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「タイリー、それ私が持つよ」
「いい、俺が持つ。長年の癖は直りそうにない」
「えー...」
クリスマスダンスパーティーが終われば、第二の課題への関心が強まっていった。ざわざわと色めき立っていたホグワーツも、いつものような厳かな雰囲気が戻ってくる。つまりは、今までのはクリスマス限定の恋人だらけだった、ということなのだけど。
そんな僕の視線には今、あるカップルがいた。廊下の窓側に立ち止まりながら、お揃いの黒色の髪に赤色のネクタイを同じように締めている男女。僕だけじゃなくて、彼等の友達が後輩が、もしかしたらホグワーツの生徒たちが(言い過ぎかもしれないけど、でもそれぐらい)心待ちしていたその二人の姿。
いつでも仲よさそうにしてはいたけど、今の二人には今までとは違う雰囲気が纏わりついていた。
「やぁ、タイリー、ヒヨリ」
「あ、セドリック」
「セド」
教科書を何故か多く持っているタイリーの腕に、手を置いてニコニコと笑っているヒヨリ。この笑顔が、心の底から笑っている笑顔だってこと、彼女たち二人をずっと見てきた人ならわかるだろう。
僕も思わず緩みそうになる頬に筋肉を集めて、二人に近づいてヒヨリに声をかける。とても申し訳なさそうな声でね。
「ヒヨリ、悪いけどタイリー借りてもいい?」
「うん、いいよ。第二の課題?」
「あぁ」
「学年トップのタッグなんて他の選手にひどいんじゃないの?」
にやりと、意地悪そうな笑みを浮かべるヒヨリに、同じように笑い返す。学年1位と2位のカップルの方が、目を引く案件だろうに。
「俺の意見は無視か?」
「じゃあ、来ない?」
「そうとは言ってない」
「タイリー、教科書。私寮に戻るから頂戴」
「いいよ、重いだろうからあとで持っていく」
「...セドリックからも何か言ってくれない?」
二人のそんなイチャイチャを見せつけられるのもある意味で新鮮だ。肩を竦ませてその返事を無視すれば、ヒヨリが少し呆れたように息を吐く。そして僕とタイリーに手を振って、廊下の奥に歩いて行った。そんな彼女の後ろ姿を見て、僕とタイリーも反対方向に歩き出す。
「おめでとう、タイリー」
何が、とは言わない。タイリーはクスリとひとつ笑みをこぼして、二人分の教科書を抱えた片方の腕を挙げた。
「それで?何か案は出てきそうか?」
「いや、開けても嫌に耳につんざく悲鳴が煩くて。多分何か言ってるんだと思うけどね」
やけにでかい金色の卵を持ちながら、僕とタイリーは誰もいない空き教室に入った。第一の課題の時は、よくここで二人で決闘の練習なんかしていたな。あの時の練習のおかげで、第一の課題はドラゴンと戦えた。
机の上に腰をかけて(監督生らしからぬ格好で申し訳ないけど)、二人で金の卵を眺める。
「煩いのであれば、何かで塞いでみるとか?」
「あー...毛布で塞いだりはしたよ。でも無理だった」
「そうか...」
一度この金色の卵を開いた時、寮の人全員に非難されたことを思い出す。本当にこの上ないほどに申し訳ないとは思ったけど、はっきり言ってあれは僕のせいではない。
卵を転がしながら、何か物がはいってる訳ではないな、と独り話すタイリーに相槌を打ちながら、ゆっくりと夕日が落ちていく様子を窓から眺めた。
「それ、溶けたりは?」
「どうだろう。お湯とか?」
「熱湯をかける、もしくは沈ませる、とか」
「あー...やってみようかな。トイレの洗面台でできるかな?」
「セド、俺たちは監督生だろ?」
タイリーの言葉にはっとする。僕の親友はどうやら学年1位の秀才という名前どおり人間らしい。もちろん、4年目にもなれば彼の切れる頭なんて承知の上だったけど。
「監督生用のお風呂...?」
「今夜にでも行こう」
この誰もいない教室でこんな話をしているのを、もしも誰かに見られたら終わりだな。思わずそう思いながら笑えば、タイリーは何か変なものを見るような目で僕を見た。僕は肩を竦ませて机から立ち上がる。
机の上に転がしていた卵を持って、少し僕より背の高いタイリーの顔を見上げた。
「それじゃあ後で」
「あぁ」
本当は僕もタイリーも、なんだこの変な約束、って思ってるけど口には出さないで、僕たちは一緒にお風呂に入る約束を取り付けた。
「ハリー!!」
次の日、無事に第二の課題のヒントがなんなのかわかった僕は、廊下でMs.グレンジャーと話をしているハリーを見つけた。タイリーに、できればハリーにも伝えてあげてくれと言われていたからね。
もちろん、そんなこと言われなくても第一の課題の時、ドラゴンについて教えてくれたハリーに何も言わないなんて選択肢はなかったけれど。
「セドリック!!」
「調子は?どうだい?」
「絶好調さ」
言葉とは裏腹に少し元気のなさそうなハリーに、僕は苦笑いをこぼす。2月といえど、イギリスは真冬真っ只中。やはり寒いもので、僕はマフラーをもう一度きつく締め直し、ハリーに言葉をかけた。
「少し元気なさそうだね...それなら、五階にある監督生用のお風呂、オススメするよ」
「...うん?」
「まだ見回りをしてる19時なら、誰も使ってない。使用中の札を掛け忘れないようにね」
「セドリック...?どういう事?」
「金色の卵と一緒に浸かるといいよ」
不思議そうな顔を見せるハリーの声を全て無視して、最後に彼の肩をぽんと叩くのも忘れずに。僕は言いたいことを伝え終わると、踵を返して廊下を歩く。実はまだ授業が残っているんだ。それにヒントを伝えたはいいけど、僕自身どうやって水の中で1時間過ごすかは考えていないから。まずは自分の心配もしないといけない。
教室に着けば、もうどうやら殆どの生徒が席に着き先生が来るのを待っていた。慌てて空いている席、つまりタイリーの隣の椅子に座り、教科書を置いた。
「伝えてきたよ」
「ありがとう」
「タイリーがお礼をいうんだ?」
思わず笑えば、タイリーも「それもそうか」と言いながら、口角をあげて教科書を眺めていた。そんな彼をちらりと見て、図書館から借りてきた呪文集を膝の上で開く。授業中の内職は控えておきたい立場だけど、本番が近い今、そんなことを流暢に言ってられる場合ではない。
「...タイリー」
「なんだ?」
小さい声で、隣にいるタイリーに話しかける。彼は僕の内職を見て見ぬ振りをして、教科書を眺めていた。と思ったけど、彼の教科書の中にも呪文で縮められた小さな本があって、どうやら同じように内職をするつもりだったようだ。
「これ、どう?」
僕が指を指したのは一つの呪文。使えるかはわからないし、使えたとしても1時間もつかも分からない。さらに、地上で使えても水の中では使えないかもしれない(そうならないように練習をするけれど)。
「泡頭呪文か...」
タイリーはそういうと、僕と同じように教科書で隠してる本のある部分に人差し指を置いた。少し体を動かして、本の中を確認する。そこに書かれていたのは、僕が指でさした呪文と同じ"泡頭呪文"のスペルが書かれていた。
「うん。考えることは一緒って事?」
少しからかうようにそういえば、タイリーは肩を竦ませて僕の腕をパシンとたたいた。
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