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一度だって忘れたことなんかない。
一度だって忘れようと思ったこともない。
あの記憶が頭から、あの光景がこの目から離れようとしてくれない。
弟の最後のあの姿。そして、あの男の姿だって。
誰が忘れてやるもんか。
誰が、その姿を消してやるもんか。
「....はっ!!」
また見てしまった。忘れたいのに忘れさせてくれない自分のクソみたいな副作用のせいで、私は幾度となくこの夢を見る。親が、死ぬ瞬間。弟が、死ぬ瞬間。間に合わなくてすまなかったと、謝るあの人の姿。
誰が許すかと思った。
誰が、忘れるかと思った。
一生許さない。一生、呪ってやる。一生、恨み続けてやる。
そんな子供みたいな思いを、20にもなった私は今でも断ち切れないでいる。
「っし、起きよ」
周りを見渡せば、カーテンから溢れている光から朝だと判断できた。勢いよくカーテンを開けて、大きく伸びをする。誰もいない家に一人。私はおはようと挨拶をした。
「あ、赤坂」
隊のミーティングがあるためボーダーに向かえば、ラウンジの休憩スペースに座っている太刀川がいた。パソコンに向かってるようだ。ようやく本気を出したか。
「レポート出したの、バカ太刀川」
「出してねーよやべーって」
明日から遠征だってんのにこの人は、いつになったら学ぶのだろう。
はぁ、と呆れながらため息をつき、私は彼の隣の席に座った。どれ、とパソコンを覗き込めば、ワードの文書はタイトルが書かれたところでおわってる。
「全然進んでないじゃん」
「教えてくれってマジで…おれ無理」
私はたまに不思議に思うのだが、この人はなぜ大学に進んだのだろう。
ボーダーで一位の戦闘員なら、もはやここに就職でもよかったのでは?と。だけどたぶんそれを聞けば、キャンパスライフを送りたかった、とか言うんだろうなと思ったので聞かなかった。
「序論だけでも手伝ってあげるから、ほかのやつやりな」
「赤坂様!!」
「焼肉」
「任せろ!」
マジで助かるわ〜〜なんて言ってるそいつの足を蹴ってやり、私はずいぶん前に終わらせたそのレポートにもう一度向かい合った。太刀川らしく序論を書くのは本当に難しい。ところどころ誤字でもやってやるか、と肩を回しながらキーボードに手を置いた。
「お前さ」
「ん?」
課題である問題にペンを走らせてる太刀川が不意に口を開いた。
「…いや、なんでもねーわ」
「じゃあ手動かす」
「あいよ」
太刀川が何を言いたかったのかはなんとなくわかる。分かりすぎるぐらいだ。
風間さんでさえそうやって言い澱む様に私に何かを伝えようとする。東さんだって、全員。
それを言わせない私も悪いのだろう。だけど、言って欲しくない。仲間ではあるけど、この件については他人である皆に、言われたくない。
忍田さんへの態度を直してやったらどうか。
今年で20になったんだ、もう大人だろう。
その後に付け足す言葉ならきっとこう。大人になったんだから、彼への接し方を大人にしたらどうだ。変わろうともしない変えようともしない私のあの人への態度は、多くの人を困らせていることを私は知ってる。知ってるだけで、理解はしてない。
じゃあ逆に聞くけど、あの場にもしもあなた達がいたら、忘れられるの?許せるの?
そんな、自分が弱かっただけの事を全てあの人にぶつけてる、私が言えたことではないのだけど。
「ほら、できたよ」
「まじか!?はえー!」
紙にかぶりつくようにペンを走らせていた太刀川が顔を上げる。パソコンをそっちに向かわせて、遠征前にさっさと提出してきなよ、と言って席を立った。
「マジでサンキュー!」
「はいはい。遠征気をつけてね」
そんな私にニヤリと笑いながら手を振っている太刀川の頭を、とりあえず叩いておいた。
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