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嫌だった。目の前で倒れる三雲君に、血の気がひいた。だから言っただろ迅君のいう通りに離れちゃダメだった。三雲君を守れたのは私だけだったじゃないか。あの場にいたのは、私だけだったのに!
三雲君に何を言われようと、私は彼から離れちゃいけなかった。覚悟を決めたような声で言われてしまったら、そこから弟を思い出したら、駄目だったのに。
三雲君が、あの空閑君のお目付役だという黒い物体、レプリカを投げた後に、すぐにシールドをかざせば間に合ったはずだ。彼が換装体をオフにして走った時に、すぐにでも自分の孤月を外して全力で庇えばきっと。
「三雲君!!!!!!」
血だらけになって倒れてる三雲君に走り寄る。最悪だ。また私は、誰も救えなかった。
空が晴れた。近界民が去っていったのだろう、青い空が広がっている。
「赤坂さん!」
「米屋君、早く、早く運んであげないと!」
「うぉ、落ち着いて赤坂さん…!」
上から降ってきた米屋君が私のところにやってくる。血がひどい彼を見て、ヤベェなと言った彼の胸元を掴んで揺らしまくれば、米屋君は落ち着いて、と私の手を握って胸元から外した。
「傷口だけ縛って医務室運びましょ。病院よりはえーわ」
「分かった…!」
私よりも全然冷静な米屋君が、私の頭をポンと叩いてきた。年下の高校生に宥められるなんて私は全然ダメじゃないか。落ち着け、落ち着け。三雲君の制服のネクタイを解いて、一番血の量が多い箇所を結ぶ。その間に米屋君が担架を持ってきてくれた。
「せーのっ」
同時に彼の体を持ち上げて、担架にゆっくり乗せる。早く医務室に運ばないと。
血を垂れ流して、目をきつく瞑っている三雲君の名前を呼び続けながら運んだ。三雲君、目を覚まして。
ごめんね、守れなくて本当にごめん。
私は今でも、全然弱いままじゃないか。
「お姉さん、来てくれたんだ」
大規模侵攻は、無事に終結した。三雲君だけが目を覚まさずに、死者も少数でおさまった侵攻。迅君には、これでもかというぐらいにお礼を言われたけれど、私は何もやっちゃいない。彼を守れと言われたのに、守り切れていない。
三雲君が入院している病院へ行けば、病室の外の廊下に空閑君が立っていた。目を瞑ったままの三雲君を眺めながら、空閑君は私にそう声をかける。
「三雲君は?」
「まだ目を覚まさないよ」
「そう…」
まだ一度も、目を覚ましていないのか。あの侵攻が終わってからもう2日は経っているのに。街もまだまだ瓦礫が残ったままだけど、警戒区域以外はやっと普段の街並みを取り戻してきていた。
「…お姉さん、修を助けてくれてありがとう」
空閑君が私の目を見てそういった。
助けた?私が?疑問ばかりが私の中をめぐる。彼の横に立ちながら、私は三雲君を見つめた。
あんなに管を入れられて、いまだに治療中の彼を見てどこが助かっていると言えるのか。
「助けてなんて…!」
「迅さんが言ってたよ、お姉さんがあの場にいなかったら、修は死んでた」
「はぁ…?」
「最高から2番目ぐらいの結末だって」
「これが…?」
これのどこが最高から2番目?
「私は助けてあげられなかったのに?」
「助かってるよ」
「三雲君は今も目を覚まさない」
「でも死んでない」
空閑君が私に近づいた。病室の廊下は、私たちの会話以外の音が一切ない。
二人とも口を閉ざせば、無音が広がるだけ。空閑君の大きな目が、私をじっと見つめてくる。
「落ち込むことないよ、お姉さん」
空閑君が、またそう言った。
何が?これのどこがいいというの?
彼の瞳を見つめながら、私は呆然と呟いた。
「私は何も、変われてない…」
助けてあげろと言われた。迅君に、私しかいないと言われたのに。
助けてあげたかったのに。助けてあげられなかった。
私はあの頃から、何も変われてない。
強くなろうと思った。次こそは、弟を守れるように。
だから忍田さんに弟子入りしたのに。
それなのに、私はずっと、弱いままじゃないか。
「つまんない嘘つくね、お姉さん」
空閑君の言葉に、目を開いた。
彼は依然として私のことを見つめたまま、透き通った瞳を向けてくる。
嘘?私がいつ、嘘をついたというのか。拳を握りしめる。震えが止まらない。私は昔も今も、全く変わらない弱いままの人間だ。
だから三雲君は助からなかった。
「お姉さんは強いよ。俺が保証する」
「君は何も知らないじゃない…!」
思わず出た大きい声が、廊下中に響いた。
慌てて口を閉ざす。空閑君は首を傾げて、私の顔を見上げた。
「お姉さんは、弱くないよ」
弱くない。
また彼はそう続けた。私のことをじっと見つめて、そう繰り返す空閑君が怖くなる。強くない。私は弱いのに。
逃げないと。
空閑君にごめんと謝って私は廊下を走った。
病院を出て、そのまままっすぐボーダーへと向かう。息が辛い。喉が痛い。それでも走った。
私は、弱い。
弱いんだ。強くなりたかった。
強くなって、次こそは家族を弟を守りたかった。
私を救ってくれた忍田さんに、強いあの人に弟子入りすれば強くなれると思ったんだ。
あの人は、私しか助けてくれなかったから。
あの人は、弟を助けてくれなかったから。
あの人は、家族を助けてくれなかった!!!
だから次は、私が弟を!
だから次こそ、私が皆を…!!
あの人じゃなくて私が!
あぁ、そうか。
私が恨んでいるのは、忍田さんじゃなかった。
「うぁああぁぁああああああ!!!!!!」
トリガーオン。
ミリタリージャケットが体に纏われる。手には孤月。グラスホッパーを足元に出現させて、私は司令室にいる忍田さんに向かって突進した
あんただ。あんたが全部悪い。あんたが!!!
「真琴…!?」
忍田さんが振り返る。私が大きく振りかぶった孤月を見切った忍田さんが、同時にトリガーを起動させて孤月でそれを受け止めた。
「赤坂君ここがどこだと...!」
「根付さん、今はいい!慶を呼んでくれ…!」
根付さんと鬼怒田さんの私を咎めるような声が聞こえる。オペレーターたちの逃げ惑う声も、叫び声も。
やっと大規模近界民が終わって落ち着きを取り戻してきた中だというのに、申し訳ない気持ちもあるけれど。
もうダメだ。無理だ。抑え切れない。
逃げてくれ、周りの人。残ってる理性がそう訴えた。
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