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ヒヨリ様をダンスパーティーに誘ってから、何故かフレッド達からの好奇な視線が増えた。理由はもちろんわかっているが。はっきり言ってうざい。

ヒヨリ様はアンジーやアリシアといつも一緒にこそこそと話をしていた。なんとなく聞こえてくる言葉の中には、ドレス、靴、髪型などダンスパーティーに関連するような単語が聞こえていた。いつも見ていた魔女洋装店の通販雑誌を眺めながら話しているから、確定はできるけど、それが俺と行くのはダンスパーティーの為の相談なんだと思うとなんだかむず痒い。

「お前らは背高いからいいよなーなんでも似合うし」

部屋でベッドに座り、フレッドとジョージがドレスローブを着てるのを眺めながら、リーが言った。俺もリーの隣に座りながら、楽しそうにポーズを取っている二人を眺める。ブラウンのベストにストライプ柄のシャツは、長身な彼らにはとても似合っていた。

「そう言うリーだって十分似合ってるぜ、そのスーツ」

リーは、薄い青色のジャケットを腕にかけて、シャツを着崩している。薄い青色は陽気なリーにとても似合っていた。
俺は足を組み、膝の上で頬杖をつきながらそんな三人を笑顔で見る。不意にジョージがにやりと笑って、俺のベッドの近くにハンガーで掛けられているドレスローブに指をさした。

「タイリーは着ねーのか?」
「1度試着はしてあるからな。皺になる」
「なるほど」

ジョージがこくこくと首を縦に振って、ジャケットを脱いだ。フレッドは未だにポーズを決めながら遊んでいて、それをリーが爆笑しながら見ている。爆笑はかわいそうなんじゃないかと思うが、フレッドは嬉しそうだからいいのかもしれない。

ジョージはそんな二人を苦笑しながら見て、そして俺の隣に腰を降ろした。人間三人分の重さを吸い取ったベッドは深く沈む。

「あれいい色だな、タイリーらしい」
「そうか?」

ジョージが笑顔を浮かべながら指をさしたのは、俺のドレスローブ。
灰色のタキシードに、黒のネクタイという三人のドレスローブに比べたら比較的シンプルなものだったが、夏休みの時、ヒヨリ様に「きっとタイリーにはこれが似合う」と言われて買ったものだった。その事をジョージに言えば、彼はさらに笑顔を深めて、俺の肩に手を置いた。

「この前はごめんな、タイリー。ずっとうやむやにしてたけど、俺も言いすぎたし、言っちゃいけないことを言った」
「いや...お前らは何も悪くないさ」

ジョージ達の悪いところなんて一切ない。今回の件は、全部俺が弱かっただけだ。むしろ逃げるなと叱咤してくれてありがとうと、お礼を言うべきだろう(素直に言ったらつけあがりそうだから素直には言わないが)。

「俺はお前達を親友だと思ってるよ。だから、言っておきたい」

ジョージにだけ言っていたつもりが、気づけばフレッドとリーも俺の話を聞いていた。フレッドは俺の前にしゃがみ込み、笑顔で顔を見上げた。シャツを脱ぎシャワーを浴びに行くつもりだったのだろう、フレッドはほぼ全てのボタンを開けっ放しにしている。俺は少し苦笑を浮かべて腕を伸ばし、少しでもとそのシャツを閉ざして、そして口を開いた。

「背中を押してくれてありがとう。きちんと、勇気をだすよ」

本音を言い合ったあの夜、俺は確実にこの親友達に背中を押された。一歩を踏み出すことから逃げ出した弱虫な俺に、真っ正面から怒鳴ってくれた。勇気を出せと。素直になれと。
1本しかない彼女の人生と同じく、まさしく俺にも道は1本しかなかった。彼女が本当の意味で、俺の隣にいない。そんな道しか歩いていけなかったのだ。
それでも、ホグワーツに来て出会った人達は皆、俺に勇気を出せと言う。逃げるなと言う。それも泣きながら、まるで自分の事のように叫びながら、彼らは、俺に勇気をくれた。

「...それがどんな結果でも、お前達は許してくれるか?」

だから、正直になろうと思った。セド、フレッド、ジョージ、リー、アンジーー、アリシア。ずっと側にいてくれた六人の親友の力があるんだ。俺もその期待に応えるべきだと思った。

膝の上で両手を組んで、そう問いかける。部屋はしんと静まり返っていた。こんなにも静かな部屋は初めてじゃないだろうか。どんな時でも賑やかな部屋にこの状況は似つかわしくないけれど、それでもこの沈黙はやけに優しく感じられた。
左からジョージの手が、右からリーの手が伸びて、俺の手に重なった。前にいるフレッドが、にこりと笑みを浮かべながら同じように手を置く。

「許すも何もねーよ、タイリー」
「俺達はいつでもお前の味方だぜ」
「きっと、大丈夫さ」

詳しいことを言わなくても、通じる三人に、俺は笑顔を浮かべる。どうやら、ここに通って5年の月日は伊達に濃く過ごして来た訳ではなかったようだ。
俺と同じように笑顔を浮かべてる三人に、あぁ、こいつらと出会えて本当に良かったと心から思った。










クリスマス当日は、学校中がざわついていた。大広間での昼食は早めに取るようにとの案内が出されて、生徒は全員一気に広間に詰め寄る。ヒヨリ様とともにのんびりとサンドウィッチなどを食べていれば、後ろから肩をトントンと叩かれた。振り向けば、そこにはセドが笑顔をで立っていて、片手を挙げていた。

「やぁヒヨリ、タイリー」
「おはよう、セド」

にこりと笑みを浮かべて後ろを振り向いたヒヨリ様を見たセドが、意味深な笑みを浮かべて俺を見る。それに対して両肩を挙げて無視すれば、セドは黙って俺の肩をポンと一つ叩くと「それじゃあ」と言って広間を出て行った。

「ヒヨリ、私たちも行くわよ」
「もう?」
「当たり前でしょ!!ほらほら、おめかしするわよ、ごめんなさいねタイリー」
「あぁ、大丈夫だ...」

まだ最後のかぼちゃジュースが飲めていなかったのか、むりやり手をひっぱられて連れていかれたヒヨリ様の手に、かぼちゃジュースを載せる。彼女はとても嬉しそうな顔をして俺を見ると、「またあとでね」と、少し恥ずかしそうに頬を染めた。俺は姿勢を正して立ち上がり、頭を下げる。ずっとお慕い申し上げていたお嬢様のパートナーとして、初めてパーティーに参加する。たとえそれが学校の主催のものだとしても、俺にとっては特別に感じられた。

「タイリー、緊張か?」

肩に腕を回してにやりと笑いながらそう言うのはジョージ(フレッドはアンジーにデレデレとしながら広間の入り口に向かって手を振っている)。

「...緊張?」
「一世一代だもんな、緊張ぐらいするって。俺も彼女と初デートした時かなり緊張したわー」
「お前らなげーよな、何年目?」
「4年ぐらい?」
「まじかよ!!」

リーとリーの彼女は、随分と長く付き合っているらしい。俺もジョージと同じように目を見開いて驚けば、リーが「ひでー」と笑いながら俺の背中を大きく叩いた。やっとアンジーから目を離して戻って来たフレッドも、同じように俺の背中に手を置くと、三人は声を揃えてこう言った。

「「「頑張れよ、王様」」」

今回ばかりは、そのあだ名で呼ばれるのも、悪い気はしなかった。










「なぁ俺のネクタイどこ?」
「知らねーよ」
「うわ、ボタン全部ずれてる」
「ははっばっかでー」

三人の言葉に呆れながら、部屋で一緒に着替えをする。黙って着替えられないのかと言ってやりたいが、同室6年目の常識として、黙って着替えをしているところを見たことは無いため、たとえ今日がクリスマスダンスパーティーだからといって特にやかましいわけでもなかった。どこまでも三人は通常通りで、俺だけが少し緊張をしているのだ。

全部着替えて、最後に灰色のタキシードを上に羽織る。鏡の前で、ネクタイがずれていないか確認して、上着のシワをとるためにぴんっと引っ張る。髪も寝癖はないし、大丈夫だ。どこからどう見ても、お嬢様の隣にいて恥ずかしくない格好をしているだろう。違うか?

「いいねぇ〜キモノ着てた時のタイリーも中々大人っぽかったけど、タキシード着てると余計だな」
「流石王様!!」
「今はどちらかというと王子様っぽいぜ」

そんな三人の軽口に笑顔で答えて、最後に俺は懐中時計を取り出す。シリウスが、クリスマスプレゼントにと贈ってくれたのだ。ハリーから俺やお嬢様の話を聞いていたのだろう。親も親戚もいない俺に、懐中時計を贈ってくれるような人間はいないから。いつか持つとしたら、それは自分で稼いだお金で買おうと小さい頃から思っていた。成人の象徴とも言えるそれを、まさかプレゼントとして貰う時がくるなんて。
手の中で蓋を開けて、中の時計盤を眺める。アンティーク調のそれは、1秒1秒しっかりと秒針を進めて、音を鳴らしていた。こんなに高価そうなものを赤の他人に贈るなんて。俺は思わず苦笑をこぼして、それを胸元のポケットにいれた。

「よっしゃ、行こうぜ。アンジーが待ってる」
「「「はいはい」」」

どこまでもアンジー主体のフレッドに付き添う形で、俺達は一緒に部屋を出た。









「よーアンジー」
「あら、フレッド。とても似合ってるわよ」
「アンジーもかなり綺麗だ」

恋人を見つけた者からどんどん離れて行く。大広間の入り口には色んな寮の人間がいて、遠くの方で彼女を見つけたリーが先に俺達から離れて遠くへ行った。そして次に、アンジーとアリシアを見つけたフレッドがでれでれの顔を隠そうともせずに、アンジーに近寄る。
アンジーはグラマラスな体型を隠そうともせず、むしろ見せびらかすかのようなタイトな真っ赤なドレスを身に纏っていた。アンジーが着れば、確かにそれはとても綺麗だった。

「よ、アリシア」
「はぁい、ジョージ。貴方のパートナーは?」
「もう少ししたら来るかな、多分」

アンジーの隣に立っているアリシアは、アンジーとは真逆のシフォンのドレスを着ていた。薄いピンク色のそれは、金髪で白い肌の人形のようなアリシアにとても似合っていた。ジョージとアリシア、そしてフレッドとアンジーがにやにやと笑いながら俺を見つめる。

「...なんだ?」
「なんだ、じゃないわよタイリー」
「ヒヨリー!!」

アンジーとアリシアが後ろを振り返りお嬢様の名前を呼ぶ。「オジョーと一緒にいなかったのか?」「恥ずかしがっててこっちに来てないだけよ」フレッドとアンジーの会話がどこか遠くの方に聞こえる。俺は、ただ一つの方を見ていた。

階段の上から恐る恐る姿を見せるお嬢様。アリシアが口元を押さえてクスクスと笑い、俺の隣ではフレッドとジョージが同時に口笛を吹いた。

薄い黄色の、ワンショルダーの長いドレスを着たお嬢様が、一歩ずつ、階段を降りる。いつもは流している肩下まである髪も、アンジー達にやってもらったのか、綺麗に結われていた。顔まわりに残ってある髪がふわふわと揺れていて、ほんの少し頬を染めたお嬢様が、俺の前に降り立つ。ゆっくりと彼女の目に目を合わせて、俺は口をひらいた。

「...ヒヨリ様...」
「...ん?」

お互いに目は離さずに、口を開いたり閉じたりと繰り返して、俺はやっと笑顔をうかべる。今までだって何度もお嬢様のパーティーに付き添っていたのだ。何回も、彼女のドレス姿や正装姿も、綺麗に着飾っている姿も見てきた。豪華なティアラや煌びやかに光るネックレスも無いのに、どうしてだろうか。

今日のヒヨリ様のドレス姿が、一番綺麗に輝いて見えた。

「...とても、お綺麗です」

彼女の目に毒な白い肌が露わになっている。肩を見るのはやめて、彼女の目をじっと見つめてそう言えば、お嬢様は口角をゆっくりとあげて、目を伏せた。

「...ありがとう。タイリーも、とても格好いいよ、似合ってる」

そう笑顔で、俺の顔を見上げたお嬢様。俺は思わず、顔が赤くなりそうになるのをこらえるために、口元を片手で覆い顔を横に逸らした。


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