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赤坂さんは、強かった。
迫ってくる新型の近界民にも果敢に攻撃する姿、グラスホッパーで撹乱させて、僕たちに攻撃がいかないようにするその動き。さすがとしか言いようがない。
途中で合流したレプリカとの交戦だって。なんの打ち合わせもしていないのに完璧に動いてみせる赤坂さんが、格好良く見えた。
赤坂さんは、迅さんの指示でここにきてくれたらしい。
この前会った時、迅さんと仲が良さそうに見えていた赤坂さん。恋人ですか?なんて迅さんに聞いた時、あの人はめちゃくちゃに大爆笑しながらこう答えた。
「したいけど、無理かな」
その答えは、まだ中学生の僕には難しいものだった。
「あの人、俺のことなんて見えてないしなー」
「そう、なんですか?仲が良さそうに見えましたけど…」
「仲良しだよ、めちゃくちゃね。でも、赤坂さんは俺を見てないから」
「見てない…?」
どういうことだろう。赤坂さんが自分を見ていない、というのは。
そういえば、副作用を持っていると言っていた赤坂さんと話をした時。あの人は少しだけ寂しそうにその副作用の名前を言った。
瞬間記憶
なんでも忘れずに覚える副作用。
便利なようでいて、実は不便だろうそれ。覚えることというのは、ある意味呪いのようなものだ。忘れることができない、忘れたってまた思い出せばいいのにそれができない。
あまりにも、悲しいなと思ったのだ。
それを言った時、赤坂さんは僕の目をじっと見つめていた。
黒いその瞳が、何かに揺れていたのを僕は覚えている。
「…!!!」
三輪先輩に腹を蹴られた。
赤坂さんが僕の名前を呼んで、三輪先輩を押さえつけようと動いてくれた。
「他人に縋るな…!!」
千佳を守ってほしかった。僕の言葉に三輪先輩は怒りを示すと、赤坂さんの手を振り解いた。
走り出す三輪先輩を、ふう、とため息をつきながら見た赤坂さんが行くよ、といいながら僕の手を引っ張った。
基地はもうすぐそこ。赤坂さんが走り、基地の前にある黒い穴に向かって孤月を抜いた。その時。
「目標捕捉」
空間に穴が出てきて、赤坂さんの足に攻撃が刺さった。
「赤坂さん!」
「大丈夫!逃げて!」
赤坂さんはトリオンが漏れている足を振り切り、孤月をふるった。足にグラスホッパーを出現させて、ワープをする女に攻撃を当てる。
またグラスホッパーが赤坂さんの足元に出現し、空間を何度か移動しながらこっちにやってきた。鮮やかな舞い方だった。
「逃げるよ!三雲君ダッシュ!」
「は、はい!」
「逃さないわ」
追ってくるワープ使いの攻撃。どこにいても先回りされるワープに、赤坂さんが何度も予想をつけては攻撃するも当たらない。
僕は、一体何をしているんだ…!
「諦めなさい、悪あがきは好きじゃないの」
地面から現れた女に、赤坂さんがまた攻撃をする。あまりにもワープが正確過ぎて、何かに気づいたように赤坂さんが僕の方を振り返った。
「ちっ、発信機」
「気づくのが遅かったわね」
僕の腕に突き刺さっていたものを見て、舌打ちをする赤坂さん。
「いや、そうでもないようだ」
その時、巨大化したレプリカが上から落ちてくる。間に合った。追いついたらしい。
赤坂さんがジャンプをし、ワープ使いの女に飛びかかる。キューブを抱えながら彼女の名前を呼べば、赤坂さんがくるりと空中で回りながら、孤月を二本に増やし、鞘から抜いた。
その時。
僕の隣からワープの穴が出てきて、レプリカを、突き刺した。
レプリカが、やられた。半分になったレプリカを抱える。まだ動いてる巨大化したレプリカが僕を援護しながら攻撃をする。それを見てくれた赤坂さんが、わざと瓦礫を壊してあたりに煙幕を散らしてくれた。
その瓦礫の中に隠れる。赤坂さんはいまだに、戦ってくれていた。
その姿を見ながらどうしようかと考えていた時、半分になったレプリカが僕に話しかけてきた。
「マーカーは外した。入り口についてからドアが開くまでおよそ20秒。その間人型の攻撃を凌がねばならない。あのお嬢さんが時間を稼いではくれるが、おそらくそれだけじゃ足りない。
オサム、一つ、提案がある」
続いたレプリカの言葉に、僕は覚悟を決めた。
「赤坂さん、僕が走ったら、援護お願いできますか…僕のことは無視でいいです」
内線にそう声をかける。
きっと赤坂さんは迅さんに、僕を守ってくれと言われたんだと思う。離れるなと。
じゃないと、こんなに戦力のある人が戦線から離れて僕のところにはこない。赤坂さんが、慌てて何かを言おうとした。けれど僕は続ける。
「お願いします、赤坂さん。赤坂さんには人型の相手をお願いしたいです。僕にはできない…でも、赤坂さんならできるから…!」
僕は強くない。強くないからこそ、強い人の足を引っ張りたくない。
この人は僕を守るだけじゃなくて、他の人も、それこそこの基地だって、千佳だって守れるだろうから。
多分、レプリカのことだって守ることができたんだ。赤坂さんの足を引っ張っているのは、僕。
「そ、れは…」
「お願いします…!」
僕の言葉に、赤坂さんが黙ること数秒。そして分かったとつぶやくと、赤坂さんが動き出すのが見えた。素早い動き、やっぱりこの人は強いんだ。
「走って三雲君!」
「ありがとうございます!」
走れ。走れ。走れ。赤坂さんが、迅さんが、烏丸先輩や出水先輩、米屋先輩、緑川、空閑が、ここまで守ってくれたんだ!
僕が千佳を、守らないと!!!
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