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赤坂真琴は、俺が思う中でも一位二位を争うほどの敏腕攻撃手だ。あの忍田のおっさんに弟子入りしていたのだから、それもそうだが、太刀川と戦ったとしても、その結果はわからないだろう。だが、それは孤月だけでの話なら、と付け足しておく。

「...で、おけ?カゲもいい?」
「...ん」

中高生しかいない自分の隊になぜ、年上の大学生を入れたのか。理由は特にない。あるとすれば、同じ副作用を持っている強いやつだったからだ。そうとしか答えられないだろう。

攻撃手は俺1人で十分ではあったが、孤月持ちの攻撃手、しまいには俺を筆頭にマイペースな奴の集まりの隊に冷静なやつが1人でもいれば、いいんじゃないか。と、荒船に言われたことを思い出す。

「よし、じゃあ今日のミーティングは終わり!ランク戦までにログ見直したりするから、隊室来いって言ったらくるように、特に隊長さん」
「気が向けばな」
「ゾエさんは心配だよ...」

泣きながらうっうっと言っているゾエにうるせーと一言言ったあと、俺は立ち上がりズボンのポケットに手を突っ込みながら歩いた。後ろで俺の名前を叫びながら「ちゃんと来るんだよー!」と言っている赤坂を無視して。



初めてあいつを見たとき。それは今でも覚えてる。
A級レベルの攻撃手が隊を探している、とは色んなところで聞いていた。隊を作るのかもしれない、なんて噂もちらほら聞いていた。

ブースの中でチクチクと刺さるモノを無視して、誰かと戦えないかと物色していたとき、あいつが話しかけてきたんだ。

「今からやんない?」
「あ?」

好戦的でも嫌な感じでもない。なんといえばいいのか、それは無だった。俺に挑むくせになにも感情を感じさせないのは、なかなかいない。俺は二つ返事でその挑戦を受け取り、戦った。

結果は3ー2で俺の勝ち。

「やっぱ強いね〜ありがと、楽しかったよ」
「お前、隊探してんだろ」
「ん?あ、知ってた?」

終わったあと、首を回しながら近づいてきたそいつにそう聞いた。ははっと乾いた笑いを見せたそいつに、俺は口を開く。

「俺の隊に入れよ」
「...ん?」

それが、あいつを隊に誘ったときの言葉だった。
ぽかんと口を開けていたあいつのとぼけた顔は、今でも思い出しては笑ってしまうほどだ。

だけど、すぐにあいつは了承しなかった。

「...うん、ありがとう。すこし考えさせてもらってもいい?」

その時に、初めてそいつの名前を知った。ついでに女の連絡先もその時に初めて携帯に付け足された。

入る隊を探しているのに、なぜ考えるのか。少なくとも俺の隊が嫌だからだという感情は感じなかったため、俺はすこし疑問に思った。他の奴らに聞いたりもした。
例えば、その時はまだ攻撃手だった荒船や、同時期程度に入隊をした辻などだ。攻撃手について聞くなら、同じ攻撃手。そんな考えがあったことは否定しない。

「赤坂さんを誘った?」

驚いたようにそう言ったのは荒船。キャップを脱ぎとり、汗を払うように首を振ったあいつはもう一度被り直すと俺の目を見た。

「で、反応は?」
「考えさせてくれ、ってよ」
「保留か...」

もうそろそろマスタークラスになるだろうポイントをちらりと見たあと、荒船はまた口を開いた。

「聞いた噂だけど、赤坂さんは忍田さんと険悪らしい」
「...は?」

あいつは忍田のおっさんの弟子だろ。険悪な関係になる必要性なんてどこにもねーんじゃねーのか。

「だから、忍田さん派閥じゃない隊に入りたいのかもな」

それを探ってるんじゃないのか。

周知の通り誰の派閥に入ってるわけでも、A級を目指してるわけでもない俺の隊は、あいつのお眼鏡にかなったようだったが、その時に感じた違和感というのは、今でも拭えることはできないままだ。

なぜ、自分の師匠と険悪な関係なのか。元からなのか、それとも、最近なのか。
それさえもわからないまま、俺たちは気づけばA級にもあがっていたのだが。
いつか聞いてやりてーとは、思う。


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