26

マクゴナガル先生に呼ばれて、ハーマイオニーとロンを連れて校長室に向かった。その時に、確か何かを言われたことは覚えてる。安全な魔法だから、安心して眠ってほしい、だとかなんとか。それでも記憶が曖昧なのはなぜだろうか。きっとダンブルドア先生の事だから、強力な魔法でもかけられたのだろう。







「...はっ!!」
「タイリー!!セドリック!!」

ヒヨリの声が聞こえた。慌てて周りを見れば、俺は湖の中で制服姿のままびしょ濡れの状態でいた。隣にはセドがいて、彼は俺の肩に腕を回して湖の中で手を動かしながら、近くにある桟の方に向かっていた。
なんとか俺も、彼の支えになろうと自力で体を動かして向かう。そこには、ヒヨリが大声をあげながら手をこっちに伸ばしていた。彼女の後ろにはフレッドとジョージ、リーもいる。タオルを持って、早くこっちにこいと手招きしていた。

「タイリー、大丈夫かい?もうすぐだ!!」
「あぁ...!!」

なんとか手を伸ばして、引き上げられる。服がこんなに水を吸い込むとここまで重くなるとは。一度ぐらい経験しないとわからないものだ。

「タイリー、はいタオル。ちゃんと拭いて」
「ありがとう、ヒヨリ」

大きいバスタオルを頭から被せられる。あまりにも冷たくて、少し震える身体を気遣ってか、ヒヨリが俺を抱きしめた。きっといつもなら双子達が騒ぐだろうに、今回は俺の身体を深刻に心配でもしているのか、真面目な声音で「もっとタオル持ってくるか」などと言っている。

「ヒヨリ、君も濡れるから...」
「でも...あぁタイリーすごい濡れてる、ちゃんと拭かないと...セドリックは?大丈夫?」
「あぁ、タオルを貰った。僕よりタイリーの方が長く湖の中にいたから彼を気遣ってあげて」

上手く現状が把握できていない。一体何がどうなって俺は湖の中にいたのか。思い出そうとしていたた時、リーが徐にセドに向かって口を開いた。

「セドリックにとっての宝がタイリーって事か?」

ああ、そうだ。確かに俺だけじゃなくロンもハーマイオニーも一緒に眠らされていた。
マダム・ポンフリーによって渡されたゴブレットに口をつける。暖かい水が(つまり白湯)喉を伝って奥に流れ込み、体を温めた。

「宝というより大事な人って所だった。他にもいたよ」
「あぁ、ロンとハーマイオニーもいた」
「まじかよ、ロニー坊やが?」

自分の弟が湖の中にいたら心配だろう。同情するなと思い顔をあげれば、双子はどちらかというと楽しんでいて「あいつ溺れるぞ」「そうだ。浮き輪を用意しよう」などと笑っていた。(日本で遊んだ時にみた浮き輪をまだ覚えていたのか)

「それにしても...」

その時、俺の胸元で口を開いたヒヨリの言葉が耳に届いた。なんだろうかと少し視線を下げて続きを促せば、彼女は俺とセドを交互に見て、また言った。

「セドにとっての大切な人がタイリーって...チョウは?」

その言葉に、思わずリーもフレッドもジョージも顔を固める。確かにその通りだと思って、隣でガシガシと頭を拭いているセドを見上げれば、彼は少し困ったような顔でこっちを見た。

「...なんだい?」
「おいおい彼女よりも男かよ」
「どうするんだよハッフルパフの王子様とグリフィンドールの王様が?」
「まさかの?」
「「カップルだなんて!!」」
「変な言いがかりはよせ」
「本当だよ...やめてくれるかい」

変な事を言い出す二人を、監督生らしく睨みをきかしてそう言えば、二人は肩を竦ませて呆れたように笑った。呆れたいのはこっちなのだが。
リーはそんな二人とは違う反応で、少しだけ楽しそうに笑って俺とセドを交互に見比べていた。

「需要はあるよな」
「ない」
「ないよ」

セドと同時に言葉を放つ。この3人には呆れしか思い浮かばない。首を横に振っていれば、ヒヨリがくすりと笑い声をこぼした。
その時、観客席の方がざわついた。湖の方を見れば、何故かロンと、ボーバトンの代表選手であるフラーの妹が湖の中にいて。ロンはここからではきこえないが何かを叫んでいた。

ハリーがいない。

「ハリー...!!」

まだ彼は湖にいるのだろうか。不安を抱えてよろよろと立ち上がれば、湖の中からハリーが浮かび上がった。いつの間にか救出されていたのだろうハーマイオニーが濡れた髪の毛を乱しながら、ハリーを引き上げている。俺たちも慌てて彼らのいる所へと行く。自分の肩に回っているタオルを取り出して、ハリーのそばにしゃがみ込みタオルを頭の上に被せる。

「ぅわっタイリー!!」
「よかった、無事だったんだな、ハリー」
「うん。タイリーも、無事で良かった。セドリックがすぐに君を助けてたよ」
「あぁ、知ってる」

順位的には1位であるセドのおかげで、他のある意味で囚われていた身である3人に比べれば、凍えていない。ハリーの手を握り締めながら彼を暖めようと必死のハーマイオニーの頭に手をおいて「君も無事で良かった」と言えば、ハーマイオニーは笑顔を浮かべて、頷いた。











第2の課題の結果は、ロンともう一人の女の子を助けたことが得点に大きく響き、一番最後に戻ってきたにも関わらずハリーが1位となった。そして続いてセドが2位。二人で、妥当な結果だと頷いていれば、ヒヨリに笑われたのは記憶に新しい。

さて、無事に第2の課題が終わったのも束の間、さすがに2月に湖の中に入るのは身体に酷なもので、気づいたら風邪を引いていた。

「大丈夫かよタイリー。オジョー呼んでくるか?」
「いや...大丈夫だ。彼女に移したら悪い」
「そっか...どうする?医務室行くか?」
「寝てたら治るさ」
「了解。なんか精のつくものを厨房から拝借してくるから、待ってろよ」
「あぁ」

朝から熱が下がらず、ベッドの中で唸っていれば、6年一緒の部屋で過ごしてきて初めて3人(特に双子)のここまで献身的な所を見た。
何かを持ってくるから待ってろと言って部屋を出て行く3人の後ろ姿を見送り、俺はもう一度布団をかけ直してベッドの天井を見つめた。ホグワーツに通って初めて風邪を引いたわけだが、風邪を引くのも当然だと思った。

精のつくものと言っていたが、悪戯グッズの食べ物を持ってこられたらどうしようか。こんなよくわからない不安を抱えるぐらいなら、やっぱりヒヨリに頼めばよかったと少し後悔した。

その時、扉がゆっくりと開かれてたくさんの果物を持ったフレッド達が入ってきた。思わず目を見開いたのは、その手の中に日本ではよく見かける明らかに白桃だろう桃があったからではなくて、なぜか黄色の寮の部屋にいるはずの人間がそこにいたからだ。

「なんで君がここに...セド」
「さっき、廊下を歩いてる時に会ってね。君が熱を出したって聞いたから連れてきてもらったんだ」
「大人数でいた方がタイリーも楽しいだろ」
「桃とかバナナとかたくさんあるんだぜ、今皮剥くから待ってろよ」

ウキウキと笑いながら机を引っ張り(床に擦り付けるからひどい音が響いた)、その上に果物を置いてどこから取り出したのかナイフを手にして皮を剥き始めるフレッドとジョージに苦笑を向ける。
リーも同じように苦笑いを浮かべながら俺の背中に手を伸ばしてベッドから起こしてくれた。

「わりーなタイリー、そっとしとこうぜって言ったんだけどさ」
「いや...大丈夫だ。あの二人の事はもう分かる」

風邪を引いた人間をおとなしくさせておこうとはきっと思えない人種だろう。むしろ明るくパーッとした方が風邪は治ると思っていそうだ。もう6年も一緒にいるんだ、特別何かを思うわけじゃない。

「で、セド、君のその手には何があるんだ?」

何度も手から桃を落としそうにしながらナイフを握っている不器用なフレッドの手から、桃を受け取ろうとしていたセドにそう聞けば、彼は片方の手を出して、その中にあるものを俺のベッドに向かって投げた。

「なんだよそれ?」
「お前ら日刊預言者新聞読んでねーのかよ?」

ベッドの上にばらまかれた新聞を広げて見る。フレッドの怪訝そうな声にリーが突っかかった。

「僕とタイリーの事がかかれてる」

桃の皮を剥き終えて、丁寧に1つ1つカットしながらセドが口を開いた。
俺とセドの事が?なんの事だろうかと思いきちんと新聞を読んでいけば、そこにはこう書かれていた。

ーーホグワーツ1のハッフルパフの王子様、セドリック・ディゴリーが第2の課題で連れ戻してきた大切な宝物は、なんとグリフィンドールの王様で知られるタイリアナ・シェバンだった。誰もが見惚れる顔を持つ二人の禁断の関係に、その場にいた観客は皆同じように驚愕の表情を浮かべていた。

俺とセドが湖の中から出てくる様子から、桟に引き上げられる所までばっちりと映っている。

「低俗だな」
「ぶはっ」
「流石王様、熾烈なお言葉」
「からかうな」

一言感想をそう言えば、もう読んでいたのだろう知った風な顔をしていたリーが噴き出し、桃を1つ食べていたセドがそう言った。その桃をなんで風邪をひいている俺よりも先にお前達が食べているんだというツッコミは無視して、フレッドから渡された桃を口に運んだ。

「この新聞ってどちらかというと娯楽的なものだしな」
「信じてる奴なんていねーって」
「そんな事より、ヒヨリが映ってなくて良かった」

桟から引き上げられた所をもしも写真に撮られていれば、危なかった。日本にいる陸奥村家の人達にはバレないように過ごすのが俺と彼女の守らなければいけない唯一の誓いだったからだ。新聞をセドに投げて返して、机の上に置いてあるバナナの皮を剥き、食べる。

「それはな。むしろセドリックに感謝しとこうぜ」
「禁断の関係を結んでくれてありがとう、ってな」

フレッドとジョージが顔を合わせながらニヤリと笑う。感謝はしないが、確かにこっちで良かったのかもしれない。

フレッド(もしくはジョージ)が言った通り、誰もが信じないだろうと思い込み、果物をできる限り口に入れてその日を過ごし、次の日には熱が下がったと安堵したのも束の間。

どうやらあの低俗な新聞の内容を信じている人間がいるようで、廊下を歩くたびに意味深な視線を(主に女子から)たくさんむけられて、治った風邪もまたぶり返しそうだった。




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