...赤坂だから良かったものの」
「逆に私で良かったんですかね?」
「そうですよー赤坂さんだったら悪用しかねないですよ」
「菊地原、お前は本当に...」
「だってここぞとばかりに忍田さんにあてつけしそう」


その菊地原の言葉に、ピシリと体を固めた赤坂を見やる。はたから見れば赤坂は忍田さんをとことん嫌っている印象があるので、たしかにそう思うが。

「そんなこと、するわけないじゃーん」

あははと笑いながら、菊地原の頭をパシパシと何度も叩いている赤坂の後ろから影浦の声が聞こえた。菊地原は嫌そうな顔をして赤坂の腕を振り払う。

「おい、お前が先に食堂にいるって言ったんだろうが」
「ごめんごめん、風間さんとちょうど遭遇したからさ」
「あ?」

同じ隊服の影浦が赤坂の隣に並ぶ。相変わらず柄の悪い人間だ。

「それじゃあ、任務気をつけてください、風間さん」
「あぁ」
「じゃあね、歌川くん、菊地原くん」
「はい、また」


小さく手を振って歩き出した赤坂の背中を見やる。普通に接している分には、人を嫌ったりなどはしなさそうな人間なのだが、なぜ忍田さんにはあんなにも親の仇かのような目を向けるのだろうか。

影浦に何度か頭を小突かれながらも、怒らずに笑顔を見せて歩いている赤坂を見るたびに、この疑問はどんどん膨れ上がっていくのだ。





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