30
あり得ない。今目の前で起こっている現状がわからない。
魔法で操られたクラムから助けてくれたセドリックとともに、僕と彼はトロフィーに手を触れてどこかに飛ばされた。そこは、いつかの夢で見た墓地で。
早くポートキーである優勝杯に触って戻ろうとセドリックに言おうとした時、あまりに痛い頭痛が襲ってきて、僕はその場にうずくまった。その時に、誰かの足音が鳴り響き、こっちに向かって来るのを感じ取った。セドリックは杖を握り、僕の前に立った。僕を助けようとしてくれたのだ。その足音の正体−−−ピーター・ペティグリューに麻痺呪文を放ってくれようとした。
その時、緑の閃光が走り彼を襲った。"アバダケダブラ"、死の呪文だった。
「やめろ!!セドリック!!」
その緑に包まれながら僕からは見えない所まで、セドリックは飛ばされた。
僕をかばってあの呪文を浴びたセドリックの元に寄りたかった。今すぐにでも!!
それなのに、ペティグリューによって浮かばされて、そのまま後ろにある十字架に縛られて身動きができない状態にされる。
「やれ、今だ...!!」
どこからか嗄れた声が聞こえた。ペティグリューは、腕の中にある赤ん坊ほどのそれを前にある鍋に投げ込むと、何かを唱え始めた。ぶつぶつと呟きながら、まるで小さい頃に絵本で読んだようなそれ。
「父親の骨、知らぬ間に与えられん...。下僕の肉、喜んで差し出されん...!!うぁぁぁぁ!!!!!」
本当は目の前で広がる光景から目を背けたかった。ペティグリューは自分の手首にナイフを当てると、あろうことかその手首を鍋に入れたのだ。
「敵の血、力ずくで奪われん...」
その痛みに耐えながらなのか、苦渋の表情を浮かべてこっちを振り返ったペティグリューは、その包丁を持って僕に近寄り、右手の腕にその包丁を突き立てて無理やり血を掬いとり鍋にいれた。頭の痛み、腕の傷の痛みに、思わず悲鳴が出る。
「闇の帝王よ...甦れ、再び...!!」
鍋が燃え上がり、中からまるでエイリアンのようなものが出来上がると、それは徐々に人の形を模していき、黒いローブを身に纏った男が現れた。おどろおどろしいその雰囲気に、思わず竦みあがる。凝視してはいけないと頭では警報が鳴っている、それでも、僕の眼はしっかりとその姿を目に焼き付けていた。
鼻のないまるで爬虫類のようなその顔。ヴォルデモートだ。
目の前には、骨のような仮面を被った黒いローブを身に纏った人達が現れて、ヴォルデモートを囲んでいた。何かを話している。その中には、確かにいつか見たルシウス・マルフォイがいた。
早くこの縛り付けてるものを離して、戻らないと。力を入れようとするたびに腕の傷口から血が溢れ出した。痛みに耐えようと目を潜めて入れば、手首に巻きつけていた、ヒヨリからもらったブレスレットがそこに触れて、暖かい温度を解き放った。生暖かい。それでも不快なものではなくて、少しだけ心が落ち着いた。
「先程のりりしい青年はどこに行った...?」
その存在を無視していた所に、ヴォルデモートのおそらくセドリックのことを言っているだろう言葉に反応して、僕は思わず声を上げた。
「彼の所に近づくな!!」
「ハリー...あぁ、すっかり忘れておった。いたのだな...我が父の骸の上に...」
ヴォルデモートはゆっくりと歩きながら僕に近づく。
「皆に紹介するまでもあるまい。今や俺様同様有名になったようだからな。..."生き残った男の子"だと?デタラメがお前を伝説に祭り上げた。13年前、何があったのか本当のことを教えてやろう。俺様が何故力を失う羽目になったか...」
僕から一旦離れて、ヴォルデモートはまた演技かかった仕草でこっちを振り向いた。
「愛というやらの力だ。お優しいお母様は自分を犠牲にして究極の守りを授けた。俺様はお前に触れられなかった」
ヴォルデモートはそこまでいうと、目を見張る速さで僕にまた近づき、長い爪をもった指を僕の額にある稲妻の傷に触れた。
走る痛みに、悲鳴がでる。まるで楽しんでいるように笑いながら、ヴォルデモートは僕から手を離すと、拘束していたそれの魔法を解き「杖を取れ」と言った。
顔から倒れこむように地面に倒され、慌てて杖を探す。
殺される。僕を殺そうとずっと動いていたんだ。杖を持たないと殺されるのは明白だった。
決闘をしろと言われ無理やり腰を曲げて礼をされた後、"クルーシオ"と2回唱えられた。想像に絶するほどの痛みが身体中を襲い地面に背中を打ち付けるようにもがく。それでも、ここで気絶するわけにはいかない。ホグワーツに戻らないといけないのだ。早くダンブルドア先生にこの事を教えないといけない。
「良い子だ、ハリー。両親もさぞ喜ぶだろう。とりわけあの穢れたマグルの母親がな...!!」
「エクスペリアー...!!」
母さんのことを言われて、勝手に体が動いた。それでも、その呪文は効かなくてまた地面に転がされる。
「殺してやろう、ハリー・ポッター。破滅させてやる。今宵を境に俺様の力に疑問を抱く者はいなくなる。今宵を境に、伝説は変わるのだ。お前は苦痛のあまり殺してくれとせがみ、そして俺様は...」
転がっている僕の近くにしゃがみ込み、掌を見せるヴォルデモートは、その爬虫類のように不気味な顔に笑顔を浮かべた。
「その願いを聞き入れた、とな...?立て!!」
自分勝手なその話を言い終えると、ヴォルデモートは無理やり僕を立ち上がらせた。その瞬間に逃げようと走り、セドリックがいるだろう所まで行こうとすれば、後ろから呪文を叫ばれる。緑の光がちょうど石に当たった。
「後ろを見せるなポッター!!死の瞬間まで俺様を見ていろ!!その瞳から光が消えるのを見たいのだ!!」
石に背中を預けて息を整える。どうする。どうするべきだ。頭でぐるぐると色々な考えが回っている時は、僕の手首や足首にあるブレスレット達が同時に光を放った。僕のもってるアクセサリーは全て、ヒヨリがくれたものだ。彼女がくれた、守護魔法のかかったそれが暖かい色の光を放っていた。
その時「ハリー」と、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。慌てて視線を回し、その声の持ち主を探そうとすれば、その正体は案外近くにいた。四つん這いになりながら、ヴォルデモートから身を隠すようにゆっくりと動いているセドリックがいたのだ。
「セドリック...!?君、呪文を浴びたはずじゃ...!?」
「僕も、何が何だかわからないんだけど...とにかく逃げようハリー...!!」
「...あぁ!!」
セドリックは、杖と一緒にブレスレットの紐を握っていた。焼き焦がれた様に爛れているそれは、僕の手首にあるブレスレットと同じようにまばゆい光を放っていた。
守護魔法だ。きっと、ヒヨリかタイリーのどちらかの守護魔法が、彼を守ってくれたのだろう。
「ハリー・ポッター!!そこにいるのはわかっているぞ!!」
ヴォルデモートの声がまた響く。とにかく今は、ヴォルデモートの隙を狙って優勝杯を手にするしかない。僕は杖を握って立ち上がり、ヴォルデモートの前に立つ。セドリックの慌てた声が聞こえたが、今はこうするしかないだろう。
「受けて立つ...!!」
もう一度しっかりと杖を握り、その先をヴォルデモートに向けて叫んだ。
「エクスペリアームス!!!!」
「アバダケダブラ!!」
緑の光と赤の光が飛び散り、真ん中で衝突した。勢いが強く片手じゃもたない。突きつける風を無視して、両手で握りながら杖を構えれば、手首にあるブレスレットもその光と同調するかのように強い光を放ち、僕の手首を、手を優しく包んだ。暖かい。いつも、ヒヨリにしてもらっていた守護魔法と同じ暖かさだった。
その時、ヴォルデモートの背後から白い何かが3つ出てきた。
そのうちの1つは、ヴォルデモートの周りを飛び回っていて、2つは僕のそばにやってきた。
「ハリー、この繋がりが切れたらポートキーの元に急げ。父さん達で時間を稼ぐが長くはもたない。わかったね?」
眼鏡をかけた男性が僕に話しかける。父さんだ。もう片方の隣には、母さんもいる。
「大丈夫。君にかかってる守護魔法が、母さんが昔かけた魔法をさらに強くしてる。帰るんだ。いいね?」
ブレスレットがぶちぶちと言いながら千切れていた。そして空中を舞い始めて、ぐるぐると時計回りに僕の前で回っている。
「切りなさい。ハリー、大丈夫よ。切りなさい」
母さんの声が聞こえる。その言葉に泣きそうになるのをぐっと堪えて、何度か首を縦に振って頷き、無理やり杖をヴォルデモートから逸らして離せば、父さんと母さん、そして目の前にあったブレスレット(の残骸)が同時にヴォルデモートに向かっていった。
「ハリー!!」
「セドリック!!」
こっちに手を伸ばしているセドリックに手を伸ばして、掴む。セドリックが「アクシオ!!」と叫んでトロフィーを呼び戻すと、僕たちは瞬く間にその場から離れた。
頭に痛みが襲う。目をひらけばそこは、不気味な墓地では無くて。
迷路に入る前に見た、ホグワーツの会場だった。
prev next
ALICE+