21

タイリーは誰よりもヒヨリを大切にしてる。5年間一緒にいたんだ。ずっと共に過ごしてきたからわかる。そんなこと、俺たちの間じゃ周知の事実だ。

だけどきっと、好きだという気持ちだけで動けるほど、この二人は俺たちみたいに簡単な立場にいるわけじゃない。普通の生徒みたいに好きな子ができて、その子にアタックして、告白して、付き合って、そして別れてまた新しい子を好きになって。そんな当たり前なことができるやつらじゃないんだ。

学年で一番優秀だからといって、この二人がいつも自信に溢れてるわけじゃない。
この二人こそが一番の臆病者で、お互いが大事だから、お互いに気づかないふりをしていたのかもしれない。
だからって、そんな二人をずっと見ていられるか?好きな二人が思いあってて、どうしてそれを見て見ぬふりができると思うのか。

初めて聞くタイリーの叫び声に、俺だけじゃなく誰もが息を呑むのが分かった。

「...だったら、助けてやる」

きっとどこよりも静かなんじゃないかというほどの談話室に、ジョージの声が響き渡った。
ジョージはソファーの近くをはなれて、ゆっくりゆっくりとタイリーの元に近づいた。

「だったら俺達が助けてやる。力を貸してやる」

俯いているタイリーの肩に手を置いて、静かにジョージはそう言った。タイリーはその顔を上げて、ジョージの目を見つめる。

「どうして...」



どうしてそうまでして、俺達に構うのか。



タイリーの顔に言葉をつけるなら、そうだろう。
いつものタイリーらしくないその顔に、俺もリーも顔を見合わせて、そして首を頷いて一緒に近づく。
俺はジョージの隣に立って同じようにタイリーの肩に手を置いた。

「どうしても何もないだろ、タイリー」
「フレッド...」

俺とジョージはしっかりとタイリーに目を合わせて声を出す。交互にでる言葉は、俺達二人共が思ってる同じ気持ちだ。

「俺達は親友だ」
「相棒だ」
「家族だ」
「今迄すごしてきた5年間はなんだった?」
「お前にとってちっぽけなものだったのか?」
「なぁ、リー」

隣に立つリーの名前を呼ぶ。
リーはタイリーの顔をじっと見上げて、泣きそうな顔で口を開いた。

「俺たちは親友だろ、タイリー。ずっと一緒にいたじゃないか」
「時にはベッドを共にして」
「時にはシャワーも一緒に浴びたよな」
「暇な時間は一緒に学校探検もした」

まだ入学したてだった時、俺達二人がクィディッチの練習で疲れ果てた時、悪戯グッズについて考えた時に、抜け穴や隠し部屋があるんじゃないかって興奮しながら探検をしてる俺達を、なだめようとして結局一緒に出かける意外にも少年らしい所を見受けられた時。

今迄あった沢山の出来事を思い出す。
5年間だ、5年間も一緒にいた。その時間は簡単には言い表せられないものだ。
沢山の思い出を、感情を、気持ちを、共有してきた。タイリーと、タイリアナ・シェバンと一緒に。

「それでもまだ、どうしてと言うのならタイリー、お前はヒヨリの事だけじゃない、俺たちのこともわかってない」

ジョージが、はっきりとした口調でそう言った。

「...難しいことは無しにしましょう。家の身分とかしがらみとか全部なしで。あなた達二人につきまとってるその...純血主義も全部無しにして」

アンジーがそう言って、一歩踏み出した。アリシアも同じように、アンジーの隣に立ちながらこっちを見ている。

「タイリーはヒヨリを好きかどうか。私たちにたいしての好意のようなものじゃなくて、一人の男として陸奥村ヒヨリを愛してるかどうかよ」

その言葉を聞いて、タイリーは目を見開いた。アリシアとアンジーも、俺たちの隣にたちタイリーを真っ直ぐ見据えるように、立ちふさがる。自分より頭何個分かひくいはずの二人なのに、キッとした目で見上げられれば、さすがのタイリーも内心ではオロオロしてるに違いない。

タイリーは何度か口を開いたり閉じたりと繰り返したあと、俺たち一人一人の目をじっくりと見て、そしてようやく口を開いた。




「...愛してるに、決まってる」




タイリーのその言葉は、俺たちがずっと聞きたくて仕方なかったタイリーの本音だった。

タイリーは吐き出される感情を止める術を知らないのか、今迄溜めていたものを全てさらけだす勢いで言葉を紡いだ。
涙が流れるタイリーの肩を掴む手に力を込める。タイリーはそれさえも振り切る勢いで、声をあげた。

「ヒヨリ様を愛してる...誰にも渡したくないさ!!婚約者なんて殺してやりたかった...!!何回だって思った!!好きな人が望まない結婚をするというのに、何もできない自分が腹立たしい...!!見て見ぬ振りしかできない自分自身の無力さに、吐き気がする!!」

下唇を噛み締めながら、拳をわなわなと震わせて、声を震わせてタイリーは叫んだ。その頬に流れる涙が、全てだ。
そんなタイリーが見ていられなくて、俺とジョージはそっと、タイリーの背中に腕を回した。タイリーの額が俺の肩に当たる。隣に立つリーはタイリーの手に触れて、そのきつく握り締められた拳をほぐそうとしていた。

「一人じゃ無力でも、お前にはヒヨリがいる」
「そしてお前らには俺たちがいる」
「苦しいことは分け合おうぜ、タイリー」

優しく、声をかける。いつだって味方になる。いつだって、二人の事を見守ってる。
いつだって、二人が大好きだ。だからこそ、なんだってしてやりたかった。
アンジーとアリシアが、ジョージの隣から腕を伸ばして、タイリーの肩をぽんっと叩く。

「5年間よ?5年間も一緒にいたのよ。苦しい時支え合わないで、何が仲間よ」
「貴方達二人の幸せが、私たちの幸せにもなるのよ」

アンジーとアリシアも泣いてる。鼻をすすりながら、それでも何度も何度もタイリーを支えるように優しく背中をさすってる二人と同じように、俺もジョージもリーも、タイリーの背中に手を置いた。肩が濡れる。タイリーの涙が、流れてた。








あのあと人が入ってくる気配がしたから、タイリーを無理やり引っ張って部屋にいれた。どうやら泣き疲れたのだろう、タイリーはぐっすりと俺の胸の中で眠っていて、そのままベッドに横にさせた(ジョージが女かよと言ってた)。

あんなタイリーを見るのは初めてだった。いつでも冷静沈着な俺達の自慢の親友は、やっと長年溜め込んでいたものを吐き出せたようだ。正直になれよって何回も言った。いつか素直に気持ちを言うだろうと思って6年目、それでもまだ自分自身は違うと何が違うんだかわからない言い訳をしていたタイリーが、やっと素直になったんだ。

「おいフレッド、広間行くか」
「あー...タイリーはまだ眠ってるけど」
「...あとで適当に何か持ってきてやろうぜ」
「だな」

ジョージとリーが、タイリーのベッドの近くでしゃがみながらタイリーの顔を眺める。王様だなんだとよばれてるけど、こいつの寝顔はまさしく天使だ。まだうっすらと残ってる涙の跡を眺めて、俺は立ち上がった。リーとジョージも俺と同じように立ち上がって、ローブを着た。もうそろそろクリスマスだ。一回でも寮を出れば、普通に寒い。

息を吐けばうっすらと白くなる息に16にもなってまだ興奮しながら廊下を歩いて、広間に入る。広間には、アンジーとアリシアの隣にオジョーが座っていた。俺たちに気づいたオジョーが手を振る。

「よ、オジョー」
「タイリーは?」
「あー...あいつは寝てる」
「そうなの?...珍しい」

べつにやましいことがあるわけでもないのに、どう返事をすればいいのか困って眉をひそめてれば、ジョージが代わりに答えてくれた。その言葉に同意するように首を縦に振って、そうそうといえば、オジョーは若干不思議そうにしながらも首を縦に振った。

アンジー達の前に座って、かぼちゃジュースの入ったゴブレットに口をつける。どうも全員そわそわしている。そりゃそうだ。滅多に見れないタイリーのあんな姿を見たわけだし、ほぼほぼ喧嘩といってもいいほどの言い合いをしたのだから。俺なんて最初に杖を構えてたからな。
そんな俺達の態度に気づいてるはずなのに、オジョーは何も言わずにいつものように笑顔を浮かべてソーセージを食べていた。こう言う時、こいつって本当にいい女だよなって思う。

その時、オジョーが顔を上げて笑顔で手を振った。その笑顔を見れば、すぐにわかる。タイリーが来たのだろう。
俺たちは全員一回顔を見合わせて、どうする?と視線で会話をした。振り返りたい。顔を上げたい。でも今タイリーを見たら、憤怒の顔が見れそうだったからやめた。きっと般若だ。去年日本に行った時に見た般若だ。

「ヒヨリ様、少しよろしいですか?」
「んー?」

タイリーは俺とジョージとリーの後ろに立ち、オジョーに向かってそう聞いた。前に座ってるアンジーとアリシアは顔をあげないように下を向いて、皿の上にある豆をフォークで転がしてる。俺たちも同じようにしていれば、タイリーがもう一度オジョーの名前を呼んだ。

「クリスマスのダンスパーティーの事です」

あれ、俺達をひっぱ叩くとかじゃないの?と、きっと俺たちの顔は満場一致で目がまん丸に見開かれてるだろう。
目の前にいるアンジーが顔をあげて、同じように目を見開いてた。なんだ?と思ってれば、アンジーが机の下で俺の足をどんっと蹴る。少し痛くて眉をひそめてなんだよと小さい声できけば、アンジーとアリシアがフォークで後ろを刺した。

「一緒に行く方をまだお決めになっていなかったら...俺に、ご一緒させては頂けませんでしょうか」

思わず、食べてる途中だったパンが喉をふさいだ。急に咳き込み出した俺を怪訝そうに見たオジョーが、もう一度俺の後ろにいるだろうタイリーを見て、そしてゆっくりとソーセージを咀嚼した。喉にごくりと飲み込んだ後、オジョーは今迄見たことのないような照れた笑顔を浮かべて、コクリと首を縦に振る。


「喜んで」


その言葉に、どれだけ嬉しさを感じたか。
それこそ前触れもなく突然興奮しだした俺達を、オジョーは変なものを見るような目で見てたが、そんなものは無視して、勢いよくタイリーに抱きついた。

お前もやるじゃねーか!!なんて、天文学を受ける塔ほどの上からの目線でそういえば、思いっきり強く頭を叩かれた。それでも、この二人のしがらみを取っ払えるなら、それぐらい甘く受け入れてあげようじゃないか。



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