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「緑川君!」
「りょーかい!」
「「グラスホッパー!!」」

二人で同時にグラスホッパーを二個ずつ出現させて、米屋君と出水君にもジャンプさせる。俺グラスホッパーあんまつかわねぇんだけど、なんていう出水君の言葉に笑いながら、私たちもジャンプをした。

出水君がトリオンキューブを最大限に出現させて、空の上から下にいる新型の近界民にふらさせた。

下にいるのは、新型が7体にC級と烏丸君。三雲君もいる。迅君の指示通りだ。
米屋君と緑川君の攻撃がちょうど下にいた近界民にあたるも、硬そうだ。ヒビが少しだけ入っているのを目で捉える。


オッケー、そこね。


「赤坂さーーーん!これ結構硬い!」

上にいる私に向かって緑川君がそう叫んだ。
私は孤月に触って、グラスホッパーを足元に出現させる。一度ぐっと足に力を入れてためてから、突進をした。



旋空 孤月



一体、倒れた。

「赤坂さん…!」
「さっすが〜!」
「君たちがひび入れてくれたからね」

ヒューなんて緊張感のない口笛を吹きながら、緑川君が言う。彼に笑顔を見せて、私は後ろにいた三雲君に声をかけた。彼はびっくりしたように目を開いて、私を見ている。

「迅君の指示できたよ」
「迅さんの…?」

烏丸君が私の方をチラリと見る。
彼に目を合わせて首を傾げれば、烏丸君が口を開いた。

「C級を基地に逃したいです」
「うん、わかってるよ。残り六体、出水君、行けるよね?」
「誰に言ってんすか〜?」
「さすがA級1位。任せたよ」

三雲君に走れと指示を出して、烏丸君と二人で背後を援護しながら走る。あの三人がいるからまぁなんとかなるとはしても、全て抑え切ることはできないだろう。抜けてきたやつは私たちでなんとかすればいい。

抜けてきたのは三体。C級を全員向こう側に走らせて、孤月で攻撃を受け止める。重すぎる攻撃に、思わず眉を潜めて、近界民の腹目掛けてアステロイドを発射。一度離れて間合いを保てば、三雲君が攻撃を抑えきれずに倒れ込んでいた。

「三雲君、大丈夫!?」
「は、はい…!!」

孤月を一度鞘に入れるか。トリオンの漏出は避けたい。けれど今ここで渋っていたらどうなる。くそ。
三雲君のところに行こうと動けば、雨取ちゃんが三雲君のところに近寄って、手を繋いだ。

トリガーの臨時接続の声が聞こえる。

途端。膨大な量のキューブが浮かび上がり、その弾が出水君と交戦している近界民に当たった。

「でっか…」

あぁ、この子トリオンお化けなんだったっけ。思わず引きそうなぐらいのトリオンに苦笑を浮かべて、近寄る。出水君も同じように近づいて、このまま倒せそうだと言った。

まぁ確かにそうなんだけど。今は撤退するのがベストだというのに、人はなかなか思うように動かない。立ち上がった三雲君に手を貸して、逃げたほうがいいと伝える直前。

違和感が走った。誰の視覚共有かはわからない。それでも誰かが見てる視界に違和感がある。
慌てて振り返りその方角を見れば、トリオンを周りに囲わせた人型の近界民が屋根の上に立っていた。


「伏せて!」


鳥の形をしたトリオンが襲いかかった。見えない攻撃じゃない。私にとったらそれは静止画と変わらないけれど、他の人がそうとは限らない。

C級が固まっている方を見れば、ほとんどの子たちがその鳥に触れてキューブ化していた。

無線で聞いた諏訪さんのあの状態と同じか。

「鳥に触れるな!」

烏丸君の言葉に孤月で一つ一つ弾いていれば、孤月さえもキューブ化された。つまり、この鳥はトリオンに反応するもの、ということ。

まいったなと思えば、新型に踏み潰された緑川君が緊急脱出してしまった。それを見た出水君が大きく叫ぶ。

「メガネ君!女子連れてにげろ!」

出水君の言葉にすぐさま私は三雲君の手を引いて後ろにやる。

「後ろは私がいるから早く!」

メガネ君から離れないで。迅君はそう言っていた。私が今やるのは出水君の援護じゃない、三雲君と雨取ちゃんの援護。
どうしたらいいのかなんてわからないけど、とにかく今は三雲君たちを基地に連れて行かなければ。

その時、出水君が敵対していた人型がこっちに向かってきた。
三雲君はさっきみたいに雨取ちゃんの手を握り、アステロイドを撃とうとした。

その攻撃を人型はいともたやすく受け止めて、そして撃ち返してきた。しまった。ガードが間に合わない。

走ってその攻撃を孤月で撃ち抜こうとすれば、その攻撃は三雲君をすり抜けて、後ろにいた雨取ちゃんに当たった。


「千佳…!!!!」


三雲君の悲痛な叫びが聞こえる。キューブ化される雨取ちゃん。
その現実に愕然としたのか、膝を崩した三雲君に走り寄り、私はキューブ化された雨取ちゃんをその手に握らせた。

「ぼけっとすんなメガネ!基地に行きゃまだ間に合う!」
「走れ修!お前がやるべきことをやれ!」

どうしよう。僕の、僕のせいで。悲痛の面持ちの三雲君に出水君と烏丸君二人が叫んだ。
その言葉に、彼は顔をあげる。

「いくよ、三雲君」
「…はい!サポート、お願いできますか!」

覚悟を決めたような顔。
その顔が、弟とまた、重なった。



「誰に言ってんの?」


私、これでもトップランカーの攻撃手だよ。


そう彼に告げて、孤月を抜く。まだ共有されたままの出水君と米屋君の視覚に集中しながら、私は走りだす三雲君に合わせて一緒に走った。

今度こそ、助けないといけないから。


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